『どんぐり姉妹』 よしもと ばなな

評価:
よしもと ばなな
新潮社
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(2010-11)

姉の名はどん子、妹の名はぐり子。突然の事故で奪われた、大好きだった両親の笑顔。気むずかしいおじいさんの世話をしながら、学んだ大切なこと。苦しい時間を姉妹は手をとりあって、生きてきた。とめどなく広がる人生で、自分を見失わないように。気持ちが少し楽になる居場所、それが「どんぐり姉妹」。
「私たちはサイトの中にしか、存在しない姉妹です。私たちにいつでもメールをください。時間はかかっても、お返事をします。」――メールは祈りをのせて。ネットが癒やす物語。

人の死が中心にありながら、こんなにもぽかぽか温かいのはなぜなんでしょう。
幼い頃に亡くした両親の面影をせおって、見知らぬ誰かの悩みごとをメールで聞いてあげる「どんぐり姉妹」。姉妹がほのぼのと仲がよく、お互いを思いあっていることももちろんあるけれど、人間関係が希薄だといわれるインターネットでさえ、「みんなちゃんとつながっている」そう思わせてくれるせい・・・?

人々はたわいない会話がどんなに命を支えているかに無自覚すぎるのだ。
ばななさんの物語はいつも、しずかなエネルギーがぴしぴしとみちています。
大気をぐるぐる循環している目に見えないものたちの気配。たとえばもうずいぶん会っていない誰かを夢にみたり、思いがけず再会したり、そういうすべてが偶然ではなく、どこかでなにかがつながっているのかもしれないと信じてみたくなるのです。

夢にでてきた昔好きだった人を、「検索してみたら?」と言われる場面。
調べたらみんな蒸発しちゃう、この豊かな水が。この水をゆっくりと一滴ずつためて、きれいな湖をつくるまでにかかる時間のほうが好き。
なんてばななさんらしい文章だろうと思います。
キッチン』や『TUGUMI』などのお話が書かれた頃からどんなに時代が変わっても、ばななさんの伝えたい思いはちっとも変わっていない。そのことがとても頼もしくて、うれしくて、この本を読みながら心がすこしだけ頑丈になった気がします。
Author: ことり
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『哀しい予感』 吉本 ばなな

弥生はいくつもの啓示を受けるようにしてここに来た。それは、おばである、ゆきのの家。濃い緑の匂い立ち込めるその古い一軒家に、変わり者の音楽教師ゆきのはひっそりと暮らしている。2人で過ごすときに流れる透明な時間。それは失われた家族のぬくもりだったのか。
ある曇った午後、ゆきのの弾くピアノの音色が空に消えていくのを聴いたとき、弥生の19歳、初夏の物語は始まった。

雨と緑の濃い匂い。ひどく孤独で、でもとても美しい物語です。
弥生、ゆきのおばさん、哲生くん、正彦くん、弥生を育ててくれた両親・・・みんなの優しさとひたむきさ、たしかなものにくるまれている感じが心地よいのです。
おばの家で見つけた、泣きたいほどなつかしく胸にせまる想い出の数々。不思議な能力がキラキラと神秘的な輝きを放ち、誰かが誰かを気にかける純粋なエネルギーがしずかにしずかにうずまいて、読んでいるとすいこまれそうでした。
Author: ことり
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『ひな菊の人生』 吉本 ばなな

たて笛、林、ダリアとひな菊の幼い魂の約束――。
ひな菊25歳。生まれたときから父はなく、母も幼くして交通事故で亡くした。今は高春のところに居候して、おじさん夫婦の営む店でやきそばを焼く毎日だ。幼いころ別れた親友ダリアを今も思い出しながら・・・。

よくいっしょに添い寝をしてくれた愛らしい母親も、たて笛を吹くと林のなかを駆けて会いにきてくれたダリアも、いまはもういない。
この本を読んでいると、私たちは普通に生きていることが当たり前なのではなくて、こうして無造作に笑っていられることがじつは奇蹟で、なにかとても優しくて美しい決まりごとにのっとって生きている・・・そんなことを思い知らされてしまいます。
言葉のひとつひとつがスコーンと心にひびいて、不思議な夢や感覚も日常にとけこむようにして受け入れ、枯れ葉の匂い、人肌にしみ込んだ香水の香り、やきそばの湯気・・・そんなかたちなきものたちまでもが、くっきりと輪郭をもって届くのです。

「一回でも会うと、そのときにひとつの思い出というか、空間ができるでしょう。それはずっと生きている空間で、会わなければこの世に全くなかったもので、全く人間どうしが無から作ったものだから。」
誰かが誰かと出会って生まれたそのときの空間は、誰も――天や運命でさえも奪うことは永遠にできない、そんなふうに語る高春の言葉がとても印象的。
奈良美智さんのちょっと陰のある可愛い挿絵が、この本のフワフワとしたきびしさにぴったりと合っています。
Author: ことり
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『まぼろしハワイ』 よしもと ばなな

評価:
よしもと ばなな
幻冬舎
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(2007-09-26)

『まぼろしハワイ』、『姉さんと僕』、『銀の月の下で』、ハワイにまつわる3つのお話をおさめた中編集。
蜜のような風の匂い、空間をひらっとなでるパウスカートのすそ、とろけたバターみたいな金色の夕方・・・砂浜の白もハイビスカスの赤も、なにもかもが眩しすぎる光の楽園。そんな天国を思わせる土地で、哀しみのかたまりを少しずつ溶かしていく人びとが描かれています。

ばななさんの初期の頃の小説が大好きな私は、ある時から彼女の書かれるものによく登場するようになった、あまりにもスピリチュアルな感覚についていけなくなったのもたしか・・。けれどこの本は、『キッチン』や『サンクチュアリ』のお話に通じるものをすごく感じて、ああ、あの頃からばななさんが書きたいものはちっとも変わっていないのだなあ、と気づいたのです。
不幸な時に見る風景たち・・・いつしか立ち直った時にはもっと違って見えるということ。時とともに哀しみは薄れ、いつかきっと明るい日々が、きれいな景色とともによみがえってくるという真実。それらが文中から感じられて、世の中そんなに捨てたもんじゃない、なんてしみじみ思わされてしまった私。
あとがきには「この本の中にはなにかがあります。」と書かれています。毎日のルーティンのなかでこぼれるように過ぎていく時間、目をこらして見ていたい悲しいほど美しい一瞬。心にしみる人びとのやさしさや自然のもつ治癒力、そんなかけがえのないものものがハワイの魔法にかけられてきらきらしているのが全身で感じられました。

ハワイは私自身にとっても家族で訪れた思い出深い場所。
過去と今、生と死・・・神々の島・ハワイを舞台にそれらが巧みに交差するお話たちは、登場人物がしっかり日常に根づいているせいか、幻想でも夢でもない、きちんとしたリアリティがあります。そのぶん、心のずうっと深いところまでひびくようです。

「ママに見せてあげたかったな。大きくなった私を。あざみさんを気遣える私を。」 私は言った。小さな声でそう口に出したら涙が出てきた。
「天国から見ている」とか「きっとパパと今いっしょにいてたまにこういうすてきな場面を見ているんだ」とかではだめなのだ。
歳を重ねてしわが増えたママに、生きている眼球で眼筋をつかって、その心臓をどくどく動かしながら見てほしかったなあ、ということだ。
もしも天国があるとしたら、それはさぞかし美しいものだろう。
でも、ぐちゃぐちゃでなんでもありでもほんの一瞬くらいは美しいときもある、このあてにならない地上は生きている人たちのものだ。(『まぼろしハワイ』)
Author: ことり
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『白河夜船』 吉本 ばなな

評価:
吉本 ばなな
新潮社
¥ 420
(2002-09)

いつから私はひとりでいる時、こんなに眠るようになったのだろう――。植物状態の妻を持つ恋人との恋愛を続ける中で、最愛の親友しおりが死んだ。眠りはどんどん深く長くなり、うめられない淋しさが身にせまる。ぬけられない息苦しさを「夜」に投影し、生きて愛することのせつなさを、その歓びを描いた表題作「白河夜船」の他「夜と夜の旅人」「ある体験」の“眠り三部作”。定本決定版。

ばななさんの文章の浮遊感が好きです。漂っているようで、でもきちんと流れていてストーリーがちゃんと動くのがいい。
潮が満ちるように訪れるだるくて重たい眠りも、夜が、ひたすら静かに「ゴムのように無限に続く」感覚も、ああ・・わかるなって、あの覚束ない、言葉で言い表せなかったあの頃の心情をもっとも正確な言葉で言いあてられた、そんな感じがしました。
一ばんよかったのは、やはり表題作。花火とうなぎのラストが素敵・・・。彼女の物語はいつも、死や哀しみに打ちひしがれ世の中からふっと消えてしまいそうなところにいる人を、やさしくくるんであげるように描かれているのですよね。

しとしと雨にとじ込められた部屋。まるで子守唄みたいにばななさんの‘ことのは’が心にひびきます。とても儚くて、どうしようもない喪失感といとおしさがぐるぐるとうずまいて、私を少しずつまどろみの世界に誘ってくれる。
しんとひそやかな夜の底――
世界がつめたさに沈んで、カップのなかのココアだけがあたたかい。
Author: ことり
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『TUGUMI』〔再読〕 吉本 ばなな

評価:
吉本 ばなな
中央公論社
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(1989-03)

病弱で生意気な美少女つぐみ。彼女と育った海辺の小さな町へ帰省した夏、まだ淡い夜のはじまりに、つぐみと私は、ふるさとの最後のひと夏をともにする少年に出会った――。
少女から大人へと移りゆく季節の、二度とかえらないきらめきを描く、切なく透明な物語。第2回山本周五郎賞受賞。

まだ学生だったころ、夏が訪れると本棚から引っぱり出して読んだ本、それがこの『TUGUMI』です。
口が悪くていやな女の子・つぐみを中心にしながらも、このお話にあふれているのはやさしさばかり。かがやく海と潮風につつまれた夏の景色はとても懐かしいものを運んでくれるみたいで、読んでいるといつも、私の胸はせつなさでいっぱいになってしまいました。
私がそだったのも海辺のちいさな町で、まいにちが濃くて楽しくてまっ黒に日焼けした、そんな思い出がよみがえってきます。もうにどと帰れない、きらきら煌めく遠い日々たちをたまらなく愛おしく思う・・・でも過ぎ去った日を懐かしむと同時に、いまこの時がかけがえのない瞬間であることもあらためて気づかせてくれます。

幼い頃から身体が弱くチヤホヤされたせいで、我儘で粗野な性格になってしまったつぐみ。そんなガラスで出来たはりねずみみたいなつぐみのことを、ぜんぶ分かっている、と言うふうなおおらかさでつつみ込むまわりのみんなのやさしいこと・・・。
かぎりなくやさしくて、すこし張りつめた光のプリズムを放つひと夏の物語。
Author: ことり
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『キッチン』〔再読〕 吉本 ばなな

評価:
吉本 ばなな
角川書店
¥ 420
(1998-06)

よけいなものがそぎ取られた、ばななさんの感受性と彼女が大切にしているもの・・・それだけがむき出しになったようなお話たちは、まっすぐにこちらの心に届きます。
お話がシンプルなぶん、ある瞬間の心の動きや恋をした時に目にする風景などが、鮮やかに物語に映し出されているようです。

『キッチン』『満月―キッチン2』は、なんだかとても大切なことをあらためて私の胸の奥底から引っぱり出してくれたお話で、天涯孤独のみかげが最後の肉親をなくしたあともかけがえのない人たちに出逢い、その人をなくしてみてその存在の巨大さを‘肉親のとき以上に’実感する・・というのがすごい重さをもって伝わってきて、胸が押しつぶされそうになってしまいました。
『ムーンライト・シャドウ』では、恋人との死別からの再生を描いています。はかなげな鈴の音色、青い朝靄にうかぶ橋・・・こまやかな情景の、そして感情の描写。読むたびに涙がこぼれてしまう物語です。

ばななさんの初期の小説はほとんど中高生のときに読んだのですが、私はこのころの彼女の本がとくに好き。
この本に入っているのはすべて哀しみにみちたお話なのに、力強さをともなった爽やかな読後感が待っています。それはきっと、哀しみがずっとそこにとどまらないで、かなたにある希望が感じられるからなのでしょうね。明るい未来が感じられるお話ってやはりいいなあ、そう思います。

ひとつのキャラバンが終わり、また次がはじまる。また会える人がいる。二度と会えない人もいる。いつの間にか去る人、すれ違うだけの人。私はあいさつを交わしながら、どんどん澄んでいくような気がします。(『ムーンライト・シャドウ』)
Author: ことり
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『チエちゃんと私』 よしもと ばなな

評価:
よしもと ばなな
ロッキング・オン
¥ 1,365
(2007-01-30)

突然おとずれた中年の従姉妹との同居生活。その奇妙な暮らしの中で見つけたものは?人生のときめきを紡ぎ出すための「再生」の物語。

42歳のカオリが、なりゆきで35歳のチエちゃんと暮らすことになるお話です。
カオリもチエちゃんもちょっと変わった二人。
でも二人の生活はちっともいやな感じのものではなくて、どちらかというと私の心に気持ちよくそってくれる、そんなステキな空気にみちていました。

カオリは(それはばななさんは、ということだけど)‘今’をすごく大切にしていて、自分で選びとったのではなく、ただそこにあるものとして受け入れていきます。
過去と未来につながる‘今’、この瞬間。
いいかげんに生きてると気づかずに通り過ぎてしまいそうなもの・・・そのすみずみにまできちんと視線が行き届き、たんねんに描かれていて、時折ハッとさせられます。
人と人のつながり、その距離感・・・あいまいなはずのものがとてもリアルに表されている一冊でした。

私を思って、私に対して向けられたごほうびみたいな他人たちの感情。
それは、誰にもわけてあげられない、私だけのキャンディなのだ。
Author: ことり
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『イルカ』 よしもと ばなな

評価:
よしもと ばなな
文藝春秋
¥ 1,330
(2006-03-20)

主人公は恋愛小説家のキミコ。
自分の孤独さと家族についてあれこれ考える日々。
つきあい始めたばかりの五郎には、もうずいぶん前からうんと年上の‘内縁の妻’がいる。これ以上好きになって苦しくなるのがこわいから、と東京を離れたとたん妊娠が発覚し・・・。

ほんと言うと、ひとつひとつに着目してみれば、受けいれがたかったり、疑問に思ったり、否定的な感想をいくつももってしまった本でした。キミコのように物事を自分のいいようにいいように解釈し、形にこだわらなさすぎるのもどうなのかな。
だけどストーリーそのものはひとまず置いておいて、心を全開にして感じとっていく・・・そんな読み方をしてみたら、ひらいた頁からみなぎってくる不思議なパワーを感じる本でもあったのです。
生や死や、人と人とをつなぐもの、しばるもの・・・目には見えないけれど確かにそこにあるもの。妊娠・出産に加え、そのほとんど対極にある「剥製」がモチーフとも言えるこのお話は、霊感のつよい女の子が出てきたりもして、全体的にスピリチュアルな空気をいっぱいにみたしています。
それは運命というわけではなく、多分私の奥底が望んで呼び寄せたのだろう。まだこの世にやってきていないある魂との出会いを。

私はこの小説から、うまく言えませんが大きな真実の力のようなもの・・・生きていくうえでどうしても外せないと思っただろう、すごく大切なこと。そういうばななさんからのメッセージを強く感じてしまいました。
これを書かれた時のばななさんの心に、私のチャンネルを合わせ合わせ読まないといけないところが多くてちょっと大変でしたが、読んでよかったなあ、って素直に感じることができました。
Author: ことり
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『なんくるない』 よしもと ばなな

評価:
よしもと ばなな
新潮社
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(2004-11-25)

東京の最高気温が4℃なのに、沖縄のそれは22℃。テレビがそんな予報を告げる冬の一日に読んだ本。
そこには、沖縄の日ざし、空、海、風、雲、花、砂・・・それからゆったりとした時の流れ、辺りをたゆたう空気の粒子みたいなものまでが完ぺきに再現されていて、真冬の東京にいてさえ「沖縄」を肌で感じることができました。
『ちんぬくじゅうしい』、『足てびち』、『なんくるない』、『リッスン』。4つのお話はすべて内地から沖縄へと渡った観光客が主人公です。
どのお話も、舞台が沖縄でなかったらこの空気感はきっと出せなかったんじゃないかしら・・・。言葉にするのはちょっとむずかしいのだけれど、沖縄にはなにか特別なチカラがそなわっているような気がするの。

きらめくような純粋さのなかに、哀しみもちょっぴりおぞましいものもとり込みながら解放していくお話たち――・・・ああ、どれもとてもばななさんらしいなあと思います。
かけがえのないことはどんどん変化していく。(『ちんぬくじゅうしい』)
この本を読んでいると、沖縄という楽園で、書き手であるばななさんの魂と読み手の私の魂がゆるりとほどけて溶けあったような、そんな不思議な感じがしたのです。
Author: ことり
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