『絶望ノート』 歌野 晶午

評価:
歌野 晶午
幻冬舎
¥ 1,680
(2009-05)

いじめに遭っている中学2年の大刀川照音(しょおん)は、その苦しみ、両親への不満を「絶望ノート」と名づけた日記帳に書き連ねていた。そんな彼はある日、校庭で人間の頭部大の石を見つけて持ち帰り、それを自分にとっての“神”だと信じた。神の名はオイネプギプト。エスカレートするいじめに耐えきれず、彼は自らの血をもって祈りを捧げ、いじめグループ中心人物の殺人を神に依頼した――。

日記形式でつづられていく、いじめの記録。
「神様、なんとかしてください」「あいつを殺してください」「天誅を!」
ノートの文面から、そんな悲痛な少年の祈り(呪い?)が伝わってきて、それはけっこうしんどい内容なのになぜか引き込まれ、いっきに読みました。
正直言って、かなり早い段階で全体像が透けて見えてしまったのだけれど(だからそういう意味での衝撃度、ではなくて)、彼の「絶望」のほんとうの意味を知ったときに心の壁をよじのぼってくるゾクリとした悪寒・・・それが読み終えたいまでも尾をひいている感じ。
伝えたいのに伝わらない、伝わってこない。すれ違う気持ち、芽生える悪意――。
内容、かなりかなりノワールです。
Author: ことり
国内あ行(歌野 晶午) | permalink | - | -
 
 

『さらわれたい女』 歌野 晶午

評価:
歌野 晶午
角川書店
¥ 540
(2006-01-25)

「私を誘拐してください」
とつぜん現われた美女に狂言誘拐を持ちかけられた便利屋。
彼はその計画に便乗し、身代金を頂戴することを考えつきます。けれど大金をせしめてアジトにもどってみると、その美女は何者かに殺されていたから、さあ大変!
あわれな彼は、‘真犯人’に脅されて死体の処理をするハメになり・・・??

見えないなにかに引っぱられるように、いっきに読みました。
死体をみつけてパニックに陥った便利屋が、怖ろしくなったり、かと思えばみるみる強気になったり・・・彼の感情の動きが手にとるように分かる、そのことも夢中で読まされてしまった理由なのかしら。
構成がすごく巧みで、便利屋が‘真犯人’を突きとめようとしだしてからは、少しずつ明らかにされていく新事実たちに、「どういうこと?!」と手に汗をにぎりました。
二転三転する展開に翻弄されながらも、それらのピースが収まるべきところにちゃんと収まっていく・・・ラストまで気が抜けないのに、読み終えたあとにモヤモヤが残らないのもよかった。

このお話は1991年に書かれ、1992年にノベルスとして刊行されたものだそうです。
舞台となる1991年の日本は、携帯電話がないのはもちろん(自動車電話がでてきます)、電話のナンバー・ディスプレイすらまだの頃で、そういうぶぶんに古さを感じるのもたしか。だけどこのお話のスリルだとかおもしろさはぜんぜん色褪せてなんかない、そう思いました。
時代はどんどん新しくなり、「今」はどんどん古くなります。でもだからこそ、「今この時代だから成立するトリック、今この時代にしか書けないテーマ、今この時代を生きる人々だから感じる殺意、恐怖、悲哀」を書きたい。あとがきでの、そんな歌野さんのモットーが私にはとても頼もしく思えたのです。
Author: ことり
国内あ行(歌野 晶午) | permalink | - | -
 
 

『ハッピーエンドにさよならを』 歌野 晶午

いっぷう変わった殺人の動機に焦点をあてた、短編ミステリー集。
『おねえちゃん』、『サクラチル』、『天国の兄に一筆啓上』、『消された15番』、『死面』、『防疫』、『玉川上死』、『殺人休暇』、『永遠の契り』、『In the lap of the mother』、『尊厳、死』・・・どれもけっして「ハッピーエンド」では終わらせてくれないお話たちです。
おもしろかったのは『おねえちゃん』、『サクラチル』、『尊厳、死』で、歌野さんらしい鮮やかな裏切りには思わず「えっ!」と声をあげてしまうほど。
・・・ただ、あとのお話はいまひとつパッとしなくて、とくに『永遠の契り』や『In the lap―』のつまらなさには、がっくりするやら、びっくりするやら・・。
おもしろさの落差がここまで激しい短編集は、ちょっと珍しいかもしれませんね?
Author: ことり
国内あ行(歌野 晶午) | permalink | - | -
 
 

『世界の終わり、あるいは始まり』 歌野 晶午

東京近郊で連続する誘拐殺人事件。誘拐された子供はみな、身代金の受け渡しの前に銃で殺害されており、その残虐な手口で世間を騒がせていた。そんな中、富樫修は小学六年生の息子・雄介の部屋から被害者の父親の名刺を発見してしまう。息子が誘拐事件に関わりを持っているのではないか?恐るべき疑惑はやがて確信へと変わり・・・。
既存のミステリの枠を超越した、崩壊と再生を描く衝撃の問題作。

主人公の富樫は近所の男の子が被害にあっても「しょせん他人事だ」と自分の家庭の幸福をかみしめているような人。自分を冷徹な人間だとも思っています。
そんな彼がある日、自分の息子が誘拐殺人犯である証拠をみつけてしまい、その確信とそんなはずはないという思いとのあいだで苦悩する姿をリアルに描いていくお話、なのですが・・・。
やっぱり歌野さん!この人の本はなにかある!
はじめこそ、予想に反して結構まっとうな小説なのかしら?と思いながら読んでいた私だけれど、いえいえ、ちっとも‘まっとう’なんかじゃありませんでした。
ある頁を境に、ふいに頭のなかが「?」マークでいっぱいになってしまいます。しばらくして合点がいくのだけど、その後も容赦なくふりかかる切れ目のない‘悪夢’の連続に、すっかりふりまわされ裏切られた私。でもそれがすごくおもしろかったのです。目のまわるような展開と、ちっぽけで身勝手な主人公の心の揺れに、眠るのも忘れていっきに読み終えてしまいました。

「パンドラの箱」を開けて‘世界の終わり’を見た父親が、最後にあるひとつのものを手にするところで物語はおしまいです。
その先に続く未来を予感したとき、タイトルにあった‘あるいは始まり’の意味が重苦しくひびきます。
Author: ことり
国内あ行(歌野 晶午) | permalink | - | -
 
 

『魔王城殺人事件』 歌野 晶午

星野台小学校5年1組の翔太たちは、探偵クラブ「51分署捜査1課」を結成した。いくつかの事件を解決し、ついに、町のはずれにある悪魔の巣窟のような屋敷、デオドロス城(僕たちが勝手に名付けた)にまつわる数々の怪しいウワサの真相を確かめるべく探険することに!潜入直後、突然ゾンビ女(?)が現れたかと思うと、庭の小屋の中で謎の消失!新たに女子2人が加わった「51分署捜査1課」は再び城に。今度は小屋の中で乳母車男(!?)の死体を発見してしまうのだが、その死体も消滅してしまう。やはりデオドロス城には何かただならぬ秘密が隠されているのだ。

小学生向けとあって、小学生が大好きなものものがてんこ盛り!
幼い頃って大人が禁止することほどやりたくなったし、行ってはダメよと言われる場所ほど魅力を感じ、ゾクゾクしていたおぼえがあります。そこへきて、「探偵クラブ」がいかにも怪しげな「城」に潜入!しかもそこには「物質転送装置(!?)」的な小屋まであって・・・これ、子どもにウケないわけがないですよね。
トリック慣れしている大人には少しもの足りないかもしれないけれど、子どもの頃をなつかしく思い返しながらの推理もなかなか楽しいもの。
ポップな挿絵がまた最高にかわいいの!
Author: ことり
国内あ行(歌野 晶午) | permalink | - | -
 
 

『そして名探偵は生まれた』 歌野 晶午

雪の山荘(『そして名探偵は生まれた』)、孤島(『生存者、一名』)、館(『館という名の楽園で』)・・・本格ミステリーの代表格「三大密室」が堪能できる推理傑作集。
葉桜の季節に君を想うということ』でみせたような叙述トリックはないのだけれど、どれも最後の最後まで読み手の心をつかんで放さないところは、さすがの歌野さん。
私のお気に入りは『生存者、一名』。アガサ・クリスティーさんの『そして誰もいなくなった』を下敷きにしているようです。

『生存者、一名』
東シナ海は遥か沖にうかぶ孤島に、ある日6人の男女が降りたった。
彼らは都内で爆弾テロを行なった新興宗教の信者で、4人の実行犯と1人の幹部とその鞄持ち。来たるべき国外逃亡にそなえ、ほとぼりが冷めるまで島に隠れ住む予定だったのだ。
ところが翌日、幹部が船とともに忽然と姿を消す。残りの5人は、絶海の孤島に完全に閉じ込められてしまうことに。そして彼らは何者かの手によって、1人ずつ殺されていった・・・。
犯人はいったい誰?そして最後に生き残った生存者とは??
Author: ことり
国内あ行(歌野 晶午) | permalink | - | -
 
 

『葉桜の季節に君を想うということ』 歌野 晶午

成瀬将虎(まさとら)は、元私立探偵のフリーランサー。フィットネスジムで身体を鍛え、サイトを渉猟しては、出会った女とセックスを愉しんでいる。
ある日、成瀬はおなじジムに通う久高愛子という女性から調査を依頼された。家族がひき逃げされて亡くなったと言う。故人は怪しげな霊感商法にひっかかって多額の商品を買いこんでいて、さらには家族におぼえのない複数の生命保険がかけられていた。そんな時、成瀬は麻宮さくらという女性を駅のホームで飛びこみ自殺から救い、それが縁で交際がはじまって――・・・

軽快な会話調ですすむ読みやすいエンターテイメント、にはちがいありませんが、その感覚はラストまぢかでみごとに打ちくだかれてしまいます。
ある一点で、時限爆弾のような大仕掛けがじっと息をひそめて待ちかまえ、そしてひとたび炸裂すると、それまでの世界をいっきにひっくり返してしまうのです。
や・ら・れ・た!!
こんな衝撃は殊能将之さんの『ハサミ男』以来かも!
その一点に着地したとたん、はたと思い当たるあの一文。あれが伏線だったんだ!
そして『葉桜の季節に君を想うということ』、なんてうまいタイトルなんでしょう。読み終えた後にタイトルそのものが、じんわり心にしみていきます。

頭と心をからっぽにして読んでみてください。私はこの本で徹夜してしまいました。
Author: ことり
国内あ行(歌野 晶午) | permalink | - | -