『WILL』 本多 孝好

評価:
本多 孝好
集英社
¥ 1,680
(2009-10-05)

MOMENT』から7年後の物語。
神田の幼馴染としてでてきた葬儀屋の女の子・森野がこのお話の主人公です。
18歳のときに両親を事故でなくし家業の葬儀屋を継いで11年、森野に持ち込まれるいくつもの‘不思議な話’。葬儀屋ならではの誇りと経験から、彼女はそのなかにひそむ真実の姿をさぐっていきます。

いっけん短編小説のようだけれど、すべてがつながっていて長編のような味わい。
神田はアメリカに渡っていて、時々電話がきます。相変わらず口は悪いけど、まじめでやさしい森野。ふたりの関係は微妙なまんま、つかず離れずという感じ。
人の死が中心にあるのに、さりげないあたたかさが灯るような、そんな物語でした。せつなさや苦しみさえもそっとくるんでくれるみたいで・・・。
印象的なのはやはり、かたくなだった森野の心がゆるゆるほどけ、新しい一歩を踏みだすラスト。くすぐったいくらいにあまく、ささやかな仕掛けがほどこされたラスト。本多さんが描くとどんなシーンも、透明感があふれてくるから不思議です。
Author: ことり
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『ALONE TOGETHER』 本多 孝好

評価:
本多 孝好
双葉社
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(2000-09)

風向きが変わった。僕の頬を湿った風が撫でていった。風は梔子の香りを乗せていた・・・。
二つの波長が共鳴するときに生まれる静かな組曲を、端正な筆致で綴る、瑞々しい感性にあふれた長編小説。

MISSING』、『MOMENT』、『FINE DAYS』・・・本多さんの小説はどれも文章が美しく、「ミステリー」というジャンルでひと括りにするのがためらわれるくらい独特の世界観があって、そして透明です。そういう意味でこのお話も例外ではないのだけれど、でもどこか内容が散漫な印象を受けてしまいました。
主人公の特殊性がテーマなのか、人格者だった医師がなぜ殺人を犯したかが主題なのか、それとも社会にとけこめない少年少女・あるいはその親たちの葛藤か・・・あまりにも語りたいことが多すぎるように感じ、だからなのか盛り上がりにも欠けているような気がしたのです。
なんだか、淡々と始まり、淡々と終わってしまった感じがします。
Author: ことり
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『FINE DAYS』 本多 孝好

評価:
本多 孝好
祥伝社
¥ 1,680
(2003-03)

本をとじてしばらく、私はここちよい余韻のなかにいました。
とっても素敵な夢をみて、夢うつつを彷徨いながら、ほんわり目覚めた朝のよう。
『FINE DAYS』、『イエスタデイズ』、『眠りのための暖かな場所』、『シェード』。
収録されている4つの物語に共通するキーワードは‘過去’。うしなったもの、うしなった時間にとらわれながらも懸命に生きる人びとが、本多さんならではの幻想的で静謐な文章でさらさらと描かれていきます。
自分の部屋でひとり本を読んでいるはずの私が、いつのまにか違う時空をただよっている・・・そんな気持ちにさせられたのが『イエスタデイズ』と『シェード』でした。
いつまでも読みつづけていたい。いつまでも、この世界でまどろんでいたい。こんな物語に最後に出逢ったのは、いったいいつのこと?

『イエスタデイズ』
久しぶりに会った父親は病床に臥していた。
死を前にした父は、「僕」に人捜しを依頼する。むかし愛した人をさがしてほしいと。
彼女の以前の住所を訪ねた「僕」は、そのアパートで不思議な体験をした。せつなさがこみあげてくる、不思議な不思議な、それは出来事だった。
彼が胸のうちで語りかけた言葉に、私の心はとろとろと溶かされていくみたいでした。
「僕は今の君が大好きだよ。たとえ、君自身が、やがて今の君を必要としなくなっても。忘れ去ってしまったとしても。」

『シェード』
あるクリスマスの夜、アンティークショップで老婆が「僕」に話したおとぎばなし。
それを聞きながら「僕」は現在をオーバーラップさせていく。
まるで読んでいる間中、すべての雑音をとり払ったセピアの世界に閉じこめられていたかのよう。
開けてはいけない。開けてしまったら、開ける前には決して戻れなくなる扉がある。開けてしまうまではそれと気づかない。その扉は何でもない顔をして僕らの前にたたずんでいる。
読み終えたとき、急にまわりの物が本来の色をとりもどした、そんな不思議な感覚につつまれました。
Author: ことり
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『MISSING』 本多 孝好

評価:
本多 孝好
双葉社
¥ 630
(2001-11)
MISSING。この言葉から連想されるもの――それは、喪失感、さみしさ、悼み・・・、時には涙だったり、人を恋う気持ちだったりするかもしれません。
『眠りの海』、『祈灯』、『蝉の証』、『瑠璃』、『彼の棲む場所』。この本に収められているどの物語にも『MISSING』というタイトルがふさわしくひびきあうのは、それぞれの根底に‘死’というものがあるせいかしら。

とくに心に残ったお話は『蝉の証』で、そのなかで祖母はこんなことを話します。
「一人で死ぬことなんてちっとも怖くない。だけど、ねえ、一年に一度でいい。一分でも、一秒だっていい。自分が死んだあと、生きていた日の自分を思い出してほしいと願うのは、そんなに贅沢なことなのかい?死んだ途端に、はい終わりじゃ、だって、あんまりにも寂しいじゃないか」
その真意を、理解することができない年若い「僕」。欺き、騙され、そうまでして人は自分が生きた証をこの世界にとどめたいものだろうかと。そしてそんな祖母の背中に「一夏しか生きられない」蝉の声がいつまでも降りそそぐ・・・。

「ミステリー」とよぶにはほんの少し違和感があります。どのお話も‘謎’というより、人生の裏側に秘められた‘秘密’が明かされるというのに近いのかも。
『祈灯』のラストのひと言と、『瑠璃』のぜんたいを流れる空気感は、余韻がたまりませんでした。
Author: ことり
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『MOMENT』 本多 孝好

評価:
本多 孝好
集英社
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(2002-08-26)

その病院には、以前から語り継がれている、ある噂があった。
死をまぢかにした患者の前にだけあらわれて、最後にたったひとつ、けれどかならず、願いごとをかなえてくれる人がいるという。アルバイト清掃員の神田は、ふとしたきっかけから自分がその噂の人物に成りかわることになり・・・。
心にのこる4つの物語と、最後に判明する噂の真相。

淡々としたなかに‘生’と‘死’が垣間みえます。
人の心・・・それはこんなにも無秩序な多面体で、そこに複雑に映し出されるさまざまな思い。他人にはけっして知りえないミステリアスなぶぶん。
短編のひとつひとつに付けられる結末と、最後に明かされるお話ぜんたいを通しての謎・・・まるで小さな、美しい意匠のカケラをならべ、それを遠くからみたときにまた違った美しい模様がみえてくる、そんな感じの連作短編集でした。人びとの心の内側に語りかける本多さんの真摯なまなざしが、痛いくらいこちらに届きます。

誰もが生まれ落ちたときから死へと向かっているのに、持ち時間がわずかになって初めて人は‘生’と向き合う。
底知れぬ孤独のなかで、人は、その人生の終わりに何を願うのか。
いずれ巡ってくる審判の場に、私だったら、どんな答えを出せるでしょうか。
Author: ことり
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