『秘密の武器』 コルタサル、(訳)木村 榮一

評価:
コルタサル
岩波書店
¥ 819
(2012-07-19)

悪夢、幻想、狂気――本書は言語化されたコルタサル自身のオブセッションであり、読む者をその妖しい魔力で呪縛して読後に烈しい恐怖と戦慄をもたらす、不気味で完璧なオニリスムの結晶である。
幻想小説の至高点を求め続けた短篇の名手コルタサルの、その転換期の傑作「追い求める男」のほか、息詰まる緊張感をはらんで展開する四篇を収める。

『母の手紙』、『女中勤め』、『悪魔の涎』、『追い求める男』、『秘密の武器』。
目次をながめて、おなじ岩波文庫の『悪魔の涎・追い求める男 他八篇』の表題2作が収録されていることにあれ?と思ったのですが、あちらはたしか日本で独自に編まれた短篇集。いま思えば短篇ベスト10選、というところだったのかもしれません。

はじめて読んだなかでは『秘密の武器』がお気に入り。
主人公の心に入り込んだ別の人間が、ガールフレンドにかつての恐怖体験をよみがえらせる・・・そんな独特の緊張感にみちた物語です。
曖昧に表現された幻想世界、思いもかけない結末。さすがコルタサル!なお話だと思いました。

(原題『LAS ARMAS SECRETAS』)
Author: ことり
海外カ行(コルタサル) | permalink | - | -
 
 

『遊戯の終わり』 コルタサル、(訳)木村 榮一

肘掛け椅子に座って小説を読んでいる男が、ナイフを手にした小説中のもう一人の男に背後を襲われる「続いている公園」、意識だけが山椒魚に乗り移ってしまった男の変身譚「山椒魚」など、崩壊する日常世界を、意識下に潜む狂気と正気、夢と覚醒の不気味な緊張のうちに描きだす傑作短篇小説集。短篇の名手コルタサルの、夢と狂気の幻想譚。

悪魔の涎・追い求める男 他八篇』にくらべると、ちょっぴりもの足りないかな・・・。
でも写実的なお話や少年少女ものも収められていたりして、そういう意味ではこちらのほうがヴァラエティに富んでいるかもしれません。

はじめて読んだなかでの私のお気に入りは、表題作『遊戯の終わり』。
暑くなると、アルゼンチン中央鉄道の線路ぎわでまいにち‘彫像ごっこ’をした思い出のお話です。
母親たちが昼寝(シエスタ)をするのを待って、こっそりと家をぬけ出す3人の子どもたち。彼らは列車に向かってひとりひとりポーズをとり、乗客と無言のやりとりをかわすのですが、列車の窓から手紙が投げられるようになってからその距離感が崩れはじめます。
どこまでも続いている線路、焼けた石の熱気、複雑でぞくぞくする遊びのルール・・・親にかくれて遊んだ「わたしたちの王国」。秘密めいたスリルと脆くてこわれやすい思春期の心の動きがきらきらと封じこめられていて、ノスタルジックな記憶の余韻につつまれました。夏に読むのにぴったりのお話。

全18篇のうち、『悪魔の涎―』とかさなっているお話が2篇あります。
このかさなっている2篇がやはり好きだったりするのです・・・。

(原題『FINAL DEL JUEGO』)
Author: ことり
海外カ行(コルタサル) | permalink | - | -
 
 

『悪魔の涎・追い求める男 他八篇』 コルタサル、(訳)木村 榮一

夕暮れの公園で何気なく撮った一枚の写真から、現実と非現実の交錯する不可思議な世界が生まれる「悪魔の涎」。薬物への耽溺とジャズの即興演奏のうちに彼岸を垣間見るサックス奏者を描いた「追い求める男」。斬新な実験性と幻想的な作風で、ラテンアメリカ文学界に独自の位置を占めるコルタサルの代表作10篇を収録。

粒ぞろいのアンソロジー『短篇コレクション』のなかでも、私の一ばんのお気に入りだった『南部高速道路』。これを書かれたフリオ・コルタサルさんのほかのお話を読んでみたくて手にとった本。

日常的なお話を読み進めていくうちに、いつからか、どこからか、非日常がまざりあい・・・ゾクゾクと胸がざわめいた私です。
ある小説を読んでいた男が、いつのまにかそのなかの登場人物になっていたり(『続いている公園』)、ある写真を眺めている男が、いつのまにかその写真の人物から眺められていたり(『悪魔の涎』)、観劇をしていたお客が、いつのまにかその劇の役者として登場することを強いられたり(『ジョン・ハウエルへの指示』)――・・・
「幻想」ということばでひと括りにするのもなんだかためらわれるくらい、なんともいえない魔力のある世界観なのです。虚実のあわいをぐらんぐらんと振り回される快感、突飛なできごとに戸惑いながらも惹きつけられる危うい心地・・・。
表と裏、内と外、夢と現実。コルタサルさんの書かれる世界はあらゆる境界があやふやで、それらが地続きの一世界として存在しています。
‘いつのまにか’まぎれ込んでいる、まさかの世界たち。
怖い夢をみて、ベッドのうえでぺたりと座り込んでいるような・・・そんなぼうーっとした余韻がのこる、奇妙で、混沌と不安な短篇集でした。
Author: ことり
海外カ行(コルタサル) | permalink | - | -