『夜想』 貫井 徳郎

評価:
貫井 徳郎
文藝春秋
¥ 1,750
(2007-05)

事故で妻と娘をなくした雪藤(ゆきとう)の運命は、美少女・遙と出会って大きく動き始める。
新興宗教をテーマに魂の絶望と救いを描く傑作長篇。

絶望の淵で、光をもとめてもがき苦しむサラリーマンのお話です。
心に深い傷を負った主人公と超能力者と新興宗教。もうこの時点でうさん臭げな空気がたち込めてきて尻ごみしてしまったせいかしら・・・遙を中心に起こした団体「コフレット」の記述が長すぎて、ほんと言うとちょっとうんざりだった私。
けれど読んでいくうちに、「思い込みってこわいな・・」そんな思いがリアルに胸にせまってきて、精神に異常をきたしていく人たちから目が離せなくなりました。
どん底の苦しみの中にいる人が、なにかにすがりつきたくなる。そうしてすがりつけるものが見つかったら今度はふり落とされないように必死になってしまう・・・。冷静さを欠き、疑心暗鬼になり、そんな時に見聞きしたり感じたりしたことはたいていが思いこみなのかもしれません。そのことがまるで絶望の上塗りをするようで、かなしくなってしまったのです。

「自分を救うのは自分自身しかいません」
重く苦しいばかりのお話がラストで放ってくれた小さな光は、不幸な事柄がいつどんなかたちで降りかかってくるか分からない・・・そんな私たちへのエールなのかも。
Author: ことり
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『悪党たちは千里を走る』 貫井 徳郎

評価:
貫井 徳郎
光文社
---
(2005-09-26)

主人公・高杉は、ドジな手下・園部とコンビを組んで一攫千金を夢みる二流詐欺師。「人道的な犯罪」しかしないことをモットーとする彼らは、金持ちのペットを誘拐して身代金をせしめることを思いつく。
ターゲットの犬をいつも散歩させているのは、成城に豪邸を構える渋井家の長男で、「こまっしゃくれた」小学生の巧(たくみ)。
ところが、なりゆきでチームに加わった美人詐欺師・菜摘子(なつこ)とともに「ペット誘拐」の策を練る高杉らの前に、当の巧が突然現れ、親から金を取るために自分を狂言誘拐してほしいと言い出した!その矢先、巧が何者かに‘本当に’誘拐されて――?!

400ページ超のヴォリュームながら、いっきに読んでしまいました。次々に起こる飽きさせない展開はさすが貫井さん、という感じ。‘根っからの悪人ではない悪党たち’のお話が大好きな私だから、すごく楽しめた一冊です。
でも、ラストがちょっと呆気なかったかな。最後までグイグイ引っぱっていってくれた割にはこれといったどんでん返しもなくて、もの足りなさがのこってしまったのです。
Author: ことり
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『殺人症候群』 貫井 徳郎

私立探偵の原田、托鉢僧の武藤、肉体労働者の倉持という元警察官の3人と、リーダーである警視庁人事二課の環。『失踪症候群』、『誘拐症候群』と続いた彼ら特殊工作チームが活躍するシリーズもいよいよ完結編。
第一弾からだんだん面白くなっていく、と聞いて読み始めたこのシリーズ。ラストを飾るこのお話は、ほんとうに息もつかせぬ面白さでした。

今回も環がリストアップした人びとにはある共通点があった。それぞれ殺人を犯しながら、未成年か精神障害を理由に刑法上の刑に服さなかった者たち。そして彼らはことごとく殺されていた。原田と武藤は背後にちらつく「職業殺人者」の影を追う。
それと並行して、息子のためと信じ殺人をくり返す中年女性・和子、交通事故の裏に殺意を感じとる刑事・鏑木(かぶらぎ)、特殊工作チームに加わらず単独行動に出る倉持、そして「職業殺人者」たちの過去と葛藤が、くもの糸のようにからみあって描かれていきます。さまざまな立場に立つ者の視点から現代の法律の落ち度をあぶり、世に問いかけた意欲作。

復讐は、かならずしも悪だと言えるのか――
このお話のテーマはそこにこそ、あると思います。
愛する人を殺された遺族の前に、少年法や精神障害が壁となって立ちはだかる例は、かなしいけれど現実の社会でも枚挙にいとまがありません。手厚い法の保護を受ける加害者と、容赦なく好奇の目にさらされる被害者の遺族たち。法にかわって無念を晴らしてくれる人が、もしも存在したら・・・?
この本はけっして「職業殺人者」への賛歌ではないし、殺人は殺人で、けっして崇高な行為なんかじゃないし、だから彼らのたどる運命は無残なものでしかないけれど。でも、彼らの行為が‘悪’だと、どうして言い切ることができるでしょうか。

正しい答えなんて、どこにもないのかもしれない。
被害者たちの言い分は、どこもおかしくなんかないのに。

趣向を凝らしたエンターテイメントには違いないけれど、これってもしかしたら私たち読者が試されているのかもしれません。
考えさせられた。最後はこれに尽きます。
Author: ことり
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『誘拐症候群』 貫井 徳郎

評価:
貫井 徳郎
双葉社
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(1998-03)

警視庁人事二課・環敬吾が率いる影の特殊工作チームが活躍する「症候群」シリーズ、第二弾。今回の任務は、インターネットを介して巧妙に行われた誘拐事件の実態をあばくこと。

第一弾の原田からバトンを引き継いで、今回は托鉢僧の武藤が語り手となります。大きく分けてふたつの誘拐事件が進行し、読んでいるあいだは先が知りたくて頁をめくる手が止まらないほどの面白さ。
だったのだけど、ラストはちょっとガッカリ・・・。
だって、こんな無茶苦茶をして逮捕してしまっていいの?
法が裁けない悪をやっつけて欲しい、そんな私たちの願望を満たしてくれる意味ではスカっともするし、なんといってもこのお話はエンターテイメント。作者の貫井さんはTV時代劇「必殺」シリーズの大ファンで、そこから生まれたらしいこのシリーズは少しくらいの無茶には目をつぶって素直に楽しむべき、そんなことも分かってはいるのだけれど。
うーーん、‘無茶’の内容が‘卑怯’であって欲しくはなかったです・・・。
Author: ことり
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『失踪症候群』 貫井 徳郎

探偵業を営む原田、肉体労働者の倉持、托鉢僧の武藤は、みなそれぞれ「よんどころない事情」で警察を去った者たち。ふだんは表の稼業にいそしみ、いざ警視庁の意向を背負った警務部の環(たまき)から指令が入れば裏稼業へ。
じつはこの3人、警察が表立って捜査することのできない事件を調査して、罪をあばく秘密組織のメンバー。メンバー間はそれほど親密ではないものの(お互いの過去に触れないという暗黙の了解があるのだそう)、一度集結すればその連携プレーは鮮やかにキマります。

原田の視点を中心につむぎ出されるストーリー。
環から失踪した若者たちについて調査することを引き受けた3人が「失踪者リスト」に注目すると、いっけん事件性はないけれど、薄弱ながらもいくつかの共通点があった。さらに追跡を進める内、彼らは住民票を転々とさせていることが判明して・・・。
やがてその背後にうかび上がってくる、隠された真相とは?

貫井徳郎さんの「症候群」シリーズ第一弾。
「逃れたい」その思いから自ら失踪する若者たち、卑劣な暴行をたんたんと加える凶暴者、イリーガルドラッグ、原田を悩ませる娘との確執・・・人間の深い闇にせまる重苦しい展開ではあるけれど、歯切れのよい文章でぐいぐい引きずりこまれてしまう異色の警察ミステリーに仕上がっています。
組織から、家庭から、あるいは日常から――、人は多かれ少なかれ逃げ出したくなる一瞬があるのかも。
だけど、生きているかぎり、自分の人生からは誰も逃れられない。胸のすく思いとともに、貫井さんからのそんな力強いメッセージが感じとれるラストでした。
Author: ことり
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『崩れる―結婚にまつわる八つの風景』 貫井 徳郎

結婚って、結婚生活って、こんなにこわいものではないですよね?
誰にともなくそんな問いかけをせずにはいられない、リアルな怖ろしさをたたえた結婚にまつわるオムニバス。
どうしようもないバカ夫とバカ息子についに主婦がキレたり(『崩れる』)、元彼女の嫌がらせで幸福な家庭に影がさしたり(『怯える』)、高校時代に出しぬいた女友達とその夫に恨まれたり(『憑かれる』)、勤め先である結婚相談所の会員につきまとわれたり(『追われる』)、妻が遭遇した事故の加害者が上司の妻だったり(『壊れる』)、ようやくできたママ友達と親しくし始めてから身辺で異変が起きたり(『誘われる』)、隣のベランダからの腐臭に悩まされたり(『腐れる』)、結婚をひかえた一人暮しの女に不気味なイタズラ電話がかかってきたり(『見られる』)・・・。

どのお話も、ついつい見逃してしまいがちなほんの些細なゆがみが引き金となり崩壊につながっていく、そんな日常の脆さが描かれています。
読んでいて感心したのは、これを書いたのが男性であるということ。女性の心理や感覚をこれほどうまく表現できる男性作家はかなり稀少ではないかしら?
ひたひたと忍びよる魔の手への焦燥感と、一話一話きちんとひねりが利いているのが貫井さんらしくて、思わず引きこまれた一冊でした。
Author: ことり
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『被害者は誰?』 貫井 徳郎

頭脳明晰、容姿端麗、おまけに態度までスーパーな、安楽椅子探偵・吉祥院慶彦(きっしょういん・よしひこ)の登場です。
ワトスン役をになうのは、吉祥院の大学時代の後輩で警視庁捜査一課の刑事・桂島(かつらじま)。彼が‘おみやげ’にと持ち込んだ難事件を、吉祥院が華麗に解決していくという連作短編集。

ライトで読みやすく、まるで冗談みたいな展開なのだけれど、そこはさすがの貫井さん!どれもひねりを利かせてあります。口は悪いが頭はキレる、吉祥院のキャラが突き抜けていておもしろい。
肩の力をぬいて楽しむ、そんな気ままな読書にはぴったりの一冊です。
Author: ことり
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『慟哭』 貫井 徳郎

評価:
貫井 徳郎
東京創元社
¥ 780
(1999-03)

連続する幼女誘事件の捜査が難航し、窮地に立たされる捜査一課長。若手キャリアの課長を巡って警察内部に不協和音が生じ、マスコミは彼の私生活をすっぱ抜く。こうした状況にあって、事態は新しい局面を迎えるが・・・。
人は耐えがたい悲しみに慟哭する――新興宗教や現代の家族愛を題材に内奥の痛切な叫びを描破した、鮮烈デビュー作。
Author: ことり
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