『おうさまのおひっこし』 牡丹 靖佳

とおい とおい くにのこと。
やまあいの ちいさな おしろに
はずかしがりやの おうさまと
あわてんぼうの おともたちが
くらしていました。

繊細でロマンティックな線画に、淡くやわらかな水彩がのせられた物語絵本。
心やさしいけれど口下手な王さまと、そんな王さまの言いつけにすてきなかん違いで応じてくれる気のいいお供たちのおはなしです。
王さまはお供たちのかん違いに気づくたびに目をまるくするのですが、なんだかみんな幸せそうなのをみて、にこりとほほえみます。
気品あふれるおかしみとやさしさ・・・それはまるで美しい絵巻物をみているよう。豪奢な家財道具をつみ上げた荷ぐるまがずらずらつらなるおひっこしの場面と、愉しげなメロディがきこえてきそうな雨漏りの場面が好き。
おしまいもたっぷりと幸せです。みちたりた気もちで本をとじました。
Author: ことり
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『むだ話、薬にまさる』 早川 良一郎

肩書きはいらない。パイプと犬、友とのたまのむだ話があればいい。定年後の人生を、群れずいばらず、すてきに生きた、大人の男の手になる109編のエッセイ。
『さみしいネコ』につづく、「定年文学の旗手」待望の復刊第二弾。

ほとんどが2ページ前後、ひょうひょうと紡がれていく小さなエッセイの集まり。
さみしいネコ』はほのぼのと沁みるような印象がありましたが、こちらはちょっぴり辛口仕上げ。お話のオチもついていたりして、‘小噺’という趣きです。
早川さんという人は、きっと独特の色っぽさをもった方だったんだろうな・・・。
ユーモラスで洒落っ気たっぷり、絶妙な間をふくんだ味のある文章を堪能できます。
Author: ことり
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『森の謝肉祭』 舟崎 克彦、(絵)野村 直子

評価:
舟崎 克彦
パロル舎
¥ 1,470
(2010-03)

かわいいマリィが森の一軒家にひっこしてきました。
さっそく動物たちが訪ねてきます。花屋、声楽家、遊び人、占い師。
「なんだかへんなヒトたちばっかりね・・・」
ようこそ!ちょっと不思議な謝肉祭へ。

チョコレート色の甘やかなタッチで描かれていく、ちいさな少女マリィのおはなし。
マリィのお部屋のロマンティックなインテリア、庭先で腰かけるきのこやデイジー、生クリームでかざった焼きたてのクッキー・・・
そして、マリィをたずねてくる妖しげなお客さまたち。
ありとあらゆるものものが、この不思議な気品ただよう森をつくり上げています。
可愛らしい世界のなかに、時おりひやりとグロテスクな気配がまざって――・・・

色っぽいまなざし、動物たちの秘密の思惑・・・美しくてすこし怖い。
宇野亜喜良さんの絵本や、『不思議の国のアリス』がお好きな方に。
Author: ことり
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『ともだちは実はひとりだけなんです』 平岡 あみ

宇野亜喜良さんの装画に惹かれて手にとった、17歳の少女の歌集です。
17歳、といってもそれは現在の年齢で、この本に収められているのは彼女が12歳から16歳までのあいだにしたためたという短歌。日々のなにげないつぶやきのような歌――そのなかにドキンとするほど繊細な表現をみつけては、頁をめくる手がなんども止まってしまいました。

きょうだいが多いひとと結婚し子供にいとこつくってあげる

何年も離れていると父親を殺せるのではと思ってしまう

コンビニの菓子パンのようにわたしもおいしいねって言われてみたい

冷蔵庫開けて食べ物探すときその目をだれにも見られたくない

お父さんが家を出ていって、お母さんとふたりで暮らすあみちゃんの心はぽっかりとして、いつもなんとなくさむそうです。
いろんなことを諦めていて、淋しがりやで、痛いくらいに大人びている少女・・・。
そう、彼女は宇野亜喜良さんのイラストにでてくる‘少女’そのものでした。彼女もこんな眼をしてるのかしら・・・私はいつしかそんなことを思いながら、宇野さんの挿絵をながめていたのです。穂村弘さんの解説もすごくよかったです。
Author: ことり
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『野蛮な読書』 平松 洋子

評価:
平松 洋子
集英社
¥ 1,728
(2011-10-05)

これも、健啖。読書の快楽を味わい尽くす!
ドゥマゴ文学賞受賞から5年、食と生活のエッセイストとして活躍する著者が、読書の魔力をがぶり味わい尽くした名随筆。獅子文六、池辺良、沢村貞子・・・昭和から平成へ全101冊の芳醇をご賞味あれ。

フードジャーナリスト・平松洋子さんの読書エッセイ。
断食中に感じた素朴な野菜の甘みの描写には正岡子規の随筆がまざり、お弁当やスープについて書かれた章では『津軽』(太宰治)や『春情蛸の足』(田辺聖子)などからお話のシーンたちが引用されます。
食べ物と本について書かれた弾むような文章に、うれしい親近感。
なかでも私がくいいるように読んでしまったのは、『四日間の空白―沢村貞子の日記文学』。ここでは、沢村貞子さんが26年間まいにちつけられていたという、直筆の「献立日記」を手にされたときのお話が書かれています。この章を読んですっかり沢村さんの魅力にはまってしまった私。沢村貞子、という女性への興味がむくむく芽生え、彼女の本を読んでみたい!そんなワクワクした衝動にかられています。
日常生活に根ざした多岐にわたる本のお話。おいしく愉しくいただきました。


■ この本に出てきた読んでみたい本たち <読了メモは後日追記>
『猫の水につかるカエル』 川崎 徹
『父・こんなこと』 幸田 文
『春情蛸の足』 田辺 聖子
『食味歳時記』→読了、『私の食べ歩き』→読了 獅子 文六
『貝のうた』、『わたしの台所』、『わたしの献立日記』 沢村 貞子
『神も仏もありませぬ』、『佐野洋子の単行本』 佐野 洋子
Author: ことり
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『珈琲とエクレアと詩人』 橋口 幸子

小説『荒地の恋』(ねじめ正一著)のモデルとなった、詩人北村太郎の知られざる日々の佇まい。
詩人北村太郎は港の人が敬愛する詩人のひとりで、エッセイ集『樹上の猫』『光が射してくる』を刊行している。その北村太郎と鎌倉の同じ家に暮らしたこともある不思議な縁で、著者は親しく交わる。
日々の飾らない優しい詩人の姿や暮らしぶりを淡く、ぬくもりのある筆致で描いた好エッセイ集。
画家山本直彰によるエッセイ「北村太郎の白」を収録。
Author: ことり
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『終電車ならとっくに行ってしまった』 フジモト マサル

あの時、ああ言えばよかったと「思い出し推敲」し、「思い出し怒り」に駆られても、同じ状況はなかなか訪れない。
記憶の波が、時おり押し寄せ、溺れそうになる・・・。脳内に散らばるよしなしごとを検索探訪し、ペンと画筆で描く、初の試み。

私の大好きなイラストレーター・フジモトマサルさんの画文集です。
彼の‘文章’ははじめて読んだ私なのですが、・・・おもしろーーい!
その着眼点、その思いがけない着地点。絶妙エッセイのすぐあとにはスロウな漫画がついていて、おとぼけ顔のナマケモノがさまざまに思案に耽ります。
夜の闇、穴の底、大海原。はてしない世界のひろがりと、身動きのとれない閉塞感の同居。わくわくしたり、まよったり、泣きたくなったり・・・この世界をふらりとさまよう孤独なナマケモノくんに自分をかさねてしまうのは、きっと私だけではないはず。

自分の部屋の床板をめくりたくなる。
夜空の満月が世界ののぞき穴にみえてくる。
こんなシュールな本が、大好き。
Author: ことり
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『そらにいちばんちかいところ』 長谷川 直子

ある寒い寒い日に、どこからか町へやってきた男の子。大きなかばんを持って、町で一番高いところに行こうとしています。いったい何をしようというのでしょう?
うれしい初雪のひみつを描いた長谷川直子の絵本。雪の日のわくわくする気持ちを思い出させてくれます。

うすあかるい灰色にのせた、ピンクと若草色の配色がとってもおしゃれ。
大きなかばんでかくされて男の子はその姿が見えません。どんなコかな?ってワクワクしながら読みました。
やさしい気持ち、男の子のかわいい‘正体’、すてきなかばんの中身・・・
寒い冬にぴったりの絵本です。
Author: ことり
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『さみしいネコ』 早川 良一郎

定年後のささやかな暮らしのなかで、見たり、聞いたり、感じたり、思い出したり・・・50歳をすぎてから軽妙洒脱な随筆家として現われた著者円熟のエッセイ17篇。

早川良一郎さん。失礼ながら、これまでお名前すら知らなかった作家さんです。
『さみしいネコ』というほうっておけないタイトルと、「大人の本棚」の叢書(とにかくはずれがない)、ただそれだけで手にとりました。
早川さんは50歳をすぎて文筆に目覚めたという方で、1991年にすでに亡くなられています。この『さみしいネコ』も、ほとんどが1981年の同タイトルの本におさめられていたエッセイなのだそう。
出世に縁がなく、たんたんとサラリーマン人生をまっとうした、そんな早川さんが定年をむかえて書かれた慎み深く上質な文章の数々。お風呂あがりに少しずつついばむように読みました。

私はハミングしながらの散歩がすむと安楽椅子に深々と掛け、チョビを膝にパイプをすう。ときどき目を閉じる。うちの壁時計はコチコチいう。悠久の時が流れている感じである。そういうとき、私はうちのどこかに青い鳥がいて、私を見ているのではないかと思う。(『ウナギと美顔ブラシ』)

ゆるゆる愉しむ銀座さんぽ。オクさんや娘さんとのなにげない会話。
ひっそりと世の中をながめユーモアをまじえて語る文章は、親しみやすく味があり、慈雨のように心にしみます。
たくさんの人生を見聞きしてきた人のほほえましいエッセイ。ゆったりしたい方に。
Author: ことり
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『鍵穴の花園』 樋上 公実子

評価:
樋上 公実子
実業之日本社
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(2002-12)

禁じられても覗かずにはいられない、この上なく美しいものに惹かれる気持ち・・・。耽美的でエロティックな大人の絵本。
デビューから現在に至るまでの代表作を集めた愛蔵版。

『金魚楼』、『ノスタルジア』、『診療室のユメ』、『美女たちの標本室』・・・4つの鍵穴のその向こう、色鮮やかに残酷なエロスの世界にたちまち魅入られてしまいました。
美女たちの氷のようなまなざしが見る者を蠱惑する、素敵に冷えた美しさ。

金魚、虞美人草、ガーターベルト、柘榴、真珠、眼帯、しずく、蝶、宝石・・・
この上もなく妖艶、この上もなく耽美。
息を殺し、鍵穴を覗いている私は招かれざる闖入者。――分かっています、もう少し、せめてあと一秒だけ。
Author: ことり
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