『ひらいて』 綿矢 りさ

評価:
綿矢 りさ
新潮社
¥ 1,260
(2012-07-31)

やみくもに、自分本位に、あたりをなぎ倒しながら疾走する、はじめての恋。彼のまなざしが私を静かに支配する――。華やかで高慢な女子高生・愛が、妙な名前のもっさりした男子に恋をした。だが彼には中学時代からの恋人がいて・・・。
傷つけて、傷ついて、事態はとんでもない方向に展開してゆくが、それでも心をひらくことこそ、生きているあかしなのだ。本年度大江健三郎賞受賞の著者による、心をゆすぶられる傑作小説。

胸をかきむしるほど狂おしく、キリキリと締めつける衝動。
ゆっくりと暴走していく展開に心からぞっとしたし、おののきながらも痺れてしまいました。しずかに柔らかな狂気・・・おぞましく、痛々しく病んで。

うまくいかない恋のもどかしさが、ひとりよがりで屈折した感情を生んでゆきます。
強固な恋人たちのあいだに割って入って、歪んだカタチで‘所有欲’をみたす主人公。歪んでこわして傷ついて・・・なにもかもなくしてしまったら、またちがったひらけた風景を見られるのかな・・・。いつか飽きる、いつか終わる――鶴をほどいた千代紙の幾筋もの折り目から、どこかへ消えうせてしまった祈りのように。

愛は、唾棄すべきもの――
恋は、とがった赤い舌の先――
私は、乾いた血の飛沫――
・・・なんて残酷で、ややこしくて、切ないんだろう。卑しく穢れた激情の裂け目から、純粋な光のしずくがこぼれてくる。‘さびしさの鳴る’音がする。嘘をつめたく見透かすような、意地悪なするどさに射すくめられた小説でした。

卵の黄身だったころにもどりたい。固い殻に守られて卵白の中央に浮かんでいた、幸福な黄色だったころに。それが無理なら、いますぐ灰になって、土にばらまかれて、緑あふれる森へ帰りたい。
Author: ことり
国内や・ら・わ行(綿矢 りさ) | permalink | - | -
 
 

『かわいそうだね?』 綿矢 りさ

評価:
綿矢 りさ
文藝春秋
¥ 1,365
(2011-10-28)

心に押しこめた本音がぽろりとこぼれ出る瞬間――
『かわいそうだね?』と『亜美ちゃんは美人』。滑稽でブラックで、でも愛おしい‘女子小説’が2編収録されています。

表題作は主人公・樹理恵といっしょになって、読みながらイライラもやもや・・・。この彼氏と元彼女がもうほんと腹立たしくて、でもひっしに彼らを正当化して自分をなぐさめようとする樹理恵がいじらしくて・・・、いつのまにかたっぷり感情移入し引きこまれていた私です。
のぞき見した携帯の受信メールボックスの内容を順番に読んでいくことで、自分の送った‘いわし雲メール’のイタさが浮き彫りになるところ・・・泣き笑いのようなせつなさがすごく伝わってきて苦しかった。これまでのがまんの限界がきて、抑圧されていたものがワーっと吐き出される瞬間は、だからとても痛快です。一度にすべてを壊さないと前にすすめない衝動、分かる人はきっと多いはず。

『亜美ちゃんは美人』は、超美人の亜美ちゃんを親友にもったさかきちゃんのお話。
クラスのヒエラルキーだとか、飲み会での扱われ方など、描かれる情景の息苦しさがありありと伝わってきます。
嫉妬して、羨望して、でも憎めなくて・・・微妙で厄介な女の友情がリアル。あと、ぶっ飛んだタカくんと冷静な小池くんのキャラクターも面白い。
笑えるぶぶんもたくさんあるのに、美人すぎる亜美ちゃんの孤独がうかび上がって、ラストは哀しいようなすがすがしいような不思議な心地にとらわれていました。さかきちゃんと亜美ちゃんのこれからを祈りたくなりました。

いつのまにか読者を味方につけている、よい意味でしたたかな小説たち。
どちらのお話も私は好きです。
Author: ことり
国内や・ら・わ行(綿矢 りさ) | permalink | - | -
 
 

『勝手にふるえてろ』 綿矢 りさ

評価:
綿矢 りさ
文藝春秋
¥ 1,234
(2010-08-27)

賞味期限切れの片思いと好きでもない現実の彼氏。どっちも欲しい、どっちも欲しくない。
恋愛、しないとだめですか。

脳内と現実のふたつの恋のはざまでゆれ動く不器用なOL・ヨシカの物語。
男性経験のない26歳のヨシカは、勤務先の同期の男性から初めて告白されたことをきっかけに、中学時代から頭の中ではぐくんできた片思い相手との再会を画策します。片思いの「イチ彼」と、告白してくれた現実の「ニ彼」。どっちつかずで右往左往する様子がコミカルに描かれていきます。

ぽんぽん進んでいく読みやすい文章。
綿矢さんはやはり一人称の小説がよく似合いますね。
筆がノッている感じで、とくに「処女」を「新品だった傘についたまま、手垢がついてぼろぼろに破れかけてきたのにまだついてる持ち手のビニールの覆い」に喩えるあたり、比喩的表現も冴えてる。
ただ、ヨシカが26歳のOLにしてはかなり幼稚な行動をとる場面があって、そこはちょっと引っかかったかな・・・。そういう女性を主人公に置いている、といわれてしまえばそれまでなのだけど、それが物語の幼さにどうしてもかさなって見えて・・・。

「好き」という衝動はもっと純粋で、抑えきれないものだと私は思っています。
イチにたいしてもニにたいしても打算的なヨシカ。このままだとほんとうの恋を知らないまま人生終わっちゃうよ?なんておせっかいな思いを抱きながら本をとじました。
Author: ことり
国内や・ら・わ行(綿矢 りさ) | permalink | - | -
 
 

『インストール』 綿矢 りさ

評価:
綿矢 りさ
河出書房新社
¥ 1,050
(2001-11)

女子高生と小学生が風俗チャットでひと儲け。押入れのコンピューターからふたりが覗いた“オトナの世界”とは!?
最年少・17歳、第38回文芸賞受賞作。

ヘンに背伸びしていない文章、すごく好感がもてます。
等身大の女子高生、日常と非日常。
不安定な精神をもてあまし、ちょっぴり異端児ぶってみたくなる主人公・朝子。いろんなことを考えてはいるけれど、いつもどこかモヤモヤとしている・・・思春期特有のそんな覚え、私にもあるある。むくむくもたげる‘アダルト’への興味、そのことへの後ろめたさ。あいまいでほろにがい、ジメジメとした熱狂。
道を大きく踏み外すわけじゃありません。そこかしこになんとなーく‘優等生’の香りを感じてしまうのは私だけ?
エッチなコトがテーマだなんて意外といえば意外。けれどやっぱり、とても綿矢さんらしいお話なのです。
Author: ことり
国内や・ら・わ行(綿矢 りさ) | permalink | - | -
 
 

『夢を与える』 綿矢 りさ

評価:
綿矢 りさ
河出書房新社
¥ 1,365
(2007-02-08)

チャイルドモデルから芸能界へ。幼い頃からテレビの中で生きてきた美しくすこやかな少女・夕子。ある出来事をきっかけに、彼女はブレイクするが・・・。成長する少女の心とからだに流れる18年の時間を描く待望の長篇小説。

正直言うと、幼少のころから淡々と階段をのぼっていくシンデレラストーリーは、私にとって初めのうち退屈なお話に思えてしまったこともたしかなのです。
ところが後半、夕子が‘本物の恋’を知るあたり、生活が少しずつ崩れていったあたりから、胸をつくような彼女の辛苦が鮮やかにうかび上がってきて、どんどんとお話も深まっていきました。
「夢を与えるような女優になりたいです。」 インタビューで何度も口にしつつ、夕子がずっと違和感をいだいていた言葉。ラストまぢかで彼女はついに‘夢を与える’ことのほんとうの意味を悟るのですが、その代償としてうしなったものは計り知れなく・・・そのことがズシンと重たい読後感をのこします。
閉店した喫茶店の店主はどこへ行くの?
パーティで残ったケーキはどこへ行くの?
アイドルだって、ふつうの女の子。からだいっぱいに光を浴びて世間の注目を集めるそのいっぽうで、あまりの忙しさに季節を感じることさえできず、そのくせ飛び続けていられるかどうか不安をぬぐえなかった日々たち。
たしかに空を飛び続けていられる鳥などいないけど、人は大切なものをなくさないと大切なことに気づくことはできないのかな・・・。

蹴りたい背中』から約3年ぶりの綿矢さんの本。
以前とくらべてちょっぴり人なつっこい文章、そんな印象を受けました。どちらかというとエンターテイメント寄りに感じたのはこのお話が一人称ではなかったせい?
私個人は『蹴りたい背中』のほうが好きなのですが、こちらのほうが好き、そんな方も多いんじゃないかしら。
Author: ことり
国内や・ら・わ行(綿矢 りさ) | permalink | - | -
 
 

『蹴りたい背中』 綿矢 りさ

評価:
綿矢 りさ
河出書房新社
¥ 1,050
(2003-08-26)

さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから、その音がせめて周囲には聞こえないように、私はプリントを千切る。細長く、細長く。紙を裂く耳障りな音は、孤独の音を消してくれる。気怠げに見せてくれたりもするしね。

めずらしく、冒頭から惹きつけられてしまったお話です。
理科の実験中にプリントを引き裂き続けるクラスの「余り者」・ハツと、その隣で男のくせに女性ファッション誌を眺めるもう一人の「余り者」・にな川とのあいだに芽生える、いびつな友情。自分の感情すら持てあましてしまう彼らの不器用さと、クラスメートと群れるのがいやで、かといってまわりから浮くのもこわいハツの揺らぎ・・・かつての私にも音をたてて思い当たる複雑な若さたち。
とくに、女性モデル・「オリチャン」の熱狂的ファンであるにな川への、恋とも友情ともつかない感情が「この、もの哀しく丸まった、無防備な背中を蹴りたい。痛がるにな川を見たい。」という思いとして集約されていく過程は、すばらしく鮮やかでした。

遠い日の、閉塞的な高校時代を思い起こさせるある種の息苦しさと、10代ならではのはじけんばかりのういういしさ。たしかにあったあの頃に、もう、戻れない。
教室の隅、雨にけむるグランド、つまらない授業。
上履き、先生、プール、部活、10分休憩。
・・・変わりばえのない退屈な日々の連なり。
時のかなたに置き去りにされていたものたちがグイ、とよみがえってきました。
綿矢さんは芥川賞の受賞会見で、「私の書く小説の世界はとてもせまいです」と語っているけれど、高校生を描くのに広い世界は必要ないのです。たぶん。
彼らが必死にもがいている世界は、いつだって、ちっぽけな空間なのだから。そしてそのせまい宇宙で彼らの思いは、四方八方めいっぱいひろがり続ける――。

認めてほしい。許してほしい。櫛にからまった髪の毛を一本一本取り除くように、私の心にからみつく黒い筋を指でつまみ取ってごみ箱に捨ててほしい。人にしてほしいことばっかりなんだ。人にやってあげたいことなんか、何一つ思い浮かばないくせに。
高校生のさびしさが、鳴ってる。
Author: ことり
国内や・ら・わ行(綿矢 りさ) | permalink | - | -