『うさぎマンション』 のはな はるか

評価:
のはな はるか
くもん出版
¥ 1,512
(2016-09-02)

うさぎマンションはおくじょうつきの5かいだて。
24のへやにいろんなうさぎがくらしています。
きょうはあたらしいかぞくがひっこしてくるひ。
ちょっとのぞいてみましょう・・・

青い空とピンクのマンション、窓のむこうのファンシーなうさぎさんたち。
ころころ可愛いこまやかな絵に、ほんわか夢いっぱいのストーリー・・・女の子の‘大好き’がぎゅっとつまったこの絵本は、ひとつひとつのお部屋に目をむければそれぞれに物語がみえてくる、そんな小さな発見も愉しい。
歌うたいにバレリーナ、まほうつかいもいるらしい・・・?
ふわわん、ふわわん、おいしそうなにおいはどのお部屋から・・・?

パパパパーン 「ようこそ うさぎマンションへ!」
それぞれの生活をたいせつに暮す、かわいらしい住人たちのおもてなしにきゅんといとおしさがこみ上げます。母娘で大好きになった絵本です。


のはなはるかさんのワークショップ&サイン会に出かけました。
サイン本です↓ 娘あて。 <2016年10月追記>
Author: ことり
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『蜜蜂・余生』 中 勘助

「四十年間あなたは蜜蜂のように、家のため働きづめに働いて死んでいった」――半痴半狂の長兄を家長とし、紛糾のたえなかった中家を一身に背負って“家”の犠牲となった兄嫁。孤独でやさしかった兄嫁の晩年をしのぶ随筆「蜜蜂」は、悲しくも美しい詩にみちている。姉妹篇「余生」と併せ一書とした。

在りし日の兄嫁をしのぶ、晩年の日記体随筆です。
中勘助さんは、幼い頃は伯母さんを(『銀の匙』)、大人になってからは兄嫁の末子さんをそうとう頼りにし、心の拠り所にされていたのですね。兄が脳出血に襲われ狂暴な発作をおこすようになってからは、ひとつ屋根の下に暮す末子さんとの絆はさらに深いものになっていたようです。
「蜜蜂のように」ひたすらに働き、40年ものあいだ苦悶にたえながらもやさしさをうしなわなかった末子さん。『蜜蜂』はそんな末子さんの死からはじまり、柔らかに清澄な文章で追慕の情がしたためられてゆきます。そのほとんどは亡兄嫁に「あなた」とよびかけ、「つつじが咲きそめました」「これから塩せんべいでひとりお茶をのむところ」「ゆうべは珍しくあなたの夢をみました」・・・そんなふうに日々のできごとを心をこめて報告していくのです。時おり淋しさを抑えきれなくなりながら・・・。
『銀の匙』もそうだったけれど、中さんは遠い過去のこまごました日常をじつに鮮明に記憶している人。思いがけず、本のあいだから色褪せた匂い菫の押し花をみつけ、まだ二人が若かった頃の美しい「思い出の種」を回想するところが印象的でした。

随筆のなかには、しばしば詩が織り込まれています。どの詩も、亡き人を思うせつなさとやさしさにみちています。
みだれ箱から出た小さな紙入
使いさしの市電の切符
あなたはもしや忘れたのじゃないか
まだ遠くへ行かないのなら
とりに戻っておいでなさい
Author: ことり
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『女獣心理』 野溝 七生子

美術学校を出、銀座の店頭装飾を仕事にした女性征矢(ソヤ)は、やがて伯爵のパトロンのサロンで、男達の憧憬の的となり、突然に失踪。巷では堕落した街の女になったとの噂が出る。澄みとおる程美しい眼をし、ギリシャ神話の白鳥の姿のゼウスと交わった女神に擬えて「レダ」と呼ばれた神秘の女が奔放に生き永遠の美と自己愛に殉じ狂おしく果てる姿を、「私」の眼を通し描く。日本文学に希れな、鮮烈な女性像。

危うく翳りのあるソヤと、美術学校の同窓で彼女に愛と憧憬をささげる沙子(すなこ=通称シャコ)。沙子の従兄で婚約者の新和塁(しんな・とりで=通称ルイ)を語り手に、3人の複雑にからまる‘恋情’を描いた物語です。
清らかで無垢なお嬢さん、という印象の沙子にたいし、ソヤは蒼白く陶器めいた魅力をまとった王妃のよう。沙子はルイに話して聞かせます。学生時代にソヤが見せた、希臘(ギリシャ)の王の娘・レダを描くための計り知れない情熱、透徹した自己愛を。少女独特の同性への憧れは、沙子をいまだソヤに陶酔させているのです。

沙子との結婚直前にソヤの特異な妖しさに惹かれるルイ、新婚旅行でルイとのからだの交わりを拒絶する沙子、ソヤを愛することで死にながら生きるような無為の人生を見いだしたというパトロンの伯爵・・・。
けれどそんな周囲の人たちの苦悩や波風をよそに、当のソヤは自己愛以上の愛は欲しない‘孤高の獣’。自己愛はゆるゆると自滅の道へと結びついてゆきます。
ほの昏く純粋な少女性をうかび上がらせた、ひりつくような透明感のある小説。
文章が哀しいほどに美しいです。
Author: ことり
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『山梔』 野溝 七生子

山梔(くちなし)のような無垢な魂を持ち、明治時代の厳格な職業軍人の家に生まれ育った阿字子の多感な少女期を書く自伝的小説。
著者の野溝七生子は、明治30年生まれ、東洋大学在学中の大正13年、特異な育ちを描いた処女作の「山梔」で新聞懸賞小説に入選、島崎藤村らの好評を博す。歌人と同棲、後大学で文学を講じ、晩年はホテルに1人暮す。
孤高の芸術精神が時代に先駆した女性の幻の名篇の甦り。

お話ぜんたいにぴしぴしと充満する、危うい透明感。
一歩間違えればあちら側の世界に行ってしまいそう・・・、そんなぎりぎりのところに踏みとどまっている少女の心が息をのむほどの美しさで描かれている物語です。

女の子には知性や学問は必要ない、とされていた家父長制の時代。
阿字子(あじこ)といういっぷう変わった、でもとても愛おしくなる名前の少女が主人公です。幼い頃から本をこよなく愛し、ゆたかな内面世界をもつ阿字子。硝子のように感じやすく、聡明で誇り高い‘精神の王女’。
年頃になった阿字子は、けれどその知的優越ゆえに無理解な周囲の人たちと衝突をかさね、ぼろぼろに傷ついてしまいます。きゅうくつな世間体、父親の折檻・・・。露よりもはかない現実の脆さを知り、かたくなに結婚することを拒む阿字子の生きづらさが、せつないほどに胸にせまるのです。

只結婚ということばかりのほかは、自分は、人々の意志の求める儘に行動しよう。そのことが、最後に運命の指さしている魂の休み場なのではなかったか。運命に、抗(さから)うことなく、追いまわされることなく、黙って、俯向いて、運命のあとから、犬のように随いて行こう。
犬のように――。なんて哀しいことばでしょうか・・・。
無理やりこじ開けられた蕾のような痛ましさに、のどの奥が熱くなります。
Author: ことり
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『pieni tytto―小さな女の子の小さなケーキ屋さん』 ナカムラ ユキ

ある小さな女の子の小さなケーキ屋さんの物語。
パリお菓子の旅日記や7つのケーキレシピと一緒に、小さな宝石箱にそっとしまっておきたくなるような、キラキラと光る想いをお届けします。

小さな女の子のモデルは、名古屋で活躍中のパティシエ・村岡津(みなと)さん。
出雲での幼少時代、地元でひらいた小さなケーキ屋さん、パリ修行・・・
彼女の半生が小さな物語じたてで紹介されています。
のんびり屋さんだった小さな女の子が見つけた、自分にもできる「誰かによろこんでもらえるコト」。それがお菓子づくりだったのですね。いろんな壁やいろんな不安が小さな女の子を襲いますが、そのことに支えられて、女の子は乗りこえていくのです。夢にむかって。

かわいらしいイラストや、津さんのおいしそうなお菓子のレシピと写真。
パリで探しあてた雑貨や材料、カフェやケーキ。どれも乙女心をくすぐる愛らしさ。
パリのサロン・ド・テ「Mamie Gâteaux」が登場したときは「あっ!」とちいさく叫んでしまいました。だって、こちらのオーナーさんのレシピ本は、私がたまにお菓子を焼くとき、唯一参考にしているの。

本じたいのデザインもとても素敵で、手にとるだけでうれしくなります。
表紙の封蝋からはじまって、きれいなレースペーパー、黄ばんだ方眼紙やタグ、あとがきの文章はうす緑色の紙ナプキンにのせられています。余白が多く、リラックスしたお茶の時間にちょこっとひらいてみるのにもぴったり。
津さんのケーキ屋さんにつけられた「pieni tyttö(ピエニトット)」は、北欧の言葉で「小さな女の子」という意味だそうです。いつか津さんのケーキ、たべてみたい。
Author: ことり
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『白桃―野呂邦暢短篇選』 野呂 邦暢

1980年に42歳で急逝した長崎・諫早の作家野呂邦暢。
文学への確かな意志が込められた揺るぎない文体、目に焼きつくような強靱な表現力は、いまなお読む者に鮮烈な印象を与えてやまない。
本書は野呂がもっともその資質を発揮した短篇の代表作「白桃」「鳥たちの河口」ほか、1945年8月9日に同級生のほとんどを失い、原爆をテーマに長篇を構想しながら叶わず逝った彼が、生前唯一発表した原爆を描いた作品「藁と火」(単行本未収録)など七篇をおさめる。

『白桃』、『歩哨』、『十一月』、『水晶』、『藁と火』、『鳥たちの河口』、『花火』。
雪のようなさりげなさで、しっとりと心に沁みいる短篇集でした。

一ばん好みだったお話は、『白桃』。
まず私は野呂さんのつむぎ出す詩情あふれる文章がとても好き。
たとえば、「小暗い電燈の照明をやわらかに反射して皿の上にひっそりとのっている。汁液が果肉の表面ににじみ出し、じわじわと微細な光の粒になって皿にしたたった。」と表現される、皮をむかれた蜜色の桃。
たとえば、「足がひとりでに軽くはずみ、二人はほとんど駆けるように家並を縫って急いだ。匂いはあるときは鼻をうつほど強く、あるときはその場にたたずんで息をつめなければ感じられないほど希薄になった。」と表現される、月の光のもとで匂いだけを頼りに木犀をさがす時の秘密めいた昂奮。
そうして物語が動き、少しずつつまびらかにされていくこの一家の闇のぶぶん・・・。
戦時中の貧しい兄弟、心のみずみずしさ――お話の流れてゆき方に胸がしんとなるのです。

どのお話も、読み終わったとき、たしかに残るものがありました。
詩のようになめらかな『十一月』、長崎の原爆について書かれた渾身の物語『藁と火』も、忘れがたいです。
Author: ことり
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『深い深い水たまり』 奈良 美智

評価:
奈良 美智
角川書店
¥ 2,730
(1997-11)

かわいくてこわい独特の画風で注目される美術作家・奈良美智。
記憶の底に触れるようなその作品に、大人は在りし日の自分の姿を、子供たちは心のなかの色々な想いを重ねる。既成の枠にとらわれない表現を追求してきた作家が、自ら作品を厳選して完成させた待望の本。
アジア・アメリカ・ヨーロッパ・・・世界の美術愛好家が魅せられた期待の若手アーティスト、初の絵画集。

上目遣いのちょっといじわるそうな子どもの表情・・・一度みたら忘れられない奈良美智さんの画集をひらいてみました。
たった一人で、すっくと立って、いどむように生きている子どもたち。
彼の描くコはみんなつんとすました動じなさがあるけれど、繊細で傷つきやすい自分をひっしに護っているようにも見えて、それはどこか痛々しくも感じられるのです。

形にならない真実にくらべたら
形になっている芸術の価値なんて

本当の物こそ形にならない
言葉にならない

奈良さんはいつも、言葉にならない‘本当の物’だけを見つめているんだなあ。
Author: ことり
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『銀の匙』 中 勘助

評価:
中 勘助
岩波書店
¥ 605
(1999-05-17)

なかなか開かなかった茶箪笥の抽匣からみつけた銀の匙。伯母さんの無限の愛情に包まれて過ごした日々。少年時代の思い出を中勘助(1885-1965)が自伝風に綴ったこの作品には、子ども自身の感情世界が、子どもが感じ体験したままに素直に描き出されている。
漱石が未曾有の秀作として絶賛した名作。改版。

追想のなかで生きることができる人。
中勘助という人は、ほんとうの意味でそれができた大人、なのでしょう。
大人が書いた子ども時代であるはずなのに、その視点はあまりにも子どもそのものでびっくりします。病弱で気が小さく、そのくせ癇癪もちだった彼の瞳にうつる情景――おもちゃやお菓子を存分に与えられ、伯母さんにたっぷり甘やかされて育った日々のこまごまが、匂いたつような濃やかさで活写されていくのです。

青や赤の縞になった飴をこっきり噛み折ったときの甘い風、雫がほとほとしたたったほおずき、李の木のすーんとした薫、仲よしのお漾覆韻ぁ砲舛磴鵑遊びにくるときのぽくぽくちりちりいう足音、夕日をあびてたおたおと羽ばたいてゆく五位のむれ・・・、思い出をいきいき彩る可愛いひびきが心地よくて好き。
たとえば、ある晩餐の食卓の、こんなふうに素敵な描写も。
そこにはお手づくりの豆腐がふるえてまっ白なはだに模様の藍がしみそうにみえる。姉様は柚子をおろしてくださる。浅い緑色の粉をほろほろとふりかけてとろけそうなのを と とつゆにひたすと濃い海老色がさっとかかる。それをそうっと舌にのせる。しずかな柚子の馨、きつい醤油の味、つめたく滑(すべ)っこいはだざわりがする。

きらきらと繊細で、泉のように豊かな感性・・・
どれだけ時を経ても色褪せない、ふくらかな文章・・・
儚くこぼれ落ちてゆくだけの情景をひとつひとつすくい取り、ぴかぴかのまま見せてもらったみたいです。
Author: ことり
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『幻燈サーカス』 中澤 晶子、(絵)ささめや ゆき

評価:
中沢 晶子
BL出版
¥ 1,890
(2003-08)

独得の画風で多くのファンを持つ人気画家の初めてのガラス絵画集。
どこか不思議で透明なその絵の彼方に潜むものを、詩が一本の弓となり、せつない物語の旋律にかえて紡ぎ出します。

それは、記憶の底の、また底の・・・ドキドキとほの昏い幻燈サーカス。
まるでタフタのカーテンの陰から、禁じられた小部屋をこっそりのぞいているような、そんな艶かしい秘密めいた興奮。
華々しく煌びやかなステージだけど、その裏側にはほかの誰にも知りえない人生がたしかに存在しているという事実。その孤独や絶望に触れた時、闇はいっそう濃く、灯りはいっそう儚げにうつるようです。
つめたい硝子に描かれているらしい「ガラス絵」に、哀しみの物語が、ひらり。
サーカス団員たちの心にあいたいくつもの空洞が光を放ち、こんなにも美しくせつなく、観る者を魅了するのでしょうか。

「あなたは、危険に魅いられている」と女はいった
「そんなにまでして、飛びたいの?」
涙の瞳をふりきって、男はサーカスいちの飛び手になった
危険を愛した男は生き残り
あっけなく逝ったのは、男を愛した女の方だった
なんのために、だれのためにと問いながら
きょうも男は
宇宙に向かってむなしい飛行をくりかえす
(『からっぽの空中ブランコ』)
Author: ことり
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『エルニーニョ』 中島 京子

女子大生・瑛(てる)は、恋人から逃れて、南の町のホテルにたどり着いた。そこで、ホテルの部屋の電話機に残されたメッセージを聞く。「とても簡単なのですぐわかります。市電に乗って湖前で降ります。とてもいいところです。ボート乗り場に十時でいいですか?待ってます」そして、瑛とニノは出会った。ニノもまた、何者かから逃げているらしい。追っ手から追いつめられ、離ればなれになってしまう二人。
直木賞受賞第一作。21歳の女子大生・瑛と7歳の少年・ニノ、逃げたくて、会いたい二人の約束の物語。

お嬢さん、お逃げなさい――
「森のくまさん」のささやきをきっかけにはじまる瑛の逃避行。
南の町で出逢ったエキゾティックな少年・ニノとのひと夏のロード・ノベル。

本筋と関係があるようなないような、でもやっぱりあるような、そんな小さなストーリーがいくつもいくつも挿まれているせいで、単調ではないふしぎな風合いをかもし出しています。
子守町の伝説だったり、フィリピンの寓話だったり、灰色男のつぶやきだったりが、物語をふわーっと奥行きのあるものに仕上げ、「お逃げなさい」「お逃げなさい」ってどんどん遠くへ背中を押してくれるみたい。

すたこら逃げて、とことん逃げて、勇気をだして逃げたからこそ二人が見つけられたぴかぴかの‘新しい世界’。
「おれを探さなくていい。おれはぜったい見つける」 なんて言っちゃう小さな男の子、ニノが恰好いいな。二人の絆がとても素敵なのです。
バスツアーの時だけお客さんがやってくるうらぶれた商店街の砂糖屋で、おばあさんと仲良くお砂糖を売っている瑛とニノが好き。きっと、つぎの夏も・・・ね?
Author: ことり
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