『温室デイズ』 瀬尾 まいこ

評価:
瀬尾 まいこ
角川書店
¥ 1,365
(2006-07)
学級が崩壊していく。けれど、平和ボケしている教師は気づかない。
気づいた時にはもう遅い。崩れた学校は取り戻せない・・・。
「今なら、まだ、何とかなるはずだよ。」
みちるは逃げないで戦うことを決心し、親友・優子は逃げることを選んだ。
ふたりの少女が起こした、小さな小さな出来事とは・・・?

崩壊した中学校が舞台の、陰湿でタチの悪いいじめ風景。その描写は、読んでいて苦しくなるほどかなり重たいものでした。いじめ経験者が読むと、治りかけた傷口がふたたび開き、痛みだしてしまいそう。
けれどここは、おとなたちが用意した‘温室’でもあるのです。
教室に来られない生徒には別室登校、学校にさえ来られない生徒にはフリースクールやカウンセリング。義務教育はどこまでも逃げ道をつくってくれる・・・ほんとうに抜け出すことは今はけっしてかなわない、‘温室’に見せかけた、檻。
つけられた『温室デイズ』というタイトルが、やけに哀しくひびきます。

いじめに怯え、震えている中学生。追いつめられていく子たち・・・。
誰か近くにいる人、どうか気づいてあげて。話を聞いてあげて。
・・・いじめなんて、虚しいだけなのにね。
いけないことだと、みんな分かってるはずなのに。
Author: ことり
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『強運の持ち主』 瀬尾 まいこ

評価:
瀬尾 まいこ
文藝春秋
¥ 1,300
(2006-05)

瀬尾まいこさん久々の新作は、元OLの占い師・ルイーズ吉田が主人公。
なにごとも長続きしないタチの彼女が占い師という職業を選んだのもテキトーなら、その占いぶりもかなりテキトー。はじめこそ占い本を駆使してまじめに占っていたけれど、だんだんその人を見たときの‘直感’で占うように。
そんないんちき占い師のルイーズが、お店を訪れるまよえる人びとと出逢い、奮闘し、自分もまた大切なものに気づき成長していく姿を描いた連作短編集。

瀬尾さんの本はいつも、とても読みやすいのに、でもしっかり届いてくる感じが好き。
ほんの数時間ですっかり読み終わってしまうのに、ほんわりした空気と、ほんとうに大切ななにかを、ちゃんと残していってくれる感じ。
主人公のルイーズはけっして‘イイコ’じゃありません。占いを悪用して、お客さんの恋人を横どりしてしまったり・・・なんてちょっぴり?自分本意なところもあったりして。でも、瀬尾さんの手にかかるとそれすらもいい意味での人間くささに思えてくるから不思議なのです。とくに3話めの『おしまい予言』で、「物事の終末が見えてしまう」という武田君から、自分が‘おしまい予言’されてしまったルイーズの慌てぶりは、そういう人間っぽさみたいなものがよく表れていました。
ルイーズは、占い師というちょっと特殊なことを職業にしているだけの、ごくふつうの女の子。そんな彼女が占いを通して、そこに通う人たちの悩みを通して、日常や生活こそがかけがえないものなんだって気づいていく。それがすごく爽やかに、さりげなく描かれていて、読んでいるだけで前向きな気持ちが湧いてくるのです。

占いは、なにかに行きづまったとき、ちょんと背中を押してくれるかもしれない。
勇気やキッカケをくれるかもしれない。
だけど、占いばかりにふりまわされて、大切なものを見失ってちゃいけないよね。
「ちょっとした気持ちの持ち方次第で明日は開ける」ものだろうし、
「いざとなれば、あてになる人が周りには結構いる」はず。
うん。それを忘れないでいよう。
Author: ことり
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『優しい音楽』 瀬尾 まいこ

評価:
瀬尾 まいこ
双葉社
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(2005-04)

受けとめきれない現実。止まってしまった時間――。
だけど少しだけ、がんばればいい。きっとまた、スタートできる。
家族、恋人たちの温かなつながりが心にまっすぐ届いて、じんとしみわたる。軽やかな希望に満ちた3編を収録。
Author: ことり
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『幸福な食卓』 瀬尾 まいこ

評価:
瀬尾 まいこ
講談社
¥ 1,470
(2004-11-20)

私はもともと、ちょっとおかしな、愛ある家族の物語が大好きです。
すっとぼけてて、どこかズレててマイペース。でもそこにはいつもほのぼのした愛にあふれていて、読んでいると思わず笑みがこぼれてしまう、そんな家族の物語が。
だからこの佐和子一家はもうそれだけで私をとりこにしたのだけれど、でもこの本の魅力はそれだけではありませんでした。
――たとえば。佐和子の家庭はけっして‘幸福’とはいえません。自殺をこころみて失敗した父さん、家を出て一人で暮らす母さん、人生から‘真剣さ’を捨てたのんきな直ちゃん(兄)と、ごく普通の中学生の佐和子・・・。このいっけんどうしようもなくアンバランスな家族たちは、それぞれの優しさと思いやりと明るさで、絶妙のバランスをたもっているのです。

‘幸福’とはほど遠いはずなのに、‘幸福’を感じずにはいられない。
お話の後半にはものすごく哀しいできごとが起こって、私の頬は涙でぐしょぐしょになってしまったけれど、それでもその痛みや苦しみさえも大きな優しさでつつみ込み、最後にはたしかな温度でほのかな未来を予感させてくれました。
・・・こんなに哀しいのに、なんでこんなにあったかいの・・・?

私は大きなものをなくしてしまったけど、完全に全てを失ったわけじゃない。私の周りにはまだ大切なものがいくつかあって、ちゃんとつながっていくものがある。

読んだあと、思わず抱きしめたくなる一冊。避けては通れない別離や喪失の場面で、人びとが拠り所にしたい一ばん肝心なものが、ここにあります。
Author: ことり
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『卵の緒』 瀬尾 まいこ

評価:
瀬尾 まいこ
マガジンハウス
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(2002-11)

自分は捨て子だと思っているまじめで優しい小学生の育生(僕)。そして抜群の価値観の持ち主・母さん。シンプルなふたり暮らしを、とびきりフレッシュな感性で描いた瀬尾まいこさんのデビュー作です。
血が繋がっていないことは、たいしたことじゃない。
親子の絆はへその緒なんかじゃない。
大切なものは、きっといつだって目には見えないのだから。

家族であることって、どういうこと?
家族になることって、どういうこと?

育生に語られる母さんの‘哲学’が、私の心にもさわやかな風となって届きました。ほんとうにこの母さん、愛すべきキャラクターなのです。
あたらしい年のはじまりに、相応しい一冊。

「育生、自分が好きな人が誰かを見分けるとても簡単な方法を教えてあげよっか。すごーくおいしいものを食べた時に、人間は二つのことが頭に浮かぶようにできているの。一つは、ああ、なんておいしいの。生きててよかった。もう一つは、ああ、なんておいしいの。あの人にも食べさせたい。で、ここで食べさせたいと思うあの人こそ、今自分が一番好きな人なのよ」
Author: ことり
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『天国はまだ遠く』 瀬尾 まいこ

評価:
瀬尾 まいこ
新潮社
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(2004-06-23)

主人公は、自殺を心に決めた山田千鶴(ちづる)・23歳。
暗くてさみしいところをめざして北へむかう特急に乗りこみ、偶然たどりついた小さな民宿でその命を終えようとします。
しかし自殺は失敗に終わり、彼女は民宿の主・田村さんや、生命力にみちた自然に触れていくことで‘自分のいるべき場所’へ帰る決心をするまでのお話です。

あらすじだけ読めば、かなり暗いイメージを抱いてしまいそう。けれどけっしてそうではなくて、千鶴が自殺をしようとする瞬間でさえ、深刻さはただよいません。
言葉えらびは悪いかもしれないけれど、なんとなく‘のんき’なのです。千鶴の性格は天真爛漫だし、お話ぜんたいを覆う雰囲気もほのぼのとしています。
死のうと思う人って、こういうものなのかしら?ちょっとライトすぎるんじゃない?と思わなくもないけれど、実際こういうふうに自殺を考える人も少なくないのかもしれないので、ここでは目をつぶります。

舞台は山と海にはさまれた小さな集落。登場人物もほとんど「私」と「田村さん」の2人きり。そんななかで田村さんと交わす軽口や、たくさんの星、たくさんの木、山、海、風が、千鶴に‘生’の魅力を教えていく、さわやかな初夏のような物語。
生きてくことに疲れた方に。
単調な毎日を投げだして、どこか遠くへ行ってしまいたい方に。
そして、これは小学生や中学生の方にもぜひおすすめしたい本です。内容はもちろん文章もすごく読みやすいし、こういう本がキッカケで読書を楽しむ子どもたちが増えることが、現役中学講師でもある瀬尾さんの願いのような気がするから。
子どもたちにとってこの本が、千鶴にとっての‘マッチ箱’になることが――。
Author: ことり
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『図書館の神様』 瀬尾 まいこ

評価:
瀬尾 まいこ
マガジンハウス
¥ 1,260
(2003-12-18)

大学を出て、海の見える高校で講師をすることになった清(きよ)。
アクシデントがきっかけで、ずっと打ちこんできたバレーボールをやめた彼女は、コーチとしてバレーボールにかかわりたいと思いたち、適当な気持ちで教師になった。
でも清は、皮肉にも文芸部の顧問にさせられてしまう。図書室に重い足をはこぶと、そこにいたのはたった一人の部員・垣内君だった。
ろくに本を読まない清にとって、それはまったく納得のいかない仕事。私生活でも、不倫相手の浅見さんにたいして淋しさや苛立ちがつのる。そんな彼女の人生を、意外にも文芸部が変えてゆく・・・。
「のび太はタイムマシーンに乗って時代を超えて、どこでもドアで世界を回る。マゼランは船で、ライト兄弟は飛行機で新しい世界に飛んでいく。僕は本を開いてそれをする。」

私も、小学5年から中学3年までバレーボール部の選手でした。陸上競技(短距離)にも小学5年から高校3年まで並行して打ちこみました。いっぽう読書も大好きで、小さな頃からよく本を読む子でした。
スポーツと読書は一般的に両極端で、どちらか片方に傾倒している人もきっと少なくないですよね。そういう人たちが自分の感覚の範疇を超えるものを受け入れられず、できれば嫌なことなどしたくないのは仕方のないことなのかもしれません。
だけどスポーツも読書も大好きだった私には、このふたつ――いわば動と静――はおなじ延長線上にあるように思えます。瀬尾さんはもしかしたらそのことを、中学の頃にしていたサッカーよりも本を読むことがおもしろくなってしまった少年と、スポーツ馬鹿だったのにそれを取り上げられてしまった講師とのさわやかな交流を通して伝えたかったのかな・・・私にはそんなふうに感じられました。

清にとってのカミサマは図書室にいたわけだけど、誰にもカミサマはいるのかな。
私にも、あなたにも。
カミサマは思いもよらない場所に、近くに、いるのかもしれない。
――自分を、ほんとうの意味で‘救ってくれる’人。
Author: ことり
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