『水晶婚』 玉岡 かおる

評価:
玉岡 かおる
講談社
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(2001-05)

薔薇、と聞けば思い浮かべるのは花で、誰も樹木を想像したりしないだろう。それでも花の時期が終わった後もその木は薔薇として生きていく。老いであれ妊娠であれ、体の状態が変わったことを理由に女が生きる歩幅を狭められるのは、花がないゆえに薔薇と呼ばれなくなる木のようなものではないか。

『シャドー・プリンセス』、『ルーブルの女神』、『パラダイスを探して』、『上昇気流をつかまえろ』、『水晶婚』、『ヘップバーンにはもうなれない』、『物語をもう一度』。7つの物語。
どのお話にも、結婚して15年(=水晶婚)ほどの時がたち、40歳を目前にひかえた女たちのやり場のない不満やいらだちがいっぱいにみちています。
長く続いた結婚生活で生まれてしまった女のいやな――自分勝手で欲ばりな――ぶぶんがむき出しのお話たちは、いつか結婚できればいいな、なんて思っている私にはちょっぴり夢をこわされる内容でもあったのだけど、いつまでも‘女’でいたい・・・そんな彼女たちの気持ちはふるえるようなリアルさをもって心に伝わってきました。

私が一ばん好きなお話は、『物語をもう一度』。
おばあさんのひとり語り・・・こんな台詞がやけになまなましく残ります。
「いくつになっても女は女。
気になる男が一緒なら、恋はするべし、くちびるの色の褪せぬまに」
Author: ことり
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『天涯の船』(上・下) 玉岡 かおる

評価:
玉岡 かおる
新潮社
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(2003-02)

明治十七年、姫路藩家老のひいさまの身代わりになった少女ミサオと、大志を抱いて留学する青年・光次郎は、神戸からアメリカへ向かう船の上で出逢った。留学後ヨーロッパ貴族へ嫁いだミサオと、実業家として成功への道を歩み始めた光次郎は、再会して惹かれ合い、そして・・・運命の荒波に翻弄された。感動の大河恋愛小説。

ほんとうの名前をうしない、「酒井三佐緒」としてアメリカに渡り、そして後にはオーストリィの貴族・ヒンメルヴァンド子爵夫人(ヴィスカンテッセ)として生き抜くことになったミサオの物語です。
はじまりは、船をかたどったひとつの豪奢なアンティーク・ジュエリー。ミサオは一艘の船のように運命の荒波に翻弄されてゆきます。
海外留学をして先進の文明を学んでくる女性などほんのひと握り、そしてその経験をもってしても、けっして女性が自由に生きられることはなかった時代。そんな時代のせめぎあいのなかで描かれていく、心を交えて生きてきた男女のせつなさ、悦び、ほとばしる想い・・・。
気の遠くなるほどの年月をへて、ミサオと光次郎がセーヌで再会するシーンが印象的。頭の骨のうらがびりびり痺れるような感覚が、いまもまだのこっています。
Author: ことり
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『をんな紋―あふれやまぬ川』 玉岡 かおる

兵庫の播磨。この地方の女性は、嫁入り道具のひとつひとつに女だけに代々伝わる紋をつけていました。結婚すればすべての所有権が旦那に移るなか、この紋の入ったものだけは堂々と自分のものだと主張できた――「女紋」、言うならばそれは女たちの声なき悲鳴。
このお話は『をんな紋―まろびだす川』、『をんな紋―はしりぬける川』につづく完結編です。

時は明治。柚喜(ゆき)は壮児と恋におちる。ところが妹・佐喜も壮児に想いをよせていた。思えばここからすべての歯車が狂いはじめる。嫉妬にかられた佐喜がとった行動は、この時代ならではの風潮に翻弄され、やがて思いもよらない方向に人びとを巻きこんでいく。佐喜は壮児と結婚し、柚喜は嫁いだ。(『まろびだす川』)
時代は移ろい・・・、好きでもない男に嫁ぎ、子をもうけ、必死でその家を大きくする柚喜。愛のない結婚生活に自暴自棄になり、柚喜は幸せだと罵る佐喜。子供のいない佐喜に養女として迎えられたが、佐喜に長男が生まれたことで嫁に出された氷菜(ひな)。嫁いだ先で夫を亡くし出戻った氷菜が恋におち、宿した子の父親は、柚喜の長男・紘一だった。(『はしりぬける川』)
前の2巻を受け、『あふれやまぬ川』は、柚喜の長女・千代をむかえ展開します。
おなじ紋を受け継ぐ女たちの愛憎の修羅場を尻目に、やがて突入していく太平洋戦争。そこで女たちの見たものは――。

このお話に描かれていたものは、想いを断ち切り、夢をあきらめ、ただ家を守るためにだけ懸命に生きてきた女たちの姿でした。
明治〜大正〜昭和、耐え忍ぶのはいつも女だったのですね。そんな時代に翻弄された女たちの烈しく、凛々しく、そして哀しい生き様に思わず胸がつまります。
女の人が、自分の意志や気持ちを押しとおすことの許されない時代。
家のために望まない結婚をしなければならなかった時代。
そういう時代にも、いいえそういう時代だからこそ、人を愛し、恋をうしない、思いやり、傷つき・・・さまざまな思いが重く苦しく交錯していたのかもしれません。

ずっとくすぶりつづけてきた女たちの静かな激情。それを秘めてきた「女紋」。
この本のことを母に話すと、私にも代々伝わってきた女紋があるのだと言われて驚きました。母の母、そのまた母から私に向かって一本の川のように流れ着いた女紋は、「雪輪に花菱」。
私の先祖の女性たちも、かつてこのような思いをかかえて生きたのかしら・・・私は女紋といっしょにそんな思いまでも受け継ぐのだと、思わずにはいられないのです。
Author: ことり
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