『しずく』 西 加奈子

評価:
西 加奈子
光文社
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(2007-04-20)

『ランドセル』、『灰皿』、『木蓮』、『影』、『しずく』、『シャワーキャップ』。
可愛らしさのなかにも、せつなさを秘めた6つの物語。
ほら。よく似たりよったりのお話たちが集まった、だらーんとだらけた印象の短編集があるけれど、この本は一話一話表情がくるくると変化して、読み飽きないのがよかったです。

私が好きなお話は、『木蓮』。34歳の「私」が、大好きな恋人(離婚歴あり)の娘・マリを一日だけあずかるお話です。
子供なんて嫌いだけれど、恋人には嫌われたくない。憎らしげなマリにせいいっぱいの笑顔をふりまいていた「私」ですが、恋人のために無理をしていた自分にだんだん嫌気がさしてきて、ひとりの人間としてマリに向き合う決心をする、そんなくだりが印象に残っています。‘恋心’にいつのまにかくっついてしまった雑多なもの・・・それをとり払っていく様がとても清々しかった。

思わず顔がほころんでしまうあたたかな雰囲気に、ほろりとせつない苦みが残る西さんらしい短編集。ちょっとやんちゃな関西風味もステキです。
Author: ことり
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『きいろいゾウ』 西 加奈子

評価:
西 加奈子
小学館
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(2006-02-28)

その昔。少女は、病室できいろいゾウと出会った。
青年は、飛ばない鳥を背中に刻んだ。
月日は流れ、都会に住む一組の若い夫婦が、田舎の村にやってきた。
夫の名は武辜歩(むこ・あゆむ)、妻の名は妻利愛子(つまり・あいこ)。
お互いを「ムコさん」「ツマ」と呼び合う若夫婦。
背中に大きな鳥のタトゥーがある売れない小説家のムコさんは、周囲の生き物(犬、蜘蛛、百足、花、木など)の声が聞こえてしまう過剰なエネルギーに溢れた明るいツマをやさしく見守っていた。

『となりのトトロ』みたいな自然あふれる田舎の村で、ゆったりなかよく暮らすムコさんとツマ。
お隣に住むアレチさんとセイカさん、もう片方のお隣の駒井さん、ごはんをもらいに来る野良犬のカンユさん、からかいに来るチャボのコソク、ツマを慕う大地くん、大地くんに恋する洋子・・・たくさんの魅力的な人びと(?)との田舎生活をのびやかに語るツマ目線の日常と、ムコさんの日記形式の独白、そこにお月様のきいろい粉を全身に浴びた空飛ぶゾウの童話が重なっていく物語。
はじめは、このほのぼのとした平和な世界に安心しきっていた私。ところが読み進めるうちに、思いもかけずお話は深く、ドキドキと胸にせまる展開を見せるのでした。
ある一通の手紙をきっかけにムコさんの過去がよび覚まされ、夫婦の心の繋がりはほころび始め、そしてほどけてしまう。けれど再び、今度はしっかりと強く結びなおしていく・・・後半は、そんな夫婦の絆が描かれていきます。
「夫婦は不思議」
ラストまぢかで出てくるこの言葉がじんわりとしみてきました。
そう。夫婦って、ほんとうに不思議、なのですよね。

いちばん身近にいて、私にみちたりた幸福をくれる人。
でも、理解りあえてると思ってたのに、ふとしたズレに愕然としたり。自分の分身みたいに思う時もあれば、所詮は他人、なんて虚しくなったり。
話されることのない過去。知らないほうが幸せ。そんなこともきっとあるんだろう。
でもやっぱり、どこにいてもちゃんと繋がっている。遠く離れていても風邪がうつることだって、あるのかもしれない。
私はこの世界を旅して、きいろいゾウをみつけたよ。私のゾウは、あなただけだよ。
「わかる? わかんないよね?」
Author: ことり
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『あおい』 西 加奈子

評価:
西 加奈子
小学館
¥ 1,260
(2004-05)

26才スナック勤務の「あたし」と、おなかに「俺の国」地図を彫っている4才年下のダメ系学生カザマ君と、ペット亀の「バタ」のほわほわ脱力気味の同棲生活から一転、あたしはリセットボタンを押すように、気がつけばひとり深夜長野の森にいた。人っ子一人いない、真っ暗闇の世界のなかで、自分のちっぽけな存在を消そうと幽体離脱を試みたり、すべてと対峙するかのように大の字になって寝っころんだりしていたあたしの目に、ふと飛び込んできたうす青色の野生の花。その瞬間、彼女のなかでなにかが氷解した――。
今世紀の女子文学に愛の一閃を穿つデビュー作。

いい加減な生き方をしている「あたし」とカザマ君。
彼らのどろんとした日々を、なめらかな大阪弁に乗って読み進めるうち、「あたし」が過去に負った心の疵が明らかになってゆき、そしてさらには‘逃げも隠れもできない一大事’が起こります。
ふんわりした文体で、なかなかに厳しい現実を語る小説。読み終わる頃にはほんの少し目の前が開けて、背すじがしゃんとなる感覚をもらった気がしました。

尋常じゃないくらい太っていて、いつ会っても知らない人を見ているような目をして、「いつか、小説を書くから、そのときまで、自分の中に言葉を溜め込みたい」と辞書ばかり読んでいる本屋の店員・みいちゃんが、脇役ながら魅力的。
「みいちゃん、痩せようと思ったことないの?」
「書き出したら、一気に痩せると思うから。」
「なんで?」
「小説書くってゆうのは、自分を切り売りすることやろ。」
・・・みいちゃん、なんてステキなの。
Author: ことり
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『さくら』 西 加奈子

評価:
西 加奈子
小学館
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(2005-02-23)

理想の家族。
そう、このお話で描かれるのは誰もが理想とよぶにふさわしい家族です。
いつまでも恋人同士のように仲の良い父さんと母さん。数々の伝説を生み出し、みんなから愛されるヒーローのような兄ちゃん。顔立ちは美しいのにいっぷう変わった性格のミキ。そして、忘れちゃいけないサクラ。
語り手となる「僕」はちょっと目立たない存在だけど、幸せで、まあるくて暖かい何かにつつまれている家族。「あのときの僕らに、足りないものなんて何も無かった。」
――そんな‘理想の家族’を、ある日突然悲劇が襲って・・・。

ひとつの出来事をきっかけに歯車がくるってしまった家族の物語。
せつなくてかなしくて、底がみえないくらいに絶望的で。
けれどそれはどんな家族にも、どんな人生にも起こりうる可能性をふくんでいるから、だからこの本を読み終えた時、「伝えたい思いは、いま伝えなきゃ。」つよくつよくそう思いました。
神様がどんなボールを投げてよこすか、そんなの誰にもわからない。
人を想うあまり、ひん曲がってしまったいびつな感情をもてあます彼ら。けっして綺麗なものや綺麗な心をもった人だけが登場するお話ではないけれど、情景のひとつひとつが、家族のひとりひとりがとても愛おしく感じられました。・・・もしかしたら、ほんとうに綺麗なものってそういうものなのかもしれませんね。

どうかどうか、素直な気持ちで読んでほしい物語です。
素直な気持ちで読んだ人にだけ、届くものがきっとあると思うのです。
Author: ことり
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