『みなも』 石田 千

評価:
石田 千
角川書店(角川グループパブリッシング)
¥ 1,728
(2011-07-01)

ついえてゆく愛、さざなみたつ心――。
とめどなく寄せては返す想いに目をこらし、愛の蜜から毒までをあまさず舐めつくしたうつろいの日々の物語。

この本をひらき、文字に視線を這わせることは、「読む」というより「たゆたう」というのに近い・・・。
詩のような、もしかしたら別れの手紙のような。長い長いひとりごとめいたお話。
うつろいゆく言葉の渦にただ身をまかせ、音のない淡い世界を浮遊する、そんなめくるめく感覚で文字をなぞりました。そうしてふいに出逢うどきりとするような美しい表現につと立ち止まり、見惚れながら。

ひとりぶんの茶をいれる。突き落としてきた過去は、ほかにも沈んでいる。薄いガラスの球には、逃げ道のない静かさがひとつ、もうひとつ、くるまれている。
開き終え、底にたまった茶葉は、どれも永遠をおびていた。夢中で見いるのは、かさなりたおれた茶の世界が、もうくつろいでいるからだった。さいごは、こうなる。ならば感情の揺らぎに立つうちは、思い出も現在のひとすみとなる。ようやく、過去といまをへだてる時報を聞く。

心のなかにどうしようもなく澱むよこしまさ、突き上げてくるような恋の痛み。
はかなく散り、深くもぐって、ただ静謐な時間だけが過ぎてゆきます。
Author: ことり
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『山のぼりおり』 石田 千

評価:
石田 千
山と溪谷社
¥ 1,890
(2008-03-19)

のぼっておりた十の山。
『山と溪谷』の連載に書き下ろしを加えた石田千初、「登山」エッセイ集。
写真家・坂本真典のモノクローム作品収録。

妖精みたいな、天使みたいな、可愛い女の子がたわむれるやさしい表紙。
そんな雰囲気そのままのポワンとのどかなエッセイでした。読んでいるとこれがハードな(はずの)「登山」であることを忘れそう。
栗駒山、北アルプス、富士山・・・けっこう本格的な「登山」なのに、そんな折でさえ石田さんの時間はやさしくゆるゆる流れていて、私まで森のしんと澄んだ空気にとけていきそうな、しずかな気持ちになるのです。

しらびそ、しらびそ、だけかんば。
教わった木を、たしかめて歩く。きのうは雨にうつむき、今朝はきのこを気にしている。鳥も上機嫌でさえずり、やわらかい風に葉の点描が、まるく揺れる。
たおれた幹から、あたらしい葉が出ている。さまざまなきのこ、クローバー、苔がかさなって、ちいさな森をつくっている。幹は、じぶんが木だったことをだんだんと忘れていくように見える。うとうとと、土となじんでいる。(『北八ヶ岳・天狗岳』)

瞬間瞬間を大切に、風の濃淡まできちんと感じられる人。
こんなふうに自然となかよくなりながら、私も山にのぼってみたい。
Author: ことり
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『しろい虹』 石田 千

評価:
石田 千
ベストセラーズ
¥ 1,680
(2008-01-26)

ぽろん・・・ぽとん・・・ぽろん・・・
雨だれのような短いセンテンスで、ほのほのと描かれていく日常。
ぽろん・・・ぽとん、の「・・・」のぶぶん、そのあわいに心をすますとそこにもいろんな音がする。石田さんのいろんな思いがゼリーみたいに転がっている。
お茶の時間によばれたり、コトコトと煮炊きをしたり、銭湯にかよったり、窓から雲をながめたり・・・。生活と、記憶と、青虫や猫たちの息づかいと。

どこか心もとない、とるにたらない日々のすきま。
ほっこり幸せで、しんみりと切なくて。
ゆるやかに流れていく日々の時間をそっと切りとってみせてくれるこんなエッセイはちいさなシアワセを見逃さず、感じること、それがこんなにも人生を豊かにするのだと教えてくれます。
ありふれた日常がぐっと深まり、ナナイロの彩りをもって感じられるのです。
Author: ことり
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『きんぴらふねふね』 石田 千

評価:
石田 千
平凡社
¥ 1,728
(2009-05-26)

懐かしい酢入りの自家製ドレッシングを思い出す春。夏の西瓜割り、秋空の下の駅弁、冬の風邪に大蒜・・・。四季の生活に根ざした身近で大切な「食」の習慣と記憶たち。最新エッセイ集。

こまごましたご用はひとまずさて置き、しゅらしゅしゅしゅー。
コーヒーをいれ、ソファにしずみ、まったりだらりんと読むのに最適のエッセイ。
すっかり習慣化した春ポンポン(りんごケーキ)、アイスクリーム屋の思い出や芋煮の宴、雪見チョコレートのほろ苦さ・・・やわらかい文章でつむがれていく‘食べものエピソード’に心がなごみます。
けっして多くは語らないのに、ふいにフワっと目の前に立ち現われる情景やせつない思い。人それぞれにちがう舌の記憶、だけどこんなエッセイを読むときまって自分のなかの記憶がよび覚まされて、しんみり懐かしくなるから不思議ですね。
石田さんのまわりでは、空気までもがほどよくゆるみ、たぷたぷと気持ちがよさそう。このぬるま湯みたいなゆるり加減も私は大好き。

気ままなのに、でもちゃんとしているこんな人生、いいなあ。
誰かと過ごす時間はもちろん、一人の時間もとても楽しそうにいとおしんでいて。
この本を読んでいたら、おいしいお酒がのみたくなりました。
Author: ことり
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『月と菓子パン』 石田 千

とうふや巡礼に、ねこみち歩き。
なつかしい空気がたちこめる、ほんわか下町エッセイ。
このほのぼのと切ない感じ・・なんとなく「夕暮れ時」がにあう気がするのは私だけ?
ぽってりとした夕焼け。よそのお家から漂ってくるおいしそうな夕餉のにおい。
ぱ〜〜ぷ〜〜・・・豆腐売りのラッパの音色がどこからともなく聴こえてきそうな。

年の瀬になると集まっておもちをつくる三姉妹のおばあさんのお話と、春の雨のなか棄ててあった小学校の椅子を酔いにまかせて持ち帰るお話が好き。
どこにでもいそうな猫たち、どこにでもありそうな居酒屋、いつでも誰でもできそうなお散歩。なのに石田さんの目を通してみると、なんともいえない味がある。
ささやかな日常をいとおしんでいる彼女の姿が文章からにじみ出て、生活にたいする‘きちんと感’が気持ちよく伝わってきます。

ひとの暮らしは、しゃべったり、乗り物にのったり、泣いたり笑ったりしていて猫よりも忙しいはずなのに、気がつくと、ゆるんだ目でぼんやりしてばかりいる。
変わっていく景色を見逃さないようにと声をかけてくれるのは、いつもちいさい生き物の健気な息づかいだと思って歩いている。
Author: ことり
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