『とける、とろける』 唯川 恵

評価:
唯川 恵
新潮社
¥ 1,470
(2008-03)

恥ずかしいなんて思わない。彼となら、何でもできる――。
甘やかで、底知れない性愛の深みに堕ちていく女たちを描く、官能に満ちあふれた九つの物語。

「どうしてこんなことになってしまったんだろう」
9つのお話にうずまいているのは、苛立ちとも後悔ともつかない気持ち。
性描写もありますが、不思議といやらしい感じはしなかったのです。主人公たちのひりつくような淋しさが先に立つせいかしら・・・ぽたりと落ちた一滴の薄墨がじわじわと広がっていくのを見ているみたいな、そんな身近な怖さのある短篇集でした。

どのお話も主人公は孤独をもてあます30代の女性たち。
淋しさのあまり、とろけるような愛の行為に溺れていくさまが小気味よいほどのタッチで描かれています。孤独のすきまを埋めてくれる快楽と、いつのまにか憑かれている狂気。ゾクリと背すじをつめたくさせる不穏な結末。
ふだんは潜んでいる、だけど女性なら誰でも心の奥でくすぶらせているちょっとやっかいな気持ちをお話のなかで引きだしてしまうから、唯川さんの書かれたものはこんなにもザラザラした感覚をよび起こすのでしょうか。

夫にとって、いつまでも‘女’でありたい。
こういう小説を読むと、女性としていつまでも枯れたくはない・・・そうつよく思わされてしまいます。
Author: ことり
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『天に堕ちる』 唯川 恵

評価:
唯川 恵
小学館
¥ 1,470
(2009-09-28)

人間が持つ、明と暗、優しさと毒、幸福と恐怖――それらは隣り合わせにある。だから、人はほんのささいなことで足を滑らせてしまう。
そんな風景が歪む一瞬を切り取った、九人の女性と一人の男性を主人公とする連作集。

そういえば、唯川さんの‘短編集’を読むのはこれが初めての私です。
なんとなく手にした一冊だったのに、ちょっとしたホラー小説なみのその怖さに、気がつけばいっきに読んでしまっていました。唯川さん、短編だとキレが増すみたい・・・毒もびりびり効いてきます。

登場人物の壊れていくさまやゆがんだ考え方を目の当たりにしながら、私はこうはならないわ、という思いと、ああでもどうだろう?わからない、という思いが自分のなかでせめぎ合うのが分かる。
人、とくに女性の深部にうずまく黒々としたぶぶんを表にうかび上がらせた痛々しいお話たち。この本の中の誰かに自分自身を見てしまった時の心地悪さといったら。
どのお話も、お話の‘その後’に思いをめぐらせずにはいられなくて、なんともいえない余韻をのこします。とりわけ印象的だったのは、『りつ子』、『可世子』、『光』。

私がしたかったのは恋。
いつかどうせ滅びてしまうなら、恋に滅びてしまいたかった。(『りつ子』)
Author: ことり
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『100万回の言い訳』 唯川 恵

知り合った頃、この人と恋人になりたいと思った。恋人になったら、結婚したいと思った。夫婦になった今、次はどうすればいいのだろう――。
士郎と結子は結婚七年。平穏な生活で仲は悪くない、だけど何か足りない。ところが思いがけない事による別居生活が始まって、二人は・・・。離れて、恋をして、再び問う夫婦の意味。結婚に悩めるあなたの胸に、静かな波紋を呼び起こす長篇小説。

展開の速い恋愛ドラマをみているよう。
これまで生きてきて、世の中せまいなぁーと感じたことはままあるけれど、このお話の‘世の中’はあまりにもせますぎてちょっと不自然だったかな・・・。予定調和的に誰もかれもがつながってきちゃうのには苦笑してしまった私です。
それでもおもしろく読めたのは、夫婦である結子と士郎を軸に、シングル・マザーの志木子、独身の陸人・・・各章がこの4人それぞれの語りになっていること。夫婦だけではなくさまざまな立ち場での考え方や価値観の違い――もちろん男女間の違いも――を比較しながら読めるのがとてもおもしろかったのです。ふと目にとび込んでくる一文が思いがけず深くてドキドキさせられてしまう、そんなところも。
私はべつだん結婚生活に悩んでいるわけではありませんが、つまるところ幸せってどういうことなのかしら・・・なんて、しんみり考えさせられたお話でした。
Author: ことり
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『キスよりもせつなく』 唯川 恵

失恋の痛手もまだ癒えない知可子は27歳のOL。予定のない週末、偶然に会った同僚の有季から彼氏と紹介されたのは、知可子をふった張本人だった。レンタルビデオ店で出くわした男を仮の恋人に仕立てあげ、その場をしのいだ知可子だが、皮肉な恋の運命が回りはじめる。
知可子と、彼女を巡る女たちそれぞれの愛の選択、恋の行方は?
迷い悩みながら、ひたむきに恋する女たちの姿を描く長編。
Author: ことり
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『一瞬でいい』 唯川 恵

評価:
唯川 恵
毎日新聞社
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(2007-07-20)
1973年11月、浅間山での出来事が18歳の二人の少女と一人の少年の運命を変えた。
事故の重みを胸に秘め、大人へと成長してゆく三人。
著者が自らと同年生まれに設定した主人公たちの18歳から49歳までの人生の軌跡を描く、すべての世代に贈る31年間のラブ・ストーリー。

みぢかな誰か(それはもちろん自分自身だったりもするのだけれど)を当てはめて、重ねてしまえる恋愛小説――私が唯川さんの本にいだいていたイメージです。
恋にまつわる悩みごとが人生の一大事。近しい主人公の近しいお話・・・どちらかと言うとかるい気持ちで読みたいときに重宝していた彼女の本。
けれどこの物語は、これまでのイメージをすっかり覆してしまうもの。波乱万丈、ドラマティック・・・こんな形容がぴったりの一冊なのです。

大切な友人を亡くしてしまった男女。十字架を背負いながら歩むそれぞれの人生は思いがけなく交わっては離れることをくり返し、激動の時代を加速度をまして進んでいきます。
複雑にからまる恋心。生活の変化。ぬぐい去れない罪悪感。
あまりにも自分を責め続ける彼らに、「もっとわがままに生きて。もっと自分の幸せに貪欲になっていいよ」と思わずにいられなかった私ですが、それは友人の死の責任の一端が自分にある、そんな経験を味わったことがないシアワセな人間の身勝手な言い分なのかもしれません。
人生は紙一重。奥深くてむずかしい・・・当たり前のことを重くせつなく痛感しました。おそろしく非情で、けれどとてもあたたかなことも。

「大切なものは壊れやすいの。若い時なら修復する時間はたっぷりあるけれど、私たちはもうそんなに若くない。」
‘もしも’の人生。これまで、そしてこれから。いろんなことを考えさせられます。
今まで読んだ唯川さんの本の中で、一ばんよかった。ずんと心にひびく物語です。
Author: ことり
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『恋の魔法をかけられたら』 唯川 恵

恋とは?愛とは?セックスとは?結婚とは?人生とは?――唯川恵が、江國香織・山本文緒・藤田宜永・小池真理子・阿木燿子・柴門ふみ・角田光代・北方謙三の各氏と語り尽くした、刺激的で愛に満ちた、とっておきの“恋愛対談”待望の文庫化。

恋愛小説家たちが恋愛について語りあう対談集です。
江國さんにはかくべつの思い入れがある私、この本でもやっぱり江國さんとの対談ぶぶんはとくに贅沢なものでした(彼女は最初と最後、2度も登場するのです!)。結婚のこと、失恋のこと・・・共感できることばかり。すごくおこがましいですが、この話題なら私もおふたりといっしょに盛り上がれるなぁ、なんて思ってしまいました。
もちろんほかの作家さんたちとの対談も、うなずけるもの、目からウロコなことなど、素直な思いやエピソードがいっぱい。
こんな言い方をすると失礼かもしれないけれど、唯川さんは私たち女性にとってとても身近な感じのする作家さん。この本でもすごく聞き上手でいらして、気さくで誰からも好かれるような、そんな人柄が伝わってきました。

この本にはそれぞれの著作もたくさん話題にのぼります。
とりわけ唯川さんの『肩ごしの恋人』はひんぱんに出てくるので、読んでいない方はちょっぴりちんぷんかんぷんかも。
Author: ことり
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『風姿恋伝』 唯川 恵

評価:
唯川 恵
小学館
¥ 1,050
(2007-02-24)

作家・唯川恵さんが綴る、30代をハッピーに導くエッセイ。変わりたいけど、今更遅すぎ?私の人生、本当にこれでよかったの?・・・仕事や恋だけじゃなく、結婚、出産、将来の不安など、様々な悩みを抱える30代女性に、「悩んでいるのは私だけじゃない!」と元気を与えてくれる!
ファッション誌『Domani』の人気連載を単行本化。
Author: ことり
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『燃えつきるまで』 唯川 恵

別れないか。
と、耕一郎が言った。
こんな一文ではじまる失恋小説。
恋も仕事もすべてが順調だった31歳の怜子は、結婚前提で5年間つきあってきた恋人・耕一郎から突然別れを切り出されてしまいます。
理由がわからず、どうしても別れを受け入れられない怜子が、絶望し、自分を見失い、もがき苦しみながらも再生への道を模索する様子を描いた物語。

今だからこそ読めたお話だと思いました。泣きはらし、孤独とたたかい、浮上しては落ちることをくり返す怜子の姿に、過去の古傷がジクジク痛んでしまった私です。
・・・まるで‘あのとき’の私を見ているみたい・・・。
さすがに合鍵を使って家に上がり込んだり、いやがらせをしたりはレアなケースだと思うのだけど、この失恋の痛さ、共感できる女性はきっと少なくないはず。
「恋」が順調だからこそ何もかもが楽しくて、たとえ仕事で嫌なことがあっても、抱きしめられればそれですべてが帳消しになる。そんな「恋」という基盤が足もとから崩れ去ったとき、何もかもがうまくいかなくなる。手につかなくなる。
――恋愛中心。
自分だけはそんなふうにはならない、そう思っていたはずなのに・・・。
かなりリアルで重く苦しいお話だから、心が病んでいる時には避けたほうがよさそう。
Author: ことり
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『あなたへの日々』 唯川 恵

自分をひたすら愛してくれる、好きは好きだけど恋愛対象ではない男友達・徹也からのプロポーズと、女性関係に奔放で1対1の付きあいなどとうてい望めない芸術家・久住への激しい想い。
はざまで揺れる、曜子の心もようを描いた物語。

あらすじだけ書いてしまうとなにやら陳腐な感じもするけれど、なかなか読みごたえのある内容でした。
私自身、別れた恋人を忘れたくて、好きになれるかも?と言い聞かせて‘愛してくれる人’とつきあったそんな過去・・・長続きはしなかった恋愛を思い出します。
私の居場所は本当にここなのだろうか。
その経験があったせいか、あまりのつらさに久住をふっきって徹也とつきあった曜子が、やさしすぎる徹也にイライラしたり傲慢になったり・・・自分でもすごくイヤな女になっていくのを止められない場面などはものすごく共感できてしまったのです。
こういうお話を書かせたら、唯川さんはやはりさすがですね。

この本を読んで、自分を愛してくれる人(夫です)を心から愛せる幸運をかみしめた私です。
‘愛される’ことにばかりこだわっていたら、いまの幸せはなかったと思うから。
女の幸せは愛されてこそ?・・・でもやはり、私は相手を‘愛して’いたいの。
Author: ことり
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『肩ごしの恋人』 唯川 恵

評価:
唯川 恵
マガジンハウス
¥ 1,470
(2001-09)

女は綺麗で、セックスがよくて、一緒にいて楽しいこと以外、何が必要なの?――美貌を武器に、人が欲しがるものはなんでも欲しがり、人がいらないと言ったとたんに興味をなくしてしまう女、るり子。
男もセックスも好きよ。だけど、男もセックスも信用してないわ。――レイプされた過去を持ち、そのトラウマからか、どこかで結婚にたいして嫌悪を抱いてしまう女、萌。
5歳からの幼なじみ。対照的な彼女たちは、けれど互いをきちんと認めあっている。そんなふたりの内なる成長をさわやかに描いた第126回直木賞受賞作。

離婚、不倫、ゲイ、家出少年、未婚の母・・・ほんと言うと、ストーリーにとりたてて新鮮みがなかったのもたしか。けれどすごくおもしろかったのです。
るり子のキャラクターが際だっていることと、ぽんぽん勢いよく発せられる彼女たちの台詞がイマドキの独身女性の心情をよく表していて、私にとって共感できる箇所――もちろん、るり子にしたって萌にしたってすこし極端すぎるのだけど、心の奥の小さな鈴がかすかに共鳴する――そういうぶぶんがたくさんあったせいなのかも。
ちょっと思いきったことを書いてしまえば、ほとんどの女性のなかに‘ふたり’は棲んでいるのではないかしら・・・。女性の方ならたぶん、私の言いたいことをわかってくれるはず。
この本はきっと、女性なら多かれ少なかれ思い当たる心の奥の‘るり子’や‘萌’を、少し大げさに映しだした鏡のようなもの・・。るり子も萌も、けっして最後までめげないところが、読後感をさわやかなものにしてくれました。
Author: ことり
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