『サルくんとお月さま』 谷口 智則

自分のいろを見失ったサルくんは、いつも他の動物たちのことをうらやましがってばかり。素敵な耳のウサギさん、力もちのゾウさん、大空を自由に飛べるトリさん、水の中をスイスイ泳ぐサカナさん。だけど自分には何もない。そんな時、サルくんは森の中で空から落っこちて泣いているお月さまに出会って・・・。
第8回新風舎えほんコンテスト審査員特別賞受賞作品。

なんともいえない素敵な風合いで描かれていく、サルくんの物語。
ひとつの文字ももたない絵本です。
言葉がないから、そのぶん心にしみてくるものがあって、そのときそのとき感じたメッセージをいつまでも大切にしたい、そういう絵本だと思いました。

サルくんの孤独も迷いもやさしさも・・・すべてぎゅうっと抱きしめてあげたい。
Author: ことり
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『花嫁化鳥』 寺山 修司

評価:
寺山 修司
中央公論新社
¥ 740
(2008-11)

大神島の風葬、青森のきりすとの墓・・・寺山修司が旅した不可思議な世界。日本各地の奇習をたずね、うつつと夢のあわいを彷徨しながら日本人の原風景をさぐる。
「身捨つるほどの祖国」を歩く旅を描いた本書は、寺山修司への最良の入門書である。

犬神、風葬、鯨の墓――・・・
寺山修司さんが日本列島あちこち旅して書き上げた、民俗学ふうの紀行文です。
古来より言い伝えられてきた土着の呪術や迷信、ほの昏い伝説などをたずね歩き、彼ならではの視点からつむがれていて、すごくおもしろい。どこからか虚構のエピソードがまじり始め、すっかり独自の想像世界につれて行かれてしまうところも。
海や野山にかこまれた小さな集落(秘境)にじっとりと息づいてきた妖しい風習が、「寺山修司」というフィルターを通るとふしぎな郷愁をともない、現実と神話の美しくも怖ろしいコラボレーションを生みます。それはどこかかくれんぼや子守唄のかなしさにも似て、心細いような懐かしさがしみてくるのです。

ハイカラな娘さんが可愛らしい竹久夢二さんの装画に惹かれて手にとった本。
この表紙と本の内容は、イメージがかなりかけ離れているような気がするけれど・・・でも読んでよかったです。
Author: ことり
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『はりもぐらおじさん』 たちもと みちこ

評価:
たちもと みちこ
教育画劇
¥ 1,260
(2011-03)

チョキチョキ チクチク タタタタタ・・・
はりもぐらおじさんの いえから、いつも きこえるおと。
さて、はて、なんのおとかな?

仕立屋さんのはりもぐらおじさんのお店に、森の動物たちがつぎつぎ‘おしゃれなお洋服の注文’にやってくる可愛いおはなし。
とにかく絵が素敵です。エリック・カールさんを思わせる色彩感覚とコラージュ!
やってきた動物たちがどんなお洋服につつまれて帰っていくのか、ワクワクしながらページをめくりました。はりもぐらおじさんはお客さんの希望とサイズにぴったりのお洋服をこしらえる、センスある仕立屋さんなのです。
ラスト、満月の夜のパーティで、とびきりのおしゃれをした動物たちがせいぞろいするシーンが観音びらきで演出されています。
目にとびこんでくる色彩のシャワーに圧倒される、うつくしい絵本です。
Author: ことり
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『カルルとふしぎな塔』 寺田 順三

紅茶をしみ込ませたみたいな、ほのかにあめ色のレトロな感じ。
寺田さんのイラストはとにかくかわいくて、気持ちがほっこりするから好き。

なかよしのパネットはパン屋さん、ロロはくだもの屋さんをしています。
でもカルルはまだやりたいことをさがしているとちゅう。
そんなとき、ふしぎな塔の鐘の音が止まってしまい町の人たちは大よわり!1日3回きまった時間の鐘がならないと、ごはんの時間がわからないのです。
器用なカルルは、ふしぎな塔のてっぺんめざしてのぼり始めました・・・。
ふしぎな塔での‘出逢い’が、カルルの心をほんの少し動かしてくれるおはなしです。

おなじタイトルでアニメーションもあるんですって。
カルルたちが動きまわるところ、みてみたいな〜。
Author: ことり
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『赤糸で縫いとじられた物語』 寺山 修司

「ジュリエット・ポエット」――寺山修司自らが名づけた、散文詩とも童話ともつかない不思議な作品の数々。
人間が次々と鳥に変身してしまう『壜の中の鳥』、魔法の消しゴムで恋敵を次々と消していく『消しゴム』、十年後の姿を映し出す写真機を描いた『まぼろしのルミナ』・・・抒情と幻想がシュールに溶け合った、鮮やかな十二篇を収録した、ジュリエット・ポエットの代表的作品集。

ふしぎな色気がにじむ、お砂糖のようにきらきらはかない詩とメルヘン。
かん違いの水夫ジョニー、言うことをきかない手足、すれちがいのアリスとテレス、ふしあわせなリボンの少女、ふたつの影をもつアリス・・・哀しみをおびたおとぎの国の住人たちが、甘くせつなく心を濡らし消えてゆきます。
どのお話も、なんて残酷・・・なんて美しい。
どこかに忘れてきてしまった‘自分の一部’をさがして歩くような、そんな心許なさにつつまれました。
それはもしかしたら、あの頃の無邪気だった恋。無邪気だった私。

 女のからだは お城です
 なかに一人の少女がかくれている
 もういいかい?
 もういいかい?
 逃げてかくれた自分を さがそうにも
 かくれんぼするには
 お城はひろすぎる
Author: ことり
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『抱擁』 辻原 登

評価:
辻原 登
新潮社
¥ 1,470
(2009-12-18)

二・二六事件の翌年、昭和十二年の東京・駒場。前田侯爵邸の小間使として働く十八歳の「わたし」は、五歳の令嬢・緑子が、見えるはずのない何かの姿を見ていることに気づく――。
歴史の放つ熱と、虚構が作り出す謎が、濃密に融け合う世界。イギリス古典小説の味わいを合わせ持つ、至高の物語。

昭和12年、鬱蒼とした森に建つ西欧のお城のような旧加賀藩前田本家の邸宅。
戦争に向かっていく剣呑な時代のはずなのに、お邸のなかではミセス・バーネットのハイティーでのおしゃべり、ニレの木陰のベンチでいただくお茶やお菓子、窓際での刺繍・・・世間の喧噪をよそにきらめくばかりの時間がゆったりと流れています。
もしかしたら、この空間そのものが夢だったりして。そんなことを思ってしまうほど。
外気から遮断されたお邸「駒場コート」で、小間使いとして働いた「わたし」がのちに検事に語った不穏な事件――お仕えしたお嬢様のもとで起こった一部始終。

つぎつぎに起こる奇怪なできごと。ぞわりと肌を走る‘いる’としか思えない感覚。
ゴシック・ロマンのモチーフをあちこちにしのばせた物語は、怖いというより、日頃は忘れかけている「あちら側」の世界のことをあらためて意識してしまう、そんなお話に感じられました。
なにもかもがうす靄のなかにかすんで、見えざる者たちがくっきりと立ち現われてくれることはありません。「わたし」のもの静かな語り口が霊的な空間をいっそう際だたせ、最後に置かれた衝撃のひと言は、まるで翡翠色の泉に投じられたひと粒の小石のよう。本をとじてなお、さざ波は静まることなく世界を歪め、さわわ、さわわ、と私の心を波立たせました。

私の脳裡で、いまもゆれ続ける幽玄な蝶のイメージ。
・・・妄念と真実の境いめはどこ?
Author: ことり
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『魂のいちばんおいしいところ―谷川俊太郎詩集』 谷川 俊太郎

島本理生さんの『野ばら』(『君が降る日』所収)というお話のなかで、一部引用されている詩があります。この全文が読みたくて、図書館でさがしてみました。
あまりにもせつなく、あまりにも哀しくて、こんなふうに思いをとじ込めたまま笑顔で暮らしている人(『野ばら』の彼みたいに・・)がきっとたくさんいるんだ、そう想像するだけで胸が苦しくなりました。
この詩集のなかで、私もこの詩が一ばん好きです。

私はあなたに恋し あなたはそれを笑いとばし
いっしょにカラオケを歌いにいき
そうして私たちは友だちになった

あなたは私に愚痴をこぼしてくれた
私の自慢話を聞いてくれた 日々は過ぎ
あなたは私の娘の誕生日にオルゴールを送ってくれ
私はあなたの夫のキープしたウィスキーを飲み
私の妻はいつもあなたにやきもちをやき
私たちは友だちだった

ほんとうに出会った者に別れはこない
あなたはまだそこにいる
目をみはり私をみつめ くり返し私に語りかける
あなたとの思い出が私を生かす
早すぎたあなたの死すら私を生かす
初めてあなたを見た日からこんなに時が過ぎた今も
(『あなたはそこに』より)
Author: ことり
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『東郷青児―蒼の詩 永遠の乙女たち』 東郷 青児

詩情あふれる美人画で一世を風靡した画家・東郷青児。
タブロー、ブックデザイン、洋菓子店の包み紙、雑貨デザイン、化粧品のパッケージ、喫茶店のプロデュース――その愛らしく、ロマンティックな意匠をご紹介する、初めての1冊。

蒼く澄んだ夜気を思わせる空間に、優雅にゆらめく美しい乙女の身体。
どこか陶器めいた柔らかそうな素肌、ふせた睫毛のアンニュイな目線、夢みがちで白くきゃしゃな指。
私の大好きな画家・東郷青児さんの絵画、それらが彩るロマンティックな生活小物たちが紹介されています。可憐ではかなく、闇を抱いた小鳥のような幻想美――このうっとりと妖しい匂いたつような甘やかさは、上等なケーキの箱を開けるときめきにたしかに通じるのかもしれません。

素敵・・・
こぼれたため息の数だけ、絵のなかの彼女たちの物思いに深く蒼く、しずかに心が侵されてゆくみたいです。
Author: ことり
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『黒百合』 多島 斗志之

評価:
多島 斗志之
東京創元社
¥ 1,575
(2008-10)
「六甲山に小さな別荘があるんだ。下の街とは気温が八度も違うから涼しく過ごせるよ。きみと同い年のひとり息子がいるので、きっといい遊び相手になる。一彦という名前だ」
父の古い友人である浅木さんに招かれた私は、別荘に到着した翌日、一彦とともに向かったヒョウタン池で「この池の精」と名乗る少女に出会う。夏休みの宿題、ハイキング、次第に育まれる淡い恋、そして死――一九五二年夏、六甲の避暑地でかけがえのない時間を過ごす少年たちを瑞々しい筆致で描き、文芸とミステリの融合を果たした傑作長編。

紹介文にあった「文芸とミステリの融合」ということばに、「ようし、騙されないぞ!」となかば挑むような気持ちで慎重に読み進めた私でしたが・・・、みごとに作者の罠に引っかかってしまいました。
当時の日記を読み返し、寺元進の回想でつづられていく昭和27年・戦後まもない頃の14歳夏の思い出。さわやかな六甲の頂で一彦と香(かおる)と過ごしたまばゆいばかりのセピアの日々のなかに、いくつもの伏線がちりばめられています。
六甲山の物語にはさみ込まれた「相田真千子」の章と「倉沢日登美」の章が、進たち3人につながる過去にいったいどんな関わり方をしているのか・・・読みながら推理を重ねていたはずなのに、最終章で待っていたのはあざやかな裏切り!うす靄につつまれていた人びとの輪郭が、予想外のかたちとなってうかび上がります。
静けさをたたえた上質な物語の顔をして、ひらりと優雅に読者をミスリードしてくれる意外性たっぷりの一冊。すべてが繋がったあと、もう一度最初から読んでみたならまったくちがった表情の物語に出逢えそう。
Author: ことり
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『たまさか人形堂物語』 津原 泰水

評価:
津原 泰水
文藝春秋
¥ 1,500
(2009-01)

小さな人形店をめぐる連作短編集。
かわいがってくれた祖母から斜陽の人形店「玉阪人形堂」を継いだ澪(みお)。そこに持ちよられるさまざまな人形たち・・・顔のつぶれたビスクドール、手足のちぎれたテディベア、果てはダッチワイフまで。
OL上がりの店長・澪が、人形マニアの冨永くん、どんな人形でも修復する職人の師村さんとともに、それぞれの人形にまつわる謎を解いていく物語です。

人形堂の3人を中心に、テンポよい会話が楽しいほのぼのとしたお話なのですが、その奥に時おりちらつく人間の狂気や人形へのただならぬ偏愛・・・そんなほの昏いぶぶんがちょっぴりミステリアス。
人形を修復する、それはその人形を愛する人の心をひもとくことでもあるのですね。かわいらしさと同時に、どこか不気味だったり怖いイメージもある「人形」。この物語がまとうのも、そんな雰囲気です。
 
「――人はなぜ人形を作るんだと思う?」
「それに託して、力を継承するためだよ」
Author: ことり
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