『しろいろの街の、その骨の体温の』 村田 沙耶香

季節が変わるごとにたくさんの転校生がやってくるニュータウンで、クラスの立場も性格も、正反対の女の子と男の子が出会う――。
学校が嫌いだった人たちへおくる、教室の物語。

主人公は、小4の結佳(ゆか)。女の子同士の複雑な友達関係をやり過ごしながら、習字教室が一緒の伊吹と親しくなり、やがて彼を「おもちゃ」にしたいという危うい欲望にかられていきます。
恋愛とも支配ともつかない関係をつづけながら彼らは中学生となり・・・。

ハァ・・・、読みながらなつかしい嫌悪感で胸がいっぱいになりました。
埃っぽい体育館のマットでぐるぐる巻きにされたみたいな、逃れようのない息苦しさ。
少女の、まわりを見下したような冷静さが時を追うごとに歪んでいく様子にため息がこぼれます。伊吹がじれったいくらいに健全すぎるから、なおさら。

白い骨がきしんだ音をたてる内側からの痛み・・・。不気味なスピードで広がっていく清潔で息詰まる住宅街が、「学校」という閉塞した世界での少女のひりつくような心の動きにかさねられています。
恋と友情、性の入り口、クラス内の暗黙の上下関係。
私自身はこんな大人びた少女ではなかったけど、あの頃たしかにあった‘女の子のリアル’が身体の奥からせり上がってきて、なんだかやるせないな・・・なんてざらざらした澱んだ気持ちにとらわれてしまいました。
Author: ことり
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『Layered』 松尾 たいこ

評価:
松尾たいこ
パルコ
¥ 2,520
(2011-06-01)

リズムあふれる色、圧倒的な光と自由が不思議な世界を作り出し観る人の心をとらえて離さない、松尾たいこ、初の作品集。

数多くの本の装画を手がけられている、松尾たいこさんの画集です。
クライマーズ・ハイ』(横山秀夫)、『スパイク』(松尾由美)、『巡礼者たち』(エリザベス・ギルバート)などの装画や、文と絵のコラボレーションが最高に素敵な『ふりむく』(江國香織)や『Presents』『なくしたものたちの国』(角田光代)など・・・私にとってもとてもなじみ深い方。
ポップなのにうるさくなくて、静謐でさえある彼女の絵にはキャンディみたいな楽しさと、時がとまったようなせつなさと、ながめているとスーーっと抜けるような開放感があります。光と影のとらえ方――たとえば木漏れ日、たとえばシーツのしわ、たとえばプールの水面のゆらぎ――がすばらしく、色彩のレイヤード(かさなり)によってまぶしく爽やかな空間が頁のむこうにひらかれています。
Author: ことり
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『嵐のピクニック』 本谷 有希子

評価:
本谷 有希子
講談社
¥ 1,404
(2012-06-29)

優しいピアノ教師の一瞬の狂気(「アウトサイド」)、ボディビルにのめりこむ主婦(「哀しみのウェイトトレーニー」)、カーテンの膨らみから広がる妄想(「私は名前で呼んでる」)、猿山の猿が起こす奇跡(「マゴッチギャオの夜、いつも通り」)・・・奇想天外、前代未聞、野間文芸新人賞作家の想像力がはじけ飛ぶ、13の“アウトサイド”な短篇集!

ヘンテコで、ぶっ飛んでいて、でも私は好きですこの短篇集。
本谷さんの世界、というか・・・めくるめく‘宇宙’を体感できました。妄想でふくらんだ物語は日常をひらりと逸脱して、妙ちきりんなおとぎ話みたい。
人間のちょっと病んだぶぶん、狂気とか鋭さなどが、物語のなかでファンタスティックに蠢きます。いまにもはじけそうなあやうさのまま、いつのまにかどこか遠くへはこばれてしまう感覚がクセになってしまいそうです。

一ばん好きなお話は、一話めの『アウトサイド』。
そのほか私のお気に入りは、『パプリカ次郎』と『タイフーン』、『いかにして私がピクニックシートを見るたび、くすりとしてしまうようになったか』。
Author: ことり
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『パリのちいさなバレリーナ』 ミカ・ポサ

わたし、イリア。きょうは、バレエの おけいこなの。

ママにシニョンをつくってもらって、イリアちゃんがおでかけします。
オペラ座の前をとおって教室へ。淡いピンクのレオタードに着替えたら――さあ、レッスンのはじまり。
アン ドゥ トロワ、アン ドゥ トロワ・・・
みんなと一緒にがんばるの。いつかすてきなプリマになるのを夢みて・・・。

パリのバレエ教室のひとときを繊細に切りとった、おしゃれな写真絵本です。
窓から差しこむ柔らかな日ざし、いきいきと踊る天使みたいなバレリーナたち。
その姿がまぶしくて愛しくて、いつしかふかふかのやさしい気もちになっていました。
Author: ことり
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『ピアノはっぴょうかい』 みやこし あきこ

評価:
みやこし あきこ
ブロンズ新社
¥ 1,365
(2012-04)

ももちゃんの、はじめてのピアノはっぴょうかいの日。
舞台のそでで出番を待っていると、「わたしたちも、はっぴょうかいしているの。みにおいでよ!」とこねずみが話しかけました。ちいさなドアの向こうで、ねずみたちが楽しそうにはっぴょうかいをしています。

「だいじょうぶ だいじょうぶ」
ステージに上がる前、どきどきしながらとなえる呪文。そんな経験私にもあるなぁ・・・なんて幼い頃のピアノはっぴょうかいのことを懐かしく思いだしていました。
かたい表情で順番を待っているももちゃんを、かわいいこねずみが自分たちのはっぴょうかいに誘ってくれるおはなしです。

たっぷりした赤いワンピースのももちゃん、小花柄のドレスでおめかしのこねずみ。
まっ暗な客席にステージの光がこぼれるように、ほの暗い空間にぽっとあかるい差し色がうかび上がるとても幻想的な絵本。
ねずみたちのはっぴょうかいは、サーカスにバレエに楽隊に・・・それはそれはまばゆいばかり。のびやかで大胆な演目が、ファーっと立体的に描きだされます。ももちゃんの楽しそうな笑顔。胸のどきどきはどんどんほぐれていくみたい。
「だいじょうぶ だいじょうぶ」 あのこねずみが緊張の面持ちでつぶやいているのがきこえてきました。彼女もこれからステージに立つんです。
ももちゃんがいっしょにピアノを弾いてあげると――?

さっと夢が醒めたような空間差がすごくいい。
胸のどきどきはすっかりなくなり、楽しい気持ちで弾くピアノは最高にすてきだよね!
「みなさん、ほんじつは でるかたも みるかたも
たのしく すごそうじゃないですか」
Author: ことり
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『アカネちゃんの涙の海』〔再読〕 松谷 みよ子

誕生日、おおかみの姿でアカネちゃんの所に来たパパには、実は死に神が近寄っていた。モモちゃんとアカネちゃんは多くの出会いや別れを経験し、前に歩き続ける。
どうして人は亡くなるの?核実験や戦争は誰がなぜするの?『アカネちゃんとお客さんのパパ』『アカネちゃんのなみだの海』収録。

ちいさいモモちゃん』、『モモちゃんとアカネちゃん』につづく、文庫化第3弾。
読み終えて、ぽとりとせつないため息がこぼれました。私は二人姉妹の姉だからモモちゃんにはとくべつ感情移入して読んでしまうのだけど、モモちゃんのつらさをぜんぜん分かってなかった、そう気づいたのです。
あとがきに「『モモちゃんとアカネちゃん』を書くなかで必要だったのは時間でした。」という言葉があります。松谷みよ子さんご自身の家庭が大きく反映されているこのシリーズは、ちいさいお子さんを赤ちゃん部屋にあずけて働くママをし、その後離婚をし・・・、「今日、なにかがあったからすぐ書くというのではなく、歳月のなかに放り出し、日や雨に晒して布目だけが残ったとき、はじめて書ける」ものだったそうです。
歳月が流れるなかで見えてくるものがあるなら、それは私たち読み手にとってもおなじこと。長い歳月が経って、かつて大好きだった物語を読み返してはじめて見えるものがたくさん、たくさん、ありました。
可愛らしいファンタジーときびしい現実がおなじ重さで溶けているこの物語は、すべての人にたいするやさしさ・・・欠点をもふんわりつつみ込んでくれるような包容力にふれたとき、こちらの胸にもあたたかいものが流れてきます。

ほんとうにやさしい人は、ほんとうにつよい人。
そのことを教えてくれたモモちゃん、アカネちゃん、ママ、どうもありがとう。
Author: ことり
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『モモちゃんとアカネちゃん』〔再読〕 松谷 みよ子

ちいさいモモちゃん』につづく文庫化第2弾。こちらにはシリーズの3巻めと4巻めを収録しています。
子どもの頃、シリーズで私が一ばん好きだったのが3巻めの『モモちゃんとアカネちゃん』でした。たぶん一ばんたくさん読み返したんじゃないかなぁ・・・?
アカネちゃんが生まれ、モモちゃんはおねえさんになります。おいしいもののすきなくまさん、双子の靴下タッタちゃんとタアタちゃんもこの巻から登場します。かわいいプーも活躍するし、ほんとうにほんとうに大好きだった本。

松谷さんの文章の、ふくらみをもって柔らかく読み手に語りかける、その感じが好き。でも一見フワフワとやさしくてあたたかいファンタジーでありながら、このお話には‘死’や‘別れ’もでてきます。
子ども向けの本なのにいま読むと人生の真実――暗い陰のさすぶぶん――もしっかり書き込まれていてびっくりします。昔、ちょうど「死んだらどうなるの?」って考えはじめたばかりだった私はママのところに現われる死に神が怖かったっけ・・・。
そして「靴だけが帰ってくる」パパ!・・・幼かった私にはいまひとつその‘意味’がわかっていなかったかも・・・、いま思えばなんてせつない場面だったことか。
大人になって読むと、なんともいえず胸にせまるものがあります。そしてあらためて気づくのです。子どもの世界が‘子どもだけの世界’ではなかったことに。
Author: ことり
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『ちいさいモモちゃん』〔再読〕 松谷 みよ子

なつかしい・・・!!
すこし前に再読した『ふかふかウサギ』(香山彬子)もそうとう懐かしかったのだけど、こちらはさらに小さい頃に大好きだったお話だから、もう、鳥肌ものでした。

この『ちいさいモモちゃん』にはシリーズの1巻めと2巻めが収録されています。
野菜たちがお祝いにやってきたり、黒猫プーがしっぽぱたぱたをしたり、怒ったモモちゃんがのった電車がお空を飛んだり・・・「そうそうそうそう!」って遠い記憶の底から眠っていたものものを引っぱり上げるようにして夢中で読みました。
あのころ、物語と現実は地続きでした。雨こんこんの歌や、まっくろくろけのプーとのおしゃべり、ミルクびんやガラガラをのせたうば車や、ママのお迎えを待っていた果てしない時間を、私はこんなにもくっきりと思い起こせる。
幼い私にこのシリーズを買い与えてくれた母に、感謝でいっぱいになるのです。

酒井駒子さんの装画をまとって、ルビもほとんどなく、大人向けの文庫化です。
心やさしいファンタジーのなかに‘人生の真実’がつまっているこのシリーズは、小さい頃に大好きだった大人はもちろん、はじめて読む方にもとてもおすすめです。


■ 「モモちゃんとアカネちゃん」シリーズ
『ちいさいモモちゃん』
『モモちゃんとプー』
『モモちゃんとアカネちゃん』
『ちいさいアカネちゃん』
『アカネちゃんとお客さんのパパ』
『アカネちゃんのなみだの海』
Author: ことり
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『星を運ぶ舟』 前田 昌良

評価:
前田昌良
求龍堂
¥ 1,575
(2011-11-08)

アルネの遺品』(ジークフリート・レンツ)や『猫を抱いて象と泳ぐ』(小川洋子)などの装画を手がけられた芸術家・前田昌良さんの作品集です。
端正な絵画と動くおもちゃで構成された、余白さえも美しい慎ましやかな小宇宙。

ゆらりゆらり・・・ ふらりふらり・・・
どこかぎこちなく、あやうげに均衡をたもつ小さなおもちゃたち。
そこには人生の戸惑いだとか不安、孤独がうつし出され、息を詰めたような沈黙世界がひっそりとひろがっています。
それはまるでリトル・アリョーヒンの人生そのもののよう。
あまりにも美しく、あまりにも頼りなく――、あまりにもしずか。

冒頭に、小川洋子さんの寄稿エッセイがあります。
からだの中に棲みついている小さな少年が、いくつかのエピソードを星座のように結びつけ‘物語’にしてみせてくれたお話です。少年のかすかな足音に耳をそばだて、小川さんが蜘蛛の糸を編むようにそっとつむぎ出してくれた『リンデンバウム通りの双子』(『まぶた』所収)を、小さな少年のささやかな気配を感じながらもう一度読んでみたくなりました。
Author: ことり
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『三好達治詩集』 三好 達治

三好達治さんの詩にはじめてふれたのは、教科書に載っていた『大阿蘇』でした。
「雨の中に馬がたつてゐる」ではじまるあの詩です。
ぐっしょりと濡れそぼって草をたべている馬たち。山が煙をあげ、雨が蕭々と降りつづくさま――そう、「蕭々と」というフレーズがとても印象深かった・・・。
この本には、詩集『測量船』の全篇と、あとは『南窗集』、『硫崕検戞◆懣福戞◆懷臉蚓ぁ戞◆悵貪西癲戞◆慊菜集』、『寒柝』、『花筐』、『干戈永言』、『故郷の花』、『砂の砦』、『駱駝の瘤にまたがつて』、『百たびののち』のそれぞれの詩集から少しずつえらばれた詩とエッセイが掲載されています。

三好達治さんの日本語はほんとうにうつくしい。
私は詩にはまったく詳しくありませんが、彼は私のなかでもっとも‘うつくしい’詩人に位置づけされています。『大阿蘇』をはじめ、『いにしへの日は』(この詩集には未収録)、『甃のうへ』などどれも流れるような言葉のつらなりがうつくしく、いつもうっとりと酔わされてしまいます。
うつくしくて、はかなくて、哀しくて、なつかしい――
三好さんのつむぎ出す清らかな言葉たち、その情景に心ゆくまでみたされました。

母よ――
淡くかなしきもののふるなり
紫陽花いろのもののふるなり
はてしなき並樹のかげを
そうそうと風のふくなり

時はたそがれ
母よ 私の乳母車を押せ
泣きぬれる夕陽にむかつて
轔々と私の乳母車を押せ (『乳母車』より)

太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。 (『雪』)

ゆくすゑをなににまかせて
かかるひのひとひをたへむ

いのちさへをしからなくに
うらやまのはやしにいれば

もののはにあられふりける
はらはらとあられふりける (『あられふりける 一』)
Author: ことり
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