『芸術家が愛したスイーツ』 山本 ゆりこ

評価:
山本 ゆりこ
ブロンズ新社
¥ 1,728
(2012-11)

芸術家とスイーツの甘い関係を説いた、フォトエッセイ。
誰もが知っている有名な芸術家たちを、「スイーツ」という切り口から、作品とは別の角度から探ります。芸術家たちが過ごした場所や、ゆかりのある景色など、撮りおろし写真も多数掲載。日本の食材に合うようにアレンジされたレシピも、ぜひ試してみたいもの。

ピカソが愛した「オリーヴオイルの揚げ菓子」、プルーストが愛した「いちごとフロマージュ・ア・ラ・クレーム」、ジョルジュ・サンドが愛した「ポム・オ・フール」、ロートレックが愛した「ヴァニラ風味のスフレ」、デュマが愛した「サヴォワ風ビスキュイ」、コクトーが愛した「スミレのアイスクリーム」・・・

おもにフランス、19世紀生まれの芸術家たちがずらり18人。
その人生をひもときながら、彼らに愛されたスイーツが紹介されていく・・・芸術家たちの心を甘くとろかせたにちがいない「スイーツ」からのこんなアプローチがとても新鮮で、目にも愉しくおいしそうな一冊でした。
美しい詩や物語、絵画をのこしてくれた芸術家たち。それぞれに波乱にみち、愛憎うずまく人生のなかで、どんな思いいれがあってそのスイーツを愛したのでしょう?
たっぷりのバターにお砂糖、くたくたに煮えた果肉の濃密な匂い・・・それらとともに芸術家たちの知られざる一面が頁のむこうから立ちのぼって、彼らのことがほんの少しだけ身近に感じられた気がしました。
Author: ことり
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『きんぎょのおつかい』 与謝野 晶子、(絵)高部 晴市

評価:
与謝野 晶子
架空社
¥ 1,575
(1994-04)

太郎さんは駿河台の菊雄さんのところへ、おつかいをやらなければならない御用があるのですが、女中の梅やがご病気なので、どうしたらいいだろうかと考えていました。そうすると弟の二郎さんが、「兄さん、きんぎょをおつかいにやりましょう」といいました。

こうして太郎さんのきんぎょの赤と、二郎さんの白、そして妹の千代ちゃんのぶちの3びきが電車に乗っておつかいに行くことになります・・・。
ほのぼのともの柔らかな雰囲気に癒される絵本。おつかいに行くきんぎょたちをみまもる駅夫さんや乗客たち(そしてさりげなく太郎さんちの飼い猫さんも!)のやさしさがふわふわ〜っと、うす茶色した紙のむこうからただよってきてうれしくなります。
停車場(すていしょん)であふあふ息苦しそうなきんぎょたち。「電車に水を入れて下さい」というお願いに、駅夫さんたちはどうしたでしょうか?

文章のすてきな古めかしさに、ぴったりよりそう高部さんの絵が‘レトロかわいい’。
図書館でたまたまみつけた絵本ですが、与謝野晶子さんがこんな童話をのこされていたと知って、心が浮きたちました。
Author: ことり
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『ひらいて』 綿矢 りさ

評価:
綿矢 りさ
新潮社
¥ 1,260
(2012-07-31)

やみくもに、自分本位に、あたりをなぎ倒しながら疾走する、はじめての恋。彼のまなざしが私を静かに支配する――。華やかで高慢な女子高生・愛が、妙な名前のもっさりした男子に恋をした。だが彼には中学時代からの恋人がいて・・・。
傷つけて、傷ついて、事態はとんでもない方向に展開してゆくが、それでも心をひらくことこそ、生きているあかしなのだ。本年度大江健三郎賞受賞の著者による、心をゆすぶられる傑作小説。

胸をかきむしるほど狂おしく、キリキリと締めつける衝動。
ゆっくりと暴走していく展開に心からぞっとしたし、おののきながらも痺れてしまいました。しずかに柔らかな狂気・・・おぞましく、痛々しく病んで。

うまくいかない恋のもどかしさが、ひとりよがりで屈折した感情を生んでゆきます。
強固な恋人たちのあいだに割って入って、歪んだカタチで‘所有欲’をみたす主人公。歪んでこわして傷ついて・・・なにもかもなくしてしまったら、またちがったひらけた風景を見られるのかな・・・。いつか飽きる、いつか終わる――鶴をほどいた千代紙の幾筋もの折り目から、どこかへ消えうせてしまった祈りのように。

愛は、唾棄すべきもの――
恋は、とがった赤い舌の先――
私は、乾いた血の飛沫――
・・・なんて残酷で、ややこしくて、切ないんだろう。卑しく穢れた激情の裂け目から、純粋な光のしずくがこぼれてくる。‘さびしさの鳴る’音がする。嘘をつめたく見透かすような、意地悪なするどさに射すくめられた小説でした。

卵の黄身だったころにもどりたい。固い殻に守られて卵白の中央に浮かんでいた、幸福な黄色だったころに。それが無理なら、いますぐ灰になって、土にばらまかれて、緑あふれる森へ帰りたい。
Author: ことり
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『どうぶつたちのおしゃべり―ハナアクの絵によせて』〔再読〕 山崎 陽子、(絵)ハナアク

とてもとてもなつかしい一冊です。
私が5歳くらいの、まだほんの小さな女の子だった頃に母が買ってくれた思い出の絵本。先日、実家の物置からみつけだし、久しぶりに再会しました。
それはこの絵本が大好きで大好きで・・・諳んじられるほどに読み返した遠い日への淡く儚い時間旅行。動物たちの秘密めいたおしゃべりに耳をかたむけていると、心がふんわり染まるようにとろけていって、かつて親しかった彼らと交わしていた‘ないしょ話’の記憶が舞いもどってきました。
ミルコ・ハナアクというチェコの画家。その甘美で繊細な画風のベースは中国の古美術にあるそうで、どこかオリエンタルな華麗さと流れるような力強さがそなわっています。そこにあるだけで魅了されてしまう素晴しい絵をもとに、山崎陽子さんが想像の翼をはばたかせ、動物たちの孤独な思いによりそった心やさしい詩をそえています。
 

でも あのかた
きっと こんやも こないわ
どうして わたし・・・
ねずみなんか すきに なっちゃったのかしら
(『どうして、わたし・・・――<ねこ>』より)


「自然をみつめる情熱的なまなざしの人、そして同時に、子供の心をもったはにかみ屋」――ハナアクさんのことを知る人は、みなそんなふうに語るのだそうです。
いまはただ、幼い私にこんな素敵な絵本を与えてくれた母に、感謝しかありません。

Author: ことり
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『ヤマネコ毛布』 山福 朱実

評価:
山福 朱実
パロル舎
¥ 1,680
(2007-03)

旅に出るヤマネコに、森の動物たちが思い出を刺繍した毛布を贈るおはなしです。
ハリネズミが動物たちに針をくばる場面でニョキっと突き出たいろんな手。その手の持ち主ひとりひとりが思いうかべるヤマネコとのエピソード。
楽しい思い出、気持ちいい思い出、おいしい思い出、悲しい思い出、おそろしい思い出・・・どれもがいい思い出というわけではないけれど、動物たちがひと針ひと針心をこめて縫い上げる刺繍はどれもとても温かで、
「忘れないよ」「忘れないでね」
そんなささやきまで、いっしょに縫いつけられているみたい。

白い頁のうえに、つぎつぎと描き出されていく思い出の場面たち。そのダイナミックで愉快な版画は構図といい色づかいといい、ほんとうにすばらしくてうっとりします。
冬眠するクマのこんもりあたたかそうな背中や、画面いっぱいに駆け回るシマリスのせわしない様子、チョウチョたちのキラキラ光るりんぷんは頁のそとにまでこぼれ落ちそうなほど・・・。

みんなの気持ちのこもった、すてきな毛布。うれしいねヤマネコ。
なつかしい‘思い出毛布’にくるまって、いったいどんな夢をみるのかな?
きっとすてきな夢にちがいありません。

(巻末のポストカードでは、みんなの刺繍を縫いあわせたヤマネコ毛布の‘実物’が見られるうれしいおまけ付き!)
Author: ことり
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『トコトワ』 山内 麻美

評価:
山内 麻美,笠井 きみよ
未知谷
¥ 2,160
(2008-08)

ある日、僕は家を出た。ママから逃げてきた。
そして、遠い小さな港町で出会ったイカ釣りのおじいさん、黒ネコ、女の人・・・そこで見つけた、大切なもの――

「トコトワ」・・・不思議なひびき。しあわせなお菓子みたいにかわいらしくて、でもどこか、せつないひびき。
ちいさい頃、とれたボタンをいつのまにかつけておいてくれた母。
いつも笑顔で「おかえり」を言ってくれた母。
母がむかし読んでくれた絵本、母が干してくれたふとんで眠った夜・・・
さりげないけれども、しっかりとからだで感じた母の愛情。
つつみ込むように見守ってくれている人たちや、忘れかけていた大切なことなどをたくさん思い出して、ランプが灯るようにほんわりやさしい気持ちになれました。
モノクロームでありながら、チャウダーの湯気やクリスマスの楽しげな雰囲気、ネコや子リスのフカフカした毛並まで。たしかな温度で伝わってくる笠井きみよさんの版画もすてき。
 
老人が僕を傍らに置いてくれたように、僕も自分の大切な場所にほかの誰かを受け入れることができるだろうか。

「トコトワ」・・・漢字で書くと「常永久」なのだそうです。
Author: ことり
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『緑色の濁ったお茶 あるいは幸福の散歩道』 山本 昌代

おっとりした姉・可李子(かりこ)と、重い病いを抱えながらものびやかな妹・鱈子さん。父母姉妹での穏やかな生活に、父の病いという思わぬ波紋が広がり・・・。家族という日常の不思議と夢のリアリズムを静穏な筆で描いた三島賞受賞作。

上質な家族小説を読んでいると、大きな愛とか人生観よりも、じつは会話のようなささやかなことのほうが大切かもしれない、そんなことをよく思います。
たとえば「なないま」や「墨痕林檎」、あるいは「蛸」・・・鱈子さんのお家でのみ通じる言いまわしです。その時その場にしか存在しないものごと。おなじ時、おなじ場所にいた人びとにしか共有できないから、それらは私の目にとても美しくうつります。

淡々と、みずみずしく移ろう家族の日常を描いた、どこか不思議な物語。
この家族のあまり器用ではなさそうな様子や、親しさのなかに芽生えるちょっとした行き違い、鱈子さんの病気などが、少しずつ濁った澱のようにのこっていく・・・そんなもやりとした捉えどころのない不思議さがあるようです。
昏い影を織りこみながら物語は奇妙にゆがんでいきますが、それでも陰鬱なだけのお話に終わらなかったのは、鱈子さんたち家族が睦まじく平らかに日々を送っているせい。
とぼけた台詞やのんびりした時の流れ、ふいにぽっと灯りがともるような懐かしさ。
この本の穏やかなやさしさに惹かれながら、八木重吉さんの‘ぽくぽくごはんをたべたい詩’が読みたくなった私です。
Author: ことり
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『アカペラ』 山本 文緒

評価:
山本 文緒
新潮社
¥ 1,470
(2008-07)

じっちゃんと二人で生きる健気な中学生(『アカペラ』)、20年ぶりに田舎の実家に帰省したダメ男(『ソリチュード』)、無職で病弱な弟と暮す50歳独身の姉(『ネロリ』)。
市井の片すみで静かにそーっと生きている彼らの人生を描き、温かな気持ちをよび起こす3つの物語。

体調をくずし、しばらく筆を置かれていた山本文緒さんの復帰作です。
私が今まで読んできた彼女の本は、どちらかといえば女性にたいして鋭い視点で描かれていて、「ほんとうにそのままでいいの?」となにかキリキリしたものをこちらに突きつけてくるような厳しさも感じていたのですが、この本はそんなヒステリックな毒気のあるものとは少し違っています。
ちょっぴりいびつではあるけれど、読み終えたあとで心がじんわり温かくなる・・・そういう家族のお話たちは、闘病生活のなかで経験として感じたものもたくさん反映されているのかもしれません。

『ソリチュード』のなかで、友人が主人公を「優柔不断なのではなくて、融通がきかなすぎるんだ」とたしなめる場面があります。
「まわりの女のお願い、全部叶えられるわけねえじゃん。それ義理堅いっていうより傲慢よ。何でもかんでも背負い込もうとするから、逃げたくなるほど重くなるんじゃないの?」
他人に嫌われたくなくてついいい顔をしちゃうこと・・・ふだんそういうところのある私は思わずドキっとしてしまいました。
そして愛情をともなった柔らかな視線から、人にたいする深い洞察力が感じられた時、数年間の苦しい日々を経て変わったものや得たもの、失くしたものも多いだろうその一方で、やはりちっとも変わらない文緒さんらしさも見つけられて嬉しくなりました。
これからもお休みしながらゆっくりとご自分のペースでお話を書いてほしい、そう願う私です。
Author: ことり
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『くまとやまねこ』 湯本 香樹実、(絵)酒井 駒子

評価:
湯本 香樹実
河出書房新社
¥ 1,365
(2008-04-17)

突然、最愛の友だち・ことりをなくしてしまったくま。
くまは死んでしまったことりをうつくしい箱に入れて、大切に肌身離さず持ち歩きます。けれどもやがてかなしみのあまり、暗く閉めきった家にとじこもってしまい・・・。

せつなくて、うつくしくて、胸がしめつけられる。
「ねえ、ことり。きょうも『きょうの朝』だね。きのうの朝も、おとといの朝も、『きょうの朝』って思ってたのに、ふしぎだね。・・・ぼくたち、いつも『きょうの朝』にいるんだ。ずっとずっと、いっしょにね」
だけど時間は動いているし、「きょうの朝」は、いつもの朝とはかぎらない。
大切な人をうしなったとき、まるで自分までどうかなってしまった気がして、かなしみに押しつぶされて時間は死んだように動かない気がするものだけど、でもかなしみをすこしずつ癒してくれるのも時間なんだね・・そう思わせてくれる絵本でした。
時間がもたらしてくれたあたらしい出会いに、ほのみえるたしかな光。明るい未来が待っているおはなしってやはりいいなあと思います。

「そうだよ、くま。ぼくはきのうの朝より、あしたの朝より、きょうの朝がいちばんすきさ」

湯本香樹実さんの本はつねに‘死’と深く結びついているイメージがありますが、このおはなしの駒子さんの絵はほんとうにぴったりです。モノトーンのなかにちらりとピンクの差し色が使われているのも思い出がいきいきとよみがえるさまや心が再生していく様子をやさしく温めてくれるみたいで素敵だし、やまねこが弾いてくれたバイオリンの音色はじっさいに耳元でひろがるよう。
この絵本の頁をめくってみた瞬間、大好きなマリー=ホール=エッツさんの絵本『もりのなか』をどこか彷彿させたのですが、これは私の気のせいかしら?


湯本香樹実さん、酒井駒子さんのサイン会に出かけました。
サイン本です↓ <2008年9月追記>
Author: ことり
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『論理と感性は相反しない』 山崎 ナオコーラ

評価:
山崎 ナオコーラ
講談社
¥ 1,470
(2008-03)
神田川歩美、矢野マユミズ、真野秀雄、アンモナイト、宇宙、埼玉、ボルヘス、武藤くん。
会社員・神田川と小説家・矢野を中心に、登場人物がオーバーラップする小説集。「小説」の可能性を拡げる全15編。

ナオコーラさん、なんて一度きいたら忘れられないお名前なので気になっていた作家さんです。でもなんとなく風変わりなお話を書かれるのかしらと思っていたら、案の定・・・ちょっぴり私には良さが分かりづらかった・・・。
男女間の微妙なズレを描いた同棲生活から、ふざけたようなバイオグラフィー、『伊勢物語』を題材につかった哲学的なお話まで。おもちゃ箱みたいにごちゃまぜなのにじつは重なっている、そんな型破りな構成は好みだったのだけれど。

表題にもなっている「論理と感性は相反しない」という言葉を目にしたとき、どちらかといえば感性にたよって生きている私は、うーんそうかもしれないなあ、なんて思ったのですが、論理的な夫に言わせると「ぜったいに反する」のだそう。
相反しないと思うのは、感性で生きている人側の言い分なのでしょうか・・・?
Author: ことり
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