『アカペラ』 山本 文緒

評価:
山本 文緒
新潮社
¥ 1,470
(2008-07)

じっちゃんと二人で生きる健気な中学生(『アカペラ』)、20年ぶりに田舎の実家に帰省したダメ男(『ソリチュード』)、無職で病弱な弟と暮す50歳独身の姉(『ネロリ』)。
市井の片すみで静かにそーっと生きている彼らの人生を描き、温かな気持ちをよび起こす3つの物語。

体調をくずし、しばらく筆を置かれていた山本文緒さんの復帰作です。
私が今まで読んできた彼女の本は、どちらかといえば女性にたいして鋭い視点で描かれていて、「ほんとうにそのままでいいの?」となにかキリキリしたものをこちらに突きつけてくるような厳しさも感じていたのですが、この本はそんなヒステリックな毒気のあるものとは少し違っています。
ちょっぴりいびつではあるけれど、読み終えたあとで心がじんわり温かくなる・・・そういう家族のお話たちは、闘病生活のなかで経験として感じたものもたくさん反映されているのかもしれません。

『ソリチュード』のなかで、友人が主人公を「優柔不断なのではなくて、融通がきかなすぎるんだ」とたしなめる場面があります。
「まわりの女のお願い、全部叶えられるわけねえじゃん。それ義理堅いっていうより傲慢よ。何でもかんでも背負い込もうとするから、逃げたくなるほど重くなるんじゃないの?」
他人に嫌われたくなくてついいい顔をしちゃうこと・・・ふだんそういうところのある私は思わずドキっとしてしまいました。
そして愛情をともなった柔らかな視線から、人にたいする深い洞察力が感じられた時、数年間の苦しい日々を経て変わったものや得たもの、失くしたものも多いだろうその一方で、やはりちっとも変わらない文緒さんらしさも見つけられて嬉しくなりました。
これからもお休みしながらゆっくりとご自分のペースでお話を書いてほしい、そう願う私です。
Author: ことり
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『眠れるラプンツェル』 山本 文緒

昨日も暇だった。明日もたぶん暇だろう。
結婚6年目、専業主婦。子どもはいない。退屈でない暮らしなど、考えただけでゾッとする。多忙な夫は今夜も家に帰らない。
この緩やかな生活に、猫と隣家の息子が飛び込んできてから、何かが崩れ始めた。封印したはずの衝動。少年との、二人だけの秘密。嘘は次第に周囲を巻き込んで――。
Author: ことり
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『パイナップルの彼方』 山本 文緒

都会の片隅でひとり暮らしをし、父親のコネで入った信用金庫で居心地のいい生活を送っている平凡なOL・鈴木深文(みふみ)。
上司や同僚ともそれなりにうまくやっていたが、ひとりの新人の女の子が配属された時から、深文の周りの凪いでいた空気がゆっくりと波をたて始めた――。現実から逃げだしたいと思いながらも、逃げだすことをしない深文の想いは、短大時代の友人月子のいるハワイへと飛ぶ・・・。
あなたの周りにもあるような日常を、絶妙な人物造形で繊細に描く、驚くほど新鮮なOL物語。
Author: ことり
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『ファースト・プライオリティー』 山本 文緒

31人の、31歳女性。そこには、31通りの人生がある。
それぞれの事情、それぞれの分岐点。
それぞれの、最優先事項(ファースト・プライオリティー)――

ひとつひとつ、けっして長くはない物語たち。
31個ものストーリーのなかで、私がいちばん好きなのは『燗』というお話でした。

『燗』
半年前に家を出て行った夫と離婚話をするため待ち合わせたファミリーレストラン。現れたのは夫ではなく、結婚式で一度会ったきりの夫の父親だった。
下戸な夫とちがって酒好きの義父と、おなじく酒好きの主人公は意気投合。酒を酌み交わし、店を変え、本題もそっちのけで酒談義に花を咲かせる。
人肌と日向。あたたかなものがぬる燗酒のようにしみてくる、ちょっといい話。

同世代の女性はもちろん、読者ひとりひとりが自分自身の‘31歳’を想像し(あるいはふり返って)、幅広い世代の人がお気に入りのお話をみつけられそうな本。
あなたにとっての「ファースト・プライオリティー」は、何ですか?
Author: ことり
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『プラナリア』〔再読〕 山本 文緒

評価:
山本 文緒
文藝春秋
¥ 1,400
(2000-10)

乳がんの手術以来、何をするのもかったるい25歳の春香。
この洞窟の出口はどこにある――現代の“無職”をめぐる五つの物語。

山本文緒さんの本を読むといつも感じる、ちくんと残る心の痛み。思いがけない人のやさしさに触れたような温もり・・・その両方を感じながら読みかえした本。
人のもつイヤなぶぶんとよいぶぶんが、かたよらないで公平に物語からうかび上がってくるみたいです。
人物ひとりひとりに自分を投影させた時のやるせなさ。けれど、読み終わったあとに感じる不思議な安堵感はなぜなのでしょう。

表題にもなっている『プラナリア』ですが、乳癌を患ってしまった女性や、やっかいな行動をして彼女を困らせる老人・・・どちらかといえばいたわるべき存在として描かれることが多い彼らの存在が、この本ではちがっています。
現実はきっとこんな感じなのかも? そんなふうに思わせるほどの説得力に、ぐいぐいと引き込まれていきました。

ちっとも恰好よくなんか生きてはいけないし、頑張ってもうかばれなかったり、自分の思いとは裏腹な出来事たち・・・。
やさしい人と意地悪な人が交互にあらわれるようなでこぼこした日常、平穏でありたいと強く願いながらもそうはさせてくれない歯がゆさ。きっとみんなもいっしょなんだね、そう思わせる短編集です。
Author: ことり
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