『無声映画のシーン』 フリオ・リャマサーレス、(訳)木村 榮一

評価:
フリオ・リャマサーレス
ヴィレッジブックス
¥ 2,160
(2012-08-23)

この30枚の写真は、ぼくが切なく楽しい少年時代に帰る招待状だった――『狼たちの月』『黄色い雨』の天才作家が贈る、故郷の小さな鉱山町をめぐる大切な、宝石のような思い出たち。
誰もがくぐり抜けてきた甘く切ない子ども時代の記憶を、磨き抜かれた絶品の文章で綴る短篇集、待望の刊行!

著者が生まれ育ったスペインの小さな鉱山町・オリェーロス。
そこで撮られたふるい写真たちを介して、少年時代の思い出をもとに書かれた郷愁あふれる短篇集です。
まずしい町の住人や鉱山労働者、旅の芸人たちが織りなす小さな物語のかけらが集まりうつし出された、あらたなる町の情景・・・
ブリティッシュ・バーの古時計の前のテーブルも、
耳や手をしもやけだらけにしながら歩いた通学路も、
楽団がやってきて、連日お祭り騒ぎにわく町の様子も、
それらがいつしか忘れ去っていた私自身の記憶にかさなり立ち現れてくる不思議。記憶の底にうずもれた、色や匂いをともなって・・・。

何枚もの写真がひとつにつながり、いろいろな記憶がサクランボの実のようにくっつき合って筋の通った映画になり、時間がよみがえってくる。ときどきそうと気づいてびっくりすることがある。(中略)
記憶、とりわけ遠い昔の記憶は孤立したバラバラのシークエンスでしかないが、写真はそれと違って完璧な映画を見ているような気持ちにさせてくれる。

カタタタ、カタタタ、カタタタ・・・
映写機のまわる音だけが、かぼそくひびいてきそうな閉じられた昏い空間。
移ろうもの、束の間のものをとどめた写真のなかに、いまはどこにも存在しない人や場所、にどと戻らない時間が生きている――思い出を抱きしめ、遠い世界にしずかに身を沈めてゆくような、淡くなつかしい儚さが胸にせまってきます。

(原題『Escenas de cine mudo』)
Author: ことり
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『クライム・マシン』 ジャック・リッチー、(訳)好野 理恵 他

評価:
ジャック・リッチー
河出書房新社
¥ 882
(2009-09-04)

殺し屋の前に自称発明家が現れた。自分の発明したタイム・マシンで、殺害現場を目撃したという――表題作「クライム・マシン」、妻の消失に秘められた巧妙な犯罪計画を描くMWA賞受賞作「エミリーがいない」ほか、全14篇。軽妙な語り口に奇抜な発想、短篇ミステリの名手ジャック・リッチー名作選。

(原題『The Crime Machine』)
Author: ことり
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『ながいながいかみのおひめさま』 コーミラー・ラーオーテ、(絵)ヴァンダナー・ビシュト、(訳)木坂 涼

むかし あるところに、ながいながい くろかみの
パリニータという おひめさまが いました。

東洋的な魅力たっぷり、インドの絵本です。
パリニータひめの長い黒髪はそれはそれはみごとで、100人もの若い女たちがまいにちとかし、オイルをぬり、こうばしい香りの花や宝石で飾ります。ゆたかな髪は黒い川のようにかがやきますが、あまりの重さにおひめさまは長く歩くことはできませんでした。お城の窓から遠くの山をかなしそうにみつめるパリニータひめ。
とうとうパリニータは18歳の誕生日の前夜、お祝いのパーティーでのお着替えのさいに決心をして、秘密の通路からお城の外にぬけ出しました――・・・

ゆたかな心をもったおひめさまに、心洗われる清らかなおはなし。
その気高さ、慈悲深さはほとんど神話のようです。
かぼそい線で細部まで描きこまれたイラストは、ほんのりシックな色彩が月明かりに映えて、なんてきれい。きらきらとひろがるドレスも小鳥も野の花も草木も・・・すべてが上等のシルク布にほどこされた刺繍のように、美しく幻想的な世界をつむいでいます。
やがておひめさまは絵のなかからすがたを消してしまうけれど、煌びやかな景色のそこかしこに、彼女のたのしそうなほほえみや歌声が息づいているのが感じられて、うれしくみたされた気もちになりました。
エキゾティックな華やかさとふしぎさにあふれた美しい絵本。

(原題『THE PRINCESS WITH THE LONGEST HAIR』)
Author: ことり
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『おどる12人のおひめさま―グリム童話』〔再読〕 エロール・ル・カイン、(訳)やがわ すみこ

評価:
ヤーコプ・ルートヴィッヒ・グリム,ヴィルヘルム・カール・グリム
ほるぷ出版
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(1980-02-15)

むかし、ある国に12人のすばらしくきれいなお姫さまがありました。
ところが、お姫さまたちのくつは朝になるとまるでひと晩じゅう踊り明かしたみたいにぼろぼろ。ある日貧しい兵士がやってきて、その謎を解き明かすことになります――。

なんともいえない典雅な気配に圧倒されて、読むたびにその美しさの虜になってしまう絵本です。
妖しくて煌びやかで、どこかオリエンタルな香りをまとったル・カインさんの絵の魔力に引きずりこまれ、うっとりと溺れてしまう。
優雅なしぐさのお姫さま、銀や金やダイヤモンドの森、夢幻のような舞踏会・・・
ドレスや調度品のひとつひとつにまでみごとな装飾細工がほどこされ、いつまでも見飽きません。物語のちょっぴり滑稽な一面とあいまって、ほかにはない独特の雰囲気をつくり上げています。

(原題『THE TWELVE DANCING PRINCESSES』)
Author: ことり
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『コンスエラ―七つの愛の狂気』 ダン・ローズ、(訳)金原 瑞人、野沢 佳織

歌うように優しく、美しい女学生に語りかける老教授の白昼夢。七色の虹のようにきらめくマドモワゼルに、胸焦がす男の苦い恋。運命の人に出会い、果てしない愛の確認に苛まれる、不幸で幸福な男・・・純粋すぎる想いゆえ、いびつな関係にとりつかれた愛の受難者たちの、寓話のような物語。英国で最も注目される作家がおくる、残酷で、滑稽で、痛烈に切ない傑作短編集。

なんて残酷・・・、なんて哀しい・・・。
報われない愛の痛みを描いた、大人のためのおとぎ話たち。ぞっとするほどグロテスクで哀しく、それでいてとてつもなく美しい7つの狂気。
あまりにも強く思いつめた盲目的な愛の、流れつく先は――。

『カロリング朝時代』、『ヴィオロンチェロ』、『ガラスの眼』、『マドモアゼル・アルカンシェル』、『ごみ埋立地』、『一枚の絵』、『コンスエラ』。
チェロ奏者の少女に恋をした男が、チェロに身を変えて想いを叶えようとする『ヴィオロンチェロ』、どんなに醜悪な姿になっても愛してほしいと懇願する妻に翻弄される男のお話『コンスエラ』が印象的でした。あと、『ガラスの眼』のスプーン(!)も。
‘美しい女’にとり憑かれた憐れな男たち・・・。彼らの虚ろなまなざしが、いつまでもいつまでも宙をさまよっているみたいです。

(原題『Don't Tell Me the Truth About Love』)
Author: ことり
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『どうして犬が好きかっていうとね』 キム・レヴィン、(訳)江國 香織

ニューヨークを中心に活躍する写真家、キム・レヴィンさんの写真集です。
犬たちの素顔をモノクロームで撮影し、どうして犬がこんなにも好きなのか、ひとつひとつ理由をみつけて並べていきます。
もう、ページを一まいめくるたび、犬たちの‘表情’にうふふ、うふふ、って笑みがこぼれる。ぎゅうって抱きしめたり、よしよし撫でまわしたり、キスをしたり、追いかけっこしたり・・・そういうの、ぜんぶしたくなってしまう。
 
白黒の光の中でとらえられた犬たちの一瞬の表情を見ていると、そりゃあそうだ、と思わずにはいられません。
あんなかたちで、あんな表情で、あんな仕草で、あんな毛並で、あんなふうに存在している何匹もの犬たち。(訳者あとがき)

江國香織さんのかわいらしい訳文も、たっぷりの愛でつつみ込むようなまなざしが伝わってきてすごくいいです。犬好きさんにはかなりおすすめです。

(原題『WHY WE LOVE DOGS』)
Author: ことり
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『完訳 ナンセンスの絵本』 エドワード・リア、(訳)柳瀬 尚紀

名作絵本に続篇百篇の新訳追加。片や五行詩リメリック、片や日本語押韻詩。原画を挟んで原詩と訳詩をよむ言葉遊びの決定版。
愉快なリアワールドのまるかじり!

a-a-b-b-a と韻を踏む5行の戯れ歌「リメリック」。
英詩と、それにつけられた漫画みたいな絵が愉快で、さらに日本語訳もちゃんと韻を踏んでいるところがお見事!
先日読んだ『本の話 絵の話』で、山本容子さんがこの本の絵たちについて「これは挿絵ではなく、絵が言葉になっている」というようなことを語られていましたが、ほんとそう。絵だけをみていても、じわじわ可笑しみが湧いてくるみたい。

細密画や風景画も描かれたエドワード・リアさんが、細密画からの解放として描かれたという戯画。そんな絵がたっぷり詰まった『ナンセンスの絵本』は、気持ちに余裕がなくなってしまった時に手にするのもよさそう。
おもしろすぎて大笑い!ってわけじゃないけど、くすくすっと心がほころぶナンセンスな言葉あそびがいっぱいです。

ロンドンデリーのあるおじさん
いつも子供に笑いを持参
    それそれ本を書いたわい
    すると子供がわーいのわい
笑いがなければ作家を辞さん

There was an Old Derry down Derry,
Who loved to see little folks merry;
So he made them a Book,
And with laughter they shook,
At the fun of that Derry down Derry!

(原題『A Book of Nonsense』)
Author: ことり
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『悲しみを聴く石』 アティーク・ラヒーミー、(訳)関口 涼子

評価:
アティーク ラヒーミー
白水社
¥ 1,995
(2009-10)

女は、もはや意識もなくただ横たわるだけの夫に、初めて愛おしさを覚える。そして、自分の哀しみ、疼き、悦びを語って聞かせる。男は、ただ黙ってそれを聞き、時に、何も見ていないその目が、妻の裏切りを目撃する。密室で繰り広げられる、ある夫婦の愛憎劇。
圧倒的なラストまで瞬きを許さない、アフガン亡命作家による“ゴンクール賞”受賞作。

ぽたり・・・ぽたり・・・と生温かなしずくがかたくつめたい石を穿つ。
そんなイメージが脳裡にうかんで、闇にひびきわたるかすかな音に耳をすませ、息を詰めるようにして読みました。

せまくてなにもない部屋。マットレスに横たわる夫と傍らにすわる妻。銃で撃たれた夫の意識がもどることはなく、妻は夫の呼吸を数え、数珠をたぐりながらコーランの祈りを唱えつづけます。
やがて、妻は意識不明の夫にむかって罪深い秘密を打ちあけはじめ――・・・

感情を排し、事実だけをたんたんと描写するだけの冷ややかな文章。
夫の寝息と妻のつぶやきしか聞こえない怖ろしく張りつめた空気を、時おり大きな爆撃の音が切り裂きます。戦闘から逃れられないアフガンの人びとの‘日常’と、常に虐げられる立場にあった中東の女性たちの悲痛がうかび上がるそのたびに、心が凍りつくようなそんな気がしました。
生身の夫を神話のなかの「石」に見立てる妻。
どんどんと緊迫し、狂気じみていく部屋。
読むほどに暗澹とした思いがこみ上げる、深い悲しみと衝撃の物語でした。

(原題『Syngué sabour』)
Author: ことり
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『つばさをちょうだい』 ハインツ・ヤーニッシュ、(絵)ゼルダ・マルリン・ソーガンツィ、(訳)中村 智子

評価:
ハインツ ヤーニッシュ
フレーベル館
¥ 1,260
(2008-05)

男の子がお庭で天使の絵をかいていると、きゅうに天使がしゃべりだします。
「ありがとう きれいね
でも いつもと ちがう つばさにして
あの しろい はねは いやなの」
男の子は、天使の女の子のためにいろんなつばさをかいてあげることに。

波のつばさ、草のつばさ、きらきらひかるガラスのつばさ・・・ それからそれから・・・
ふっくらした女の子がくるくるおどるようによろこぶ様子がとても可愛いです。すてきなつばさがたくさんで、みているこちらまでうれしくなってしまいました。
ページをめくるたびに目にとびこんでくる鮮やかで大胆なタッチの絵。
うっとりするほど綺麗な絵本です。

(原題『Schenk mir Flügel...』)
Author: ことり
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『まっくろけのまよなかネコよ おはいり』 J.ワグナー、(絵)R.ブルックス、(訳)大岡 信

犬のジョン・ブラウンは、ローズおばあさんが1人きりで住む古い家を守ってきました。ところが、2人だけの世界に突然わりこんできた1ぴきの黒ネコをめぐって、ドラマが始まります。

あたたかな家、すてきな梨の木陰。
幸せに暮らしてきたローズおばあさんと犬のジョン・ブラウンは相思相愛。
それなのにおばあさんはある晩以来、窓のそとの美しいまよなかネコに心を奪われてしまいます。
「ネコなんか いらないよ、おばあちゃん。ぼくってものが いるじゃないか」

愛する人は、時に残酷です。こんなにローズおばあさんのことが好きなのに・・・。
ふたりの穏やかな生活をまもるためにいろいろと試みるジョン・ブラウンのすがたがいじらしくて、きゅんと胸がせつない・・・。
でも、愛する人の願いならば、かなえてあげないわけにはいかないのですよね。

ちょっとつらいけれど、深い深い愛のおはなし。
ジョン・ブラウンの複雑な心境なんてどこ吹く風、なネコがなんとも猫らしいな。
シックな色合いのこまやかな絵も素敵です。ぱちぱちと燃える暖炉、整然とならべられた小物たち、美しいかべがみやベッドカバーなど、お部屋のなかのしずけさや匂いまで伝わってきそうです。

(原題『JOHN BROWN,ROSE AND THE MIDNIGHT CAT』)
Author: ことり
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