『スピンク合財帖』 町田 康

評価:
町田 康
講談社
¥ 1,575
(2012-11-06)

二人と三頭、平凡で愉快な日常。今回は・・・セラピードッグのシードが家にやってきたこと・わが家の庭池とそこに住む鯉たちの顛末・私たちの受けた訓練と称賛について・・・などのお話。
町田家の犬が日記を書いた、傑作シリーズ第2弾。
Author: ことり
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『餓鬼道巡行』 町田 康

評価:
町田 康
幻冬舎
¥ 1,470
(2012-06-27)

小説家である「私」は、素敵で快適な生活を求めて自宅を大規模リフォーム。しかしここで、大きな問題が。台所が使えなくなり、日々の飯を拵えることができなくなったのだ。ポットやレンジを駆使するものの、餓えと渇きはつのるばかり。そしてついに「私」は、「外食ちゃん」となり、美味なるものを求めて飲食店の数々を経巡ることとなった・・・。
有名シェフの裏切り、大衆居酒屋に在る差別。とろろ定食というアート、ラーメン丼に浮かぶ禅。文学が掴まえた、真なる美食。

ああ。どこまでも・・・どこまでも・・・「町田康」な食エッセイでした。
エッセイといっても、妄想まじり、フィクションまじり。いつものあの調子で、つらつらと脳内の感情が面白おかしい文章(ちょっと攻撃的な大阪弁)に変換されていきます。
後半はいくつかの飲食店で出逢ったお料理の描写も多いのだけれど、これがことごとく美味しくなさそうで、苦笑い。
たとえば・・・「豚という生物を殺害してその死体から切り取った筋肉を燃やしながら、塩化ナトリウムとインドやなんかでとれる植物の実を粉砕したものをふりかけ、最後の方で、垂れ、という、大豆を変幻させて拵えた液体(プロはおしょうゆ、と呼ぶ)を基軸に、そこにいろんな草の実の粉砕物や木の実の圧搾物を混入した、それを燃えた筋肉に附着させると奇蹟のように美味になる汁を混ぜ入れたもの」――これ、焼肉定食の描写です。万事こんなふうに表現されていくので笑っちゃいました。

これまでの人生、お店というお店でひどい目に遭い心に傷を負ってきた彼が、一念発起してふらふらお店をめぐる様子が目の前にうかんできます。
攻撃的なのに及び腰なところが、なんとも滑稽で可笑しいのです。
Author: ことり
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『ゴランノスポン』 町田 康

評価:
町田 康
新潮社
¥ 1,470
(2011-06-29)

踊るような文体に乗せられて、ハマっていく物語の高み。
『楠木正成』、『ゴランノスポン』、『一般の魔力』、『二倍』、『尻の泉』、『末摘花』、『先生との旅』――7編を収めた短篇集は、煩悩にとらわれ、ぐるぐると足掻いて、でもけっきょく最後は肩を落とす・・・そんな男たちのお話がいっぱいです。

自分を偽りながら、そうとは気づかず――あるいは気づかないふりをして――進んでいく空虚さ。そこから生まれるストレスでどんどん行き詰まっていく感じがリアル。
みんなどこまでも‘前向き’なのに、その方向は世の中で当たり前とされる感覚からはズレているから、一生懸命さがかえって滑稽にうつってしまうのですね・・・。
町田さんが描く主人公は、ダメダメなんだけどどこかしら愛嬌があるから憎めない。

もっとも印象的だったのは、『一般の魔力』でしょうか。
小さな嫌がらせや憂さ晴らしで、気に入らない他人を排除していくお話です。
とことん自分を肯定し、せこい満足感にみたされながらぐいぐい我が道を突き進んでいく身勝手な男の日常。
この思考回路はとうてい理解できませんが、彼に言わせれば、平穏をもとめているだけ、ということになるんだろうな・・・。そんな夫妻に訪れる不穏な結末が怖いです。そういえばこれ、タイトルも怖い!
Author: ことり
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『猫とあほんだら』 町田 康

評価:
町田 康
講談社
¥ 1,728
(2011-05-13)

猫にかまけて』、『猫のあしあと』につづく、町田さんの猫エッセイ第3弾。
今回は町田夫妻と猫10頭が、東京からなんと伊豆半島へお引越し!その騒動を中心に書かれています。
引越しを思い立ったのはいいけれど、物件を探しに行けばすて猫にであい、越したら越したで猫の部屋が寒すぎて要改造・・・彼のちっともうまくは運ばない嘆きの日常がまた新たに始まるのです・・・。

執筆やバンド活動もされている町田さんですが、その生活は猫に翻弄される日々。怒りのシャータンを喰らわされたり、高価な衣服を毛布がわりにされたり・・・パンクな彼が「あひゃーん」ってなってしまう様子は相変わらず可笑しくて、ついつい笑みがこぼれます。
素敵な奥様との息の合ったやりとり(時につめたくあしらわれちゃうのがなんともいえない!)や、なにかにつけて邪魔をする虚栄心との内なる闘いも読みどころ。町田さんの操るアノ関西弁でイキオイが倍加されるから、たたみかけるようなおもしろさでした。
飼っている猫のほかに、ボランティア団体から預かっている‘事情のある’猫たちがいる町田家。彼のエッセイを読んでいると、ペットをすてたり虐待したりする身勝手な人間の影がちらついて、いつも心が痛みます。心身ともに傷ついた猫たちに夫妻はたっぷりの愛をそそいでいます。
いちど人間を憎んでしまった猫はもうなかなか心を開こうとはしないみたいだけれど、でもこのコたちはきっと分かってるよ、ちゃんと伝わってるよ、そう思わずにはいられませんでした。

この本のラストは、ビーチという猫が新たに加わるところで終わっています。
猫ばかりじゃなくスタンダード・プードルのスピンクたちもやってきている(『スピンク日記』)わけだし、町田家からまだまだ目が離せません〜。
Author: ことり
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『スピンク日記』 町田 康

評価:
町田 康
講談社
¥ 1,470
(2011-02-25)

飼い犬の目から見た町田康。傑作エッセイ。
作家である主人のもとにやってきたスタンダードプードルのスピンク。主人をポチと名付け日々のつれづれを綴ります。穏やかな暮らしの中に起こる「事件」とは。

町田さんの飼い犬、スタンダードプードル・スピンクのつぶやき日記。すごく楽しかったです。(・・・町田さん、猫だけじゃなかったのですね!)
飼い主である町田さんのことを「主人・ポチ」と名づけて、ちょっと呆れ顔で、ちょっと奥ゆかしげに‘ですます調’でつづる日常。それは他愛のないささやかなことの積み重ねなのだけど、そこからやさしく流れてくるにぎやかで穏やかな情景。
中に挟まれているスナップ写真が可愛くて(みんなニッコリ笑顔!)、みるみる元気になっていくキューティー・セバスチャンがうれしくて、夫妻の会話が魅力的で。
もちろん言葉のセレクトも面白くて、くすくす笑いながら読みました。

季節の移り変わりや、ポチの‘厄介な生態’、人間社会の意味の分からない矛盾・・・読んでいると、なんだかほんとうにスピンクが書いている気がしてきます。
ポチのこの、立ち直りの早さというか、抜けのよさというか、そういうものがかえって仇になって、ポチは失敗を繰り返しているように思います。
人間はやはり落ち込むときにきちんと落ち込まないと駄目なのですね。
スピンクの目を通して、こんなふうに自分を俯瞰する町田さんが好きだし、楽しい。

人間よりもずっとずっと寿命がみじかい犬たち。
ラストの一行を読んだとき、胸がジン・・、としてしまいました。
この幸福な時間がずっとずっとずっと続きますように。そんな願いが伝わってくる、愛がいっぱいのほんわか日記です。
Author: ことり
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『どつぼ超然』 町田 康

評価:
町田 康
毎日新聞社
¥ 1,680
(2010-10-15)

出掛けよう、行く雲、流れる水のように。
なぜなら余は超然者。幾多の苦難もまた善哉(よきかな)。小心でありながら泰然自若な「余」の自意識が爆発する、傑作長編小説。

東京飄然』のその後。もう、アハアハ笑いながら読んでしまいました。
今回は飄然ではなく‘超然’なのです。超然とは、乗りこえていて問題にしない様子。世俗的なことと無関係な様。
でも超然と生きたくても、なかなかそうはいかない町田さん。海辺や盆地や離れ小島をふらふら彷徨い「善哉」をとなえる彼の言動から目が離せません。
カガエルステーションの謎についてのへんな(ほんとにへん!)理屈とか、島へ渡るフェリーの可笑しな(ほんとに可笑しい!)名前とか・・・、頭のなかでくり広げられるくだらない戯言がつらつらと書き連ねられていくだけなのに、もーう、なんでこんなに面白いんでしょう!
町田さんの話芸の才能、言葉の饗宴を堪能できるエッセイふう小説。
さあ頁をひらきましょう。大いに笑いましょう。そしてつぶやくのです、「善哉、善哉。」
Author: ことり
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『猫とねずみのともぐらし』 町田 康、(絵)寺門 孝之

むかし、猫とねずみはいっしょにくらしていました。
ところが、いまや、猫はねずみを見ると追いかけずにはいられません。
なぜなら、こんなことがあったのです――。

あのパンクな町田さんが絵本を書いた? 同タイトルのグリム童話をもとに創作?!
いったいどんなおはなしになったのやら、と興味津々で読んでみたら・・・、くすくす。案の定、グリムがすっかり‘町田ワールド’になっていました。

ねずみにだまって、ふたりで買ったおいしい油をひとりでうまうまなめてしまった猫。
「私どもに食べ物を恵んでくださいませんか」 猫とねずみは、白馬にまたがった王子さまや、カエルにキスする王女さまや、美しいマリアさまなど、慈悲深い(はずの)人びとにつぎつぎにお願いします。けれど誰も助けてはくれないのです。
「マリアさま。お願いしま・・・」
みなまでいう暇がありませんでした。
「いま忙しい」
マリアさまはそれだけおっしゃると、もの凄い早さで森に駆け込んで行かれました。

ねずみとの約束をやぶった猫の負い目、やぶられたねずみの怒り・・・。心のなかに木枯らしが吹くような乾いた間、そして思いがけないところから急転する人生・・・。
いっけんメルヘンティックなのによくみるとおぞましい、そんな深みのある青い絵は町田さんの本の装画でおなじみの寺門孝之さんが手がけられています。
王子さまの青い瞳は空洞だし、十字架は心細いほどに不穏だし、マリアさまはマリアさまでなくなっちゃう――なんとも過激でなんとも皮肉。
「おとぎ話」の概念をくつがえす、彼ららしいトンデモ絵本です。
Author: ことり
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『膝のうえのともだち』 町田 康

評価:
町田 康
講談社
¥ 18,840
(2010-03-26)

書店で頁をめくった時にとび込んできた懐かしい猫たちの顔、顔、顔。
ココアでしょ、ゲンゾーでしょ、奈奈でしょ、シャアでしょ・・・あっ。ヘッケもいた!
すいよせられるように購入した猫写真集。

愛らしくせつなくて、時に慈愛にみち、時に透徹した猫の姿、まなざし。
町田家で時をすごした猫たちのさまざまな表情をとらえた愛嬌たっぷりの猫写真のあとには、書き下ろし短編小説『ココア』も。
これは泥酔し、道端で目覚めた時、トラほどもある巨大な猫ばかりが道を闊歩する不思議な世界にまぎれ込んでいた「私」の物語です。
見慣れた街、なのにそこは猫と人間の立場がすっかり逆転した世界だった――。
主人公の「私」は町田さんご本人、そんな描かれ方をしていることもあって、とりわけこの世界にまぎれ込んだ直後のうろたえぶりはなんともたまらないおもしろさ。言葉のチョイスがいちいち可笑しく、関西弁をしゃべる猫・・とくに「秋のパン祭り」のくだりなどはつっぷして笑ってしまいました。
けれどやがて、(本来の世界で)のら猫が人間たちからどれほど不当な扱いをうけているかが‘のら人間’になった「私」を通して描かれていくと心がシンとなり・・・かつての愛猫・ココアがでてくるシーンでは、涙があふれ出てあふれ出て・・・。
猫にたいしていつも敬意をはらい、語りあい、笑いあい、時に泣いたり悔やんだりしながら「一緒に生きてきた」彼だから、このような優しいお話が書けたのですね。もうほんとうにこの人は猫が好きで好きで好きでたまらないんだ、そのことがまっすぐに痛いくらい伝わってきて、そしてまた泣けました。

町田さんの猫エッセイ(『猫にかまけて』『猫のあしあと』)がお好きな方はぜひ。
この本を読んで、私は大好きだった町田康という人がまた一段と好きになりました。
Author: ことり
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『権現の踊り子』 町田 康

『鶴の壺』、『矢細くんのストーン』、『工夫の減さん』、『権現の踊り子』、『ふくみ笑い』、『逆水戸』を収めた短編集。
つらつらと流れていく独特のリズム。言葉がうねる、ねじれる、押しよせる・・・そんな感じでつぎつぎくり出されていく文章なのに、町田さんの小説はいつも可笑しくて、そしてどこかにもの哀しさを感じさせます。まるで‘泣き笑い’みたいな人間味あふれるそんな雰囲気が好き。

一ばんのお気に入りは、『工夫の減さん』。
生活のなかでさまざまな工夫をこらすのに、それが祟ってことごとく失敗してしまう減さん。料理でも結婚でも、なんでもかんでも。それでも減さんは工夫をやめません。なぜって、いつも通りの方法や手段をとるよりも一工夫してやったほうが嬉しい、面白い、愉快だと思っているから。
お金にもルーズな減さんは、友人からすればかなりはた迷惑な人なのだけど、やっぱりどこか憎めない、そんなふうに描かれています。自業自得だと突き放してしまうこともできるけれど、減さんの堂々めぐりっぷりからは男の哀愁すら感じられて・・・。やりきれなさと可笑しさのさじ加減が絶妙!なところがたまらなかったのです。
Author: ことり
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『フォトグラフール』 町田 康

評価:
町田 康
講談社
¥ 1,575
(2008-02-15)

町田康のユーモアが爆発する抱腹掌編集。しゃべるサル、怒るねずみ、困惑するラクダ・・・。動物たちが、ニュース写真が、まったく別の意味をもって語りかけてくる、町田康作「読む」ショートコント。

「写真が正しく意味するところについて、綿密な調査のうえ、純客観的な見地から適宜、解説・説明を施した」とある‘もっともらしい’前書き。でもじっさいは、町田さんが古びた写真たちを眺めてふくらませた妄想集です。
各章で、文章を読み進めていると目にとび込んでくる一枚の写真・・・なんどふき出してしまったことか。これってそういう写真じゃないでしょ!、なんてつっこみたくなる写真ばかりなのですが、町田さんの‘もっともらしい’文章を読まされたあとでは、そう見えなくもないので可笑しくなります。
妄想も、見方をかえれば「真実」になりうる・・・ということかしら。ふふ。

私のお気に入りは、『ちゅうちゅうちゅう』、『人間てあほやね』、『オレって意欲的』、『鼠落語』のねずみシリーズ。ねずみと関西弁・・どうしてこんなに合うのでしょう!
Author: ことり
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