『春と修羅』〔再読〕 宮澤 賢治

以前、『注文の多い料理店』とともに購入した復刻版の詩集です。
函から現れるのは、ざっくりとした麻布に身をつつんだ、どこかよそよそしくすらある温かな手触りの本。
副題に「心象スケッチ」とあるとおり、この世のあらゆるものの儚い瞬きや化学反応、はてしない宇宙の塵ひと粒ひと粒までをも文字にうつし出したみたい。琥珀の陽光、聖玻璃の風、玉髄の雲・・・冬の銀河鉄道、静寂を抱く鉱石、つかのま青く明滅する光と翳。自然の美しさ眩さをうたう詩人、その孤独や哀しみが降り積もる心の嘆きに私はなんどでも胸を突かれる。コバルトの幻想空間をたゆたうような、慎ましいけれどもきららかな一刹那にみちた、ただならぬ詩集です。

(あめゆじゆとてちてけんじや)――
絞るような妹の声、つややかな松の枝に透きとおるあめゆき。
見なれたお椀の藍のもようにも別れ、鋼青壮麗の空にむかう最愛の妹・とし子。
おまへがたべるこのふたわんのゆきに
わたくしはいまこころからいのる
どうかこれが天上のアイスクリームになつて
おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに
わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ
(『永訣の朝』より)

そしてやはり 、
わたくしといふ現象は
假定された有機交流電燈の
ひとつの悗ぞ般世任
(あらゆる透明な幽靈の複合体)
風景やみんなといつしよに
せはしくせはしく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電燈の
ひとつの悗ぞ般世任
(ひかりはたもち、その電燈は失はれ)
とはじまる序文がとてもとても好きです。
Author: ことり
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『イーハトヴ童話 注文の多い料理店』〔再読〕 宮澤 賢治

このたび、縁あって私のもとにやってきた古本です。
こちらは大正13年発刊のオリジナルを復刻したもので、お値段もお手頃(美本なのに500円ぽっち!おなじシリーズの『春と修羅』も1000円で購入)でしたが、やさしくて味わい深い佇まいにひとめぼれ。函から取りだしたときの優美な装丁――濃紺に雪景色の絵、右から左へとながれる金の箔押しタイトル――にもたまらなく惹かれてしまいました。
つい先日も宮沢賢治全集で『注文の多い料理店』を読んだばかりの私、なにか目に見えない素敵な引力を感じるこの頃なのです。

賢治さんのみずみずしくどこか秘密めいた童話の数々は、その都度いろいろな媒体でふれてきましたが、やはり旧かな遣いで菊池武雄さんの挿画がはいったオリジナル本は格別の趣・・・。
『どんぐりと山猫』も、『注文の多い料理店』も、『月夜のでんしんばしら』も、どれもこれも冴えざえとした秋の星空のようにしみ入ります。そして序文がこの上なく透明な物語の象徴としてそこにあり、彼の繊細でうつくしい心をそっくりあらわしているようで、私は「序」がこの本で一ばん好き、と言って過言ではないかもしれません。



わたしたちは、氷砂糖をほしいくらゐもたないでも、きれいにすきとほつた風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびらうどや羅紗や、寶石いりのきものに、かはつてゐるのをたびたび見ました。
わたくしは、さういふきれいなたべものやきものをすきです。
これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鐵道線路やらで、虹や月あかりからもらつてきたのです。
(中略)これらのなかには、あなたのためになるところもあるでせうし、ただそれつきりのところもあるでせうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。なんのことだか、わけのわからないところもあるでせうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。
けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまひ、あなたのすきとほつたほんたうのたべものになることを、どんなにねがふかわかりません。

『どんぐりと山猫』、『狼森と笊森、盗森』、『注文の多い料理店』、『烏の北斗七星』、『水仙月の四日』、『山男の四月』、『かくはばやしの夜』、『月夜のでんしんばしら』、『鹿踊のはじまり』を収録。
Author: ことり
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『注文の多い料理店―宮沢賢治童話全集4』 宮沢 賢治

「宮沢賢治童話全集」の第4巻。
第3巻を読んでから、うっかり2年以上も経ってしまいましたが・・・またのんびり少しずつ読んでいきます。
本は待っていてくれるのです!(というのは大好きな小川洋子さんのことば)

さて。第4巻には、私が賢治さんの童話のなかでもっとも好きなお話のひとつ『注文の多い料理店』が入っています。久しぶりの再読に胸がワクワク・・・。
イギリスふうの兵隊の恰好をしたふたりの紳士が猟に出て道にまよい、喜んで入った「注文の多い料理店」でとほうもない経営者からかえって注文されてしまう、というお話。ドアにはうるさいくらい注文が書かれてあり、開けても開けてもつぎのドア。なかなかテーブルにつくことができません。
ついさっきまで「なんでもかまわないから、早くタンタアーンと、やってみたいもんだなあ。」とか、犬が死ぬと「じつにぼくは、二千四百円の損害だ。」などと言っていた軽薄な紳士たちが「注文」の意味をとり違え、勘違いしていくさまが可笑しい。壺いっぱいのクリーム、おとぼけ山猫たちの会話、そして、どうと吹いてきた風が告げる幻想の終わり・・・物語のディテイルに至るまでほんとうに大好きです。
『土神ときつね』と『ガドルフの百合』のお話も、かつて出逢ったことのある素敵な物語。可愛らしいものも、謎めいたものも、彼の童話をいつもぼんやりとてらしている幻燈が、いまのほうがひどく哀しい光を帯びて映るのはなぜかしら。すぐれたお話は読むほどに人を惹きつけ、そのたびに新しい感情をつれてくるものなのだ・・・そんなことを改めて思います。

『よくきく薬とえらい薬』、『車』、『タネリはたしかにいちにち噛んでいたようだった』、『注文の多い料理店』、『土神ときつね』、『チュウリップの幻術』、『茨海(ばらうみ)小学校』、『ガドルフの百合』
Author: ことり
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『どんぐりと山ねこ―宮沢賢治童話全集3』 宮沢 賢治

「宮沢賢治童話全集」の第3巻。
賢治さんの物語世界が好きで全集を読み始めた私。けれど実際にひとつひとつひもといてゆくと、彼の書かれたお話がこれほど奥深いものだったのかと巻を追うごとに思い知らされてしまいます。意外なほど皮肉めいたストーリーが多いことにも。
「童話」と名のついたもの=子供向け、なんて勝手なイメージ。
賢治さんの童話は心を研ぎ澄ませて読まなければ真意が伝わりづらいものも多く、そんなメッセージを物語から感じとれたとき、胸がふるふる震えるみたい。

川で溺れたひばりを助けた子うさぎのホモイが、「貝の火」という尊い宝珠を動物たちからおくられて、傲慢になり、おごりたかぶっていくさまを描いた『貝の火』が印象にのこりました。このお話も皮肉で残酷な結末・・・。

『貝の火』、『どんぐりと山ねこ』、『鳥をとるやなぎ』、『ふたりの役人』、『谷』、『さるのこしかけ』、『ほらぐま学校を卒業した三人』、『四又の百合』
Author: ことり
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『ふた子の星―宮沢賢治童話全集2』 宮沢 賢治

「宮沢賢治童話全集」の第2巻。
『やまなし』も『雪渡り』も美しくなつかしい。ほんとうに、この人はなんて澄んだ瞳で世の摂理を紡ぐのでしょう。それはまさに森の木々や小鳥たちにこっそり教えてもらったお話のように。
はじめて読んだなかで私が一ばん好きなお話は『いちょうの実』。
小さないちょうの実たちが北風にのっておっかさん(いちょうの木)からこのあといっせいに旅立つ、そんな朝の風景が描かれています。
ことし生まれたのは千人の黄金色の子どもたち。とちゅうで目がまわらないか心配する子、未来をゆめみる子、勇気のある子、あわてんぼうにのんびり屋さん・・・いろんな個性がいて励ましあい助けあう様子は、さながら私たち人間の卒業式。淋しさと期待で胸をいっぱいにしながら未知の世界に巣立った日のことを思い返しました。
北風に無数の実が吹き飛ばされるありさまを、賢治さんらしいみずみずしい感性で描いてみせてくれています。

『やまなし』、『ありときのこ』、『いちょうの実』、『雪渡り』、『黒ぶどう』、『かえるのゴムぐつ』、『気のいい火山弾』、『ふた子の星』、『めくらぶどうと虹』、『黄いろのトマト』
Author: ことり
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『ツェねずみ―宮沢賢治童話全集1』 宮沢 賢治

評価:
宮沢 賢治
岩崎書店
¥ 1,470
(1978-05)

宮沢賢治さんの全集を読み始めました。
むかしから、このイーハトーヴの童話世界が大好きなのです。動物たちやお花や木たちはもちろんのこと、生命なきもの(たとえば鳥箱やネズミとり)にも自在に入り込んで彼らの目線で世界を見ることのできる賢治さん、ほんとうに感性ゆたか。
第1巻に入っているのは日ごろの我儘やいじわるがはね返って、哀れな結末をむかえるお話がめだちました。フゥねずみ、ツェねずみ、クンねずみの「ねずみ3部作」がおもしろかったです。

『月夜のけだもの』、『鳥箱先生とフゥねずみ』、『ツェねずみ』、『クンねずみ』、『ぶどう水』、『十月の末』、『畑のへり』、『おきなぐさ』、『ひのきとひなげし』、『まなづるとダァリア』、『林の底』
Author: ことり
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