『チャリング・クロス街84番地―書物を愛する人のための本』 ヘレーン・ハンフ、(訳)江藤 淳

ニューヨークに住む本好きの女性が、ロンドンのチャリング・クロス街84番地にある古書店マークス社にあてた一通の手紙。そこから二十年にわたる心暖まる交流がはじまった。
“本好き”の書物を読む楽しみ、待望の書物を手にする喜び、書物への限りない愛情は、「手紙」の世界をこえて、読む者を魅惑の物語のなかに誘いこむ。

(原題『84,Charing Cross Road』)
Author: ことり
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『終わりの感覚』 ジュリアン・バーンズ、(訳)土屋 政雄

穏やかな引退生活を送る男のもとに、見知らぬ弁護士から手紙が届く。日記と500ポンドをあなたに遺した女性がいると。記憶をたどるうち、その人が学生時代の恋人ベロニカの母親だったことを思い出す。託されたのは、高校時代の親友でケンブリッジ在学中に自殺したエイドリアンの日記。別れたあとベロニカは、彼の恋人となっていた。だがなぜ、その日記が母親のところに?――
ウィットあふれる優美な文章。衝撃的エンディング。記憶と時間をめぐるサスペンスフルな中篇小説。2011年度ブッカー賞受賞作。

忘却のかなたに押しやったり、都合のいいようにぬりかえたり・・・
人の記憶ほどたよりなく、不確かなものはない。
そのことを、ドキドキするような思いがけない展開のなかで訴えかけてくる小説です。

物語は高校時代、もとは3人だったトニーたちのグループに、明晰な転校生のエイドリアンが加わるところから始まります。年老いた先生を相手にするどい意見をたたかわせるエイドリアンのことや、ある地味な生徒が自殺して広がった波紋など・・・ひりひりするほど若かった頃の回想。
膨大な時の流れのこちら側では、老年を迎えたトニーのもとに、ある老女からの「遺産」があるとの知らせが届いていたのです。
それはほかでもないエイドリアンの日記。どんな経緯で自分に託されたのか・・・トニーは混沌とあいまいな過去の綻びをまさぐり始めます。

エレガントな文章で、すこしずつ掘り起こされてゆく事実。
注意深く‘ふつうの人生’を送ってきたはず・・・、そう思い込んでいた自分の過去が、誰かの人生を狂わせていた。ああ、なんて怖い話なんだろう。
でもすべては遅すぎて、これから先、悔恨と痛みに向き合いながら生きていくトニーの余生を思うとやるせなさが募ります。
もしかしたら、いま憶えていることはすべて幻想だったりして――
思わずみずからの人生を顧みずにはいられない、ひたひたと破壊的な物語でした。

(原題『The Sense of an Ending』)
Author: ことり
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『エミリー』 マイケル・ビダード、(絵)バーバラ・クーニー、(訳)掛川 恭子

評価:
マイケル ビダード
ほるぷ出版
¥ 1,575
(1993-09-20)

アマーストの生け垣に囲まれた黄色い家に住む“なぞの女性”エミリー・ディキンソンと少女の思いがけない出会い。アメリカの偉大な詩人エミリーの謎とそれを包みこむ世界の喜びを美しく格調高い絵で描く。
1993年度コルデコット賞受賞作。

(原題『EMILY』)
Author: ことり
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『冥闇』 ギリアン・フリン、(訳)中谷 友紀子

評価:
ギリアン フリン
小学館
¥ 970
(2012-10-05)

7歳のときに母と二人の姉を惨殺されたリビー。彼女の目撃証言によって兄のベンが殺人犯として逮捕される。
それから24年、心身に傷を負い、定職にも就かず、殺人事件の哀れな犠牲者として有志からの寄付金を食いつぶしながら、無気力に生きるリビーのもとへ、有名殺人事件の真相を推理する同好の士である「殺人クラブ」から会への出席依頼が。
現在のリビーの視点と、事件当日の兄ベンと母パティの視点から物語が交互に語られ、やがて悲劇的な真実が明らかにされる衝撃のダーク・スリラー。

読んでいてつらいこと、つらいこと・・・。
事件の真相が知りたくて最後のページまでなんとか到達した私だったけれど、読み終えたあとには積もり積もったつらさばかりがのこってしまいました。

主人公のリビー・デイは、幼少期に家族を惨殺され、その後親戚じゅうをたらいまわしにされたトラウマで、とんでもなくひねくれた性格になってしまった31歳。
嘘つきでキレやすく、自嘲的なうえに無気力・・・そんな彼女が、ある日招かれた怪しげなミーハー集団「殺人クラブ」の謝礼金に惹かれ、事件の真相を探りはじめます。長いあいだ心の奥のほの昏い闇に封じこめてきた、忌まわしい記憶と向き合うことになるリビー。
物語は、調査を進める現在と事件のあった1985年を行ったり来たりし、あの日何が起こったか、がすこしずつ明らかになってゆきます。どこまでも残酷な過去、母や兄の葛藤・・・でもなにより哀しいのは、事件の謎が解き明かされてもなにひとつ変わっていない自分にリビー自身が気づいてしまうこと。
お金めあてにみずからの過去を切り売りするリビーは、あの日から成長を止めてしまった・・・そのことがとてもやるせなく、つらく重たく心にのしかかってくるのです。

(原題『DARK PLACES』)
Author: ことり
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『ミツ―バルテュスによる四十枚の絵』 バルテュス

少年バルテュスと子猫ミツの友情に、少年が自ら画像でもって表現を与え、それに詩人リルケが感銘深い序文を寄せた――20世紀最大の画家による最初の小さな本、幻の名著、ついに復刊!

のちに大画家となるバルテュス少年が、筆ペンのような黒インクで描いた素描画集。
一ぴきの猫とであい、我が家までつれ帰り、そしてはじまる小さな暮らし。
心をゆるしあい、寝ているときも起きているときもいつもいっしょに過ごすようになるふたりだったけれど――・・・

文字はいっさいなく、少年と猫のふれあいが40枚の絵で語られていく本。
素朴な絵のなかから、猫の存在感がやさしくにじみ出ています。バルテュス少年の生活のすみずみにまで猫(ミツ)がいて、そのことに満たされている感じがしみるように伝わってくるのです。
偉大な詩人による哲学的で美しい序文が花を添える、じんわりせつない一冊です。

(原題『MITSOU : Quarante Images par Baltusz』)
Author: ことり
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『ちいさなちいさな王様』 アクセル・ハッケ、(訳)那須田 淳、木本 栄

評価:
アクセル ハッケ
講談社
¥ 1,365
(1996-10-18)

この世の中のことは全て本当のことなのか?
僕の人差し指サイズの小さな王様。王様の世界では大きく生まれて成長するにつれ小さくなり、しまいには見えなくなってしまうという。
ドイツのベストセラー小説。

すてきな絵とお話で、たいせつなことを教えてくれる大人の童話です。
「僕」の家にほんの気まぐれにやってきた、ちょっぴり生意気なちいさな王様。グミベアーが好物で、「僕」の胸のポッケにすっぽりと入ってしまう・・・どんどん小さくなっていく王様は言いました。「実は、おまえたちも、同じように大きいところからはじまっているのではないだろうか」
そして、こう続けるのです。
「おまえたちは、はじめにすべての可能性を与えられているのに、毎日、それが少しずつ奪われて縮んでいくのだ。それに、幼いうちは、おまえたちは、知っていることが少ないかわりに、想像の世界がやたら大きいのではなかったかね?」

王様がおじいさまから相続したというたくさんの夢の箱たち。
からだはどんどん小さくなっていくのに、夢の箱だけはぎっしりと満たされいつまでも大きいままであり続ける・・・うんと小さくなったおじいさまはいまも巨大な夢にかこまれて夢のなかで暮らしている・・・すてきな王様たちの世界。
王様の言葉のひとつひとつが雨滴のようにすうっと心にしみました。
大人になるにつれ見失ってしまったたいせつな何かをそっと思い起こさせてくれるお話。心に余裕がなくなったなら、大人の事情にしばられたなら・・・、またいつかひらいてみたいな。

「どうなっているか知りたいのなら、想像してみればいいじゃないか」

(原題『Der kleine König Dezember』)
Author: ことり
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『マシューズ家の毒』 ジョージェット・ヘイヤー、(訳)猪俣 美江子

評価:
ジョージェット・ヘイヤー
東京創元社
¥ 1,155
(2012-03-22)

嫌われ者のグレゴリー・マシューズが突然死を遂げた。すったもんだの末に検死を実施したところ、死因はニコチン中毒で、他殺だったことが判明。だが故人の部屋はすでに掃除されており、ろくに証拠は残っていなかった。おかげでハナサイド警視は、動機は山ほどあるのに、決め手がまったくない事件に挑むはめに・・・。
巨匠セイヤーズが認めた実力派が、練りに練った傑作本格ミステリ。

1930年代、ロンドンから少し離れた静かな村。
<ポプラ屋敷>である朝、主人のグレゴリー・マシューズが死んでいるのがメイドたちによって発見されます。
屋敷にはグレゴリーの姉・ハリエット、亡弟の嫁・ゾーイ、ゾーイの息子のガイと娘のステラが住んでおり、さらにグレゴリーのもう一人の亡弟の息子・ランドールや、もう一人の姉で原野(ヒース)の向うに嫁いだガートルード・ラプトン、隣人のランボールド夫妻といった面々が訃報を聞きつけ屋敷に集まります。
やがて主人の死は毒殺だったことが判明し、スコットランド・ヤードからハナサイド警視が捜査に乗り出して・・・というミステリー。

ひと癖もふた癖もある家族たち・・・おばさま方のかしましいおしゃべり・・・。
殺人事件に動揺し内輪もめしつつも、あくまでも穏便に体裁を保とうとするマシューズ家の人びと。ハナサイド警視の捜査はなかなか進展をみせず、物語のほとんどが彼ら彼女らのくり広げる会話でゆっくりゆっくりすすんでいきます。
うんざりするほど饒舌で賑やかなミステリーにすこし疲れてしまった私だけど、最終的に明らかになる真相はしっかりとした論理にもとづいていて、満足しました。
・・・ハナサイド警視はあんまり活躍できなくて、ちょっぴりお気の毒だったかな。

(原題『BEHOLD,HERE'S POISON』)
Author: ことり
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『ちっちゃな サンタさん』 ガブリエル・バンサン、(訳)もり ひさし

評価:
ガブリエル バンサン
BL出版
---
(1998-12-10)

きょうは 12月24日・・・
とても さむい おひるすぎ。たかい そらの おうちから・・・
――わたし、みちゃった。サンタさんだわ。ほんと、サンタさんよ!

クリスマス・イヴの日、マガーリは雪の林で、お空から落下傘で降りてくるちっちゃなサンタさんを見ました。
ふわりと舞い降りたサンタさんは、でもおもちゃもおかしもなんにも持っていません。ごめんよ、とすまなそうに下をむくサンタさん。マガーリは急いでおうちに帰ると・・・?

ちっちゃなサンタさんと心やさしい女の子のあたたかなふれあいの物語。
トナカイが引くそりにのってプレゼントをはこんでくれるサンタクロースのおはなしはたくさんあるけれど、このおはなしではちがっています。
わたしのちっちゃなサンタさん・・・お部屋でぼんやり思いをはせるマガーリと、お空のうえで幸せそうに目をほそめるサンタさんの表情がとてもすてき。マガーリとサンタさんのちいさな約束が遠くはなれたふたりを結んでいます。
ほっとやさしい気持ちにみたされる、かわいらしいおはなしです。

(原題『LE PETIT PERE NOEL』)
Author: ことり
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『夜な夜な天使は舞い降りる』 パヴェル・ブリッチ、(訳)阿部 賢一

プラハのとある教会では、守護天使たちが集い、自らが見守っている人間たちの話を繰り広げている。
ハンググライダーに熱意を注ぐアレックスの天使は過労気味で、ワイン作りにすべてをかけるチェニェクの天使は圧搾機でつぶされてしまう・・・。かつて美男子であったという天使は美しいアニンカに恋してしまい、サッカー選手アントン・オンドルシュの天使は一緒にゴールを決めた!あるじを裏切ってしまった天使や、ヴァスコ・ダ・ガマを見守りインド航路を発見した天使など、国を超え時も越えた天使たちのおしゃべりは、ワイン片手に夜な夜な続く。

人間たちが眠りについたあと、こっそり教会に集まっておしゃべりする天使たち――
聖具室のベンチに腰かけ、それぞれに見守っている「あるじ」の話をはじめる守護天使たちの、かわいらしいファンタジー。

でも、‘聖なる存在’なはずの天使たちがこの本ではかなり人間じみています。
守護天使がこれじゃあこまってしまう・・・!一ばんそう感じたのは『あるじを裏切った天使』でしょうか。魅力も能力も明らかに差がある双子の兄弟の、見劣りする弟の担当になったこの守護天使はあろうことか輝かしい兄の近くにばかり行ってしまったというのです。ただでさえかわいそうな弟は守護天使にも見放され、見知らぬ町で没落してゆき・・・というお話。(ラストは救いがあります)

人間じみた守護天使たちのおかげで、ふわふわやさしいばかりじゃなくて現実的な側面も感じられる物語。
大人はもちろん、子供たちにも楽しい一冊かもしれません。

(原題『Co si vyprávějí andělé? Fantasy všedního dne』)
Author: ことり
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『フラワーフェアリーズ』 シシリー・メアリー・バーカー、(訳)白石 かずこ

評価:
シシリー・メアリー・バーカー
グラフィック社
¥ 2,100
(2012-10-05)

19世紀に生まれた挿絵画家、シシリー・メアリー・バーカーは、永遠に美しい花の妖精たちの絵に素朴な味わいの詩をつけました。
妖精たちと自然の草花が一体となり、信じていればすべてがかなう魔法の子どもの国のような幻想的な世界をおりなしています。

・・・こんな美しい詩画集があっていいの?
うっとりしたため息とともに、思わずそんな言葉をつぶやいてしまいます。

春、夏、秋、冬。
季節ごとの草花の妖精たちをこの上なく繊細に描いた、もの静かで、それでいて饒舌な絵と詩たち。
妖精たちがひとりひとり、くすぐったいほどの愛らしさで囁きかけてきてくれて、そのおしゃべりにそっと耳を傾けていると、私の背中にまではかない羽根がはえているような、そんな気にさえなってきます。

そこにあるだけで優雅な心持ちにさせてくれる、まるで乙女の宝箱のような一冊。
妖精たちの舞い踊る函、黄金にかがやく小口、栞はうす桃色のりぼん・・・。すばらしい内容に引けをとらない装丁もみごとです。

(原題『The Book of the Flower Fairies』)
Author: ことり
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