『蜜のあわれ』 室生 犀星

評価:
室生 犀星
小学館
¥ 2,310
(2007-06-12)

金魚と少女の間を自在に往還するコケティッシュな「あたい」と、老作家「おじさま」の奇妙な交流。そして、そこにひそやかに訪れる「ゆうれい」の女性の影。室生犀星が晩年に発表したこの小説は、男女の情の切なさ、性欲や愛情のかなしさを、シュールな設定で耽美的に描いた作品です。なかやまあきこ撮影による金魚・花・少女の写真との美しきコラボレーションで、犀星の傑作がいっそう鮮やかに蘇ります。

こっくりと鮮やかな色彩と美しいことば・・・可憐なあめ細工を思わせる佇まい。
金魚の「あたい」と人間の「おじさま」。花の蜜のように甘く妖しい戯れを、対話のみで描き出したいっぷう変わった物語です。

わがままを言ったりおねだりをしたりして、いつも「おじさま」を困らせる少女は金魚の化身。ある時はみずみずしい肌をもつ二十歳ほどの少女、ある時はシフォンのような朱い尾ひれをひらめかせ、変幻自在に姿をかえてはくるくるとまといつきます。
そんな彼女をいとおしそうに可愛がり、まるでちいちゃなお姫さまのお相手をするように接する「おじさま」との関係がうっとりするほどほほえましいのです。
「おじさま、あたいも外に出ると大したお嬢様になって見えるらしいわね、驚いちゃったでしょう。」
「ちっとも驚かないよ、きみが令嬢でなかったら、令嬢らしい者なんて世界に一人もいないよ。」

お話が進むにつれ、どんどんとエロティックな空気を帯びてくるのもたまらなく好き。
時おり金魚がくすぐったいくらいかわいらしいしぐさをするのでドキドキします。
そういえばこれ、江國香織さんの『ぼくの小鳥ちゃん』を色っぽくした感じかしら?
「あたい」のほうが、小鳥ちゃんよりもっとずっと‘おんなおんな’しているけれど・・・、でもふたり(2匹?)ともおすまし屋でヤキモチやきで意地っぱりで、しゃあしゃあとしたところなんかそっくりかもしれません。うふふ。

「きみはいま、おじさんのふとももの上に乗っているでしょう、そして時々そっと横になって光ったお腹を見せびらかしているだろう、それでいて自分で羞かしいと思ったことがないの。」
「ちっとも羞かしいことなんか、ないわよ、あたい、おじさまが親切にしてくださるから、甘えられるだけ甘えてみたいのよ、元日の朝の牛乳のように、甘いのをあじわっていたいの。」
Author: ことり
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『愛の詩集』 室生 犀星

評価:
室生 犀星
日本図書センター
¥ 2,625
(1999-12)

『抒情小曲集』、『愛の詩集』、最後の詩集『昨日いらつしつて下さい』の3冊を中心に、選りすぐりの詩を収録したきらびやかな詩集。
思わず口ずさみたくなる詩に、悲しさや侘しさや人恋しい気持ち・・・すっと胸をわたるひんやりとした感情たちが懐かしい風景とともによみがえりました。

ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食となるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや (『小景異情(その二)』より)
Author: ことり
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『或る少女の死まで 他二篇』 室生 犀星

繊細な感覚で日常の美を謳った大正詩壇の鬼才、室生犀星の自伝的三部作。古都金沢で数奇な星の下に寺の子として育った主人公は、詩への思いやみがたく上京する。詩人志望の青年の鬱屈した日々を彩る少女との交流をみずみずしく描いた表題作の他、『幼年時代』『性に眼覚める頃』を収録。

若く貧しい詩人の孤独な青春時代が、詩情あふれる筆致でつづられています。
のこされた教室で屋根瓦を数える寂寥感、嫁いだ姉の部屋にしのび込み募らせた姉への思い、紅い鼻緒の雪駄を出来心でぬすみ出したあとの後ろめたさ・・・ほろりと苦く伝わってくる若き日の追憶。しっとり柔らかな文章は、喧嘩のシーンでさえも繊細さを感じさせます。
表題作『或る少女の死まで』では、濁ってしまった自分の精神が、隣家の無垢な少女とふれあううち、少女のつやつやと澄みわたった透明な瞳に洗われ救われていく、というのが印象的でした。全編に女性への憧憬がにじんだ美しい小説集です。

私はこの敏感な少女の目を見た。この目こそ本当のものと嘘のものとを、直覚的に見る目だと思った。
私はふいと姉のことを考えた。やさしい魂につつまれた姉を思った。
Author: ことり
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