『あられもない祈り』 島本 理生

評価:
島本 理生
河出書房新社
¥ 1,365
(2010-05-13)

やばい、のまれる、・・・そう思いました。
「あなた」と「私」の密室のような恋に。
すべてを捉えては奪いあう、濃やかで狂おしい二人っきりのせまい世界に。

女グセの悪い父、娘にお金をせびる母、不安定で乱暴な恋人。
なによりも孤独を嫌い、置き去りにされることを怖れる「私」は、彼らから逃れられないままに毎日を送っている。
そんなとき、歳の離れた「あなた」に出逢って――・・・

凄まじいほどの閉塞感と物語のほてり。1頁めで世界にのまれ、お話が進むにつれて私はどんどん息ができなくなりました。心がぎゅうっとしぼられて、まわりの空気がうすくなって、まといつくようなとろりとした熱に溺れていくみたいでした。
この本に登場する人たちは誰一人幸せに生きていなくて、自分や他人を傷つけることでしか苦しさをまぎらわすことができない。そんな痛々しい彼らの物語には、おいしそうなオムライスの描写すら、どこか異質なものに思えてしまいました。シアワセの象徴のような、ふわふわできたての玉子料理が。

だから、あなたには自分が幸福になることだけを選んでほしい。
おなじ言葉を、「私」にもかけてあげたいな・・・。
いつかの日に置き去りにされた「あなた」も「私」も、この先、いつか誰かに迎えにきてもらえますように。
Author: ことり
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『真綿荘の住人たち』 島本 理生

評価:
島本 理生
文藝春秋
¥ 1,400
(2010-02-10)

東京・江古田のちょっとレトロな小さな下宿屋をめぐる連作短編集。
『青少年のための手引き』、『清潔な視線』、『シスター』、『海へむかう魚たち』、『押し入れの傍観者』、『真綿荘の恋人』。真綿荘には新参者の大和(やまと)君をはじめ、鯨ちゃん、椿さん、綿貫さん、晴雨(せう)さんの5人の住人がいて、彼らさまざまの人生模様をそれぞれの角度から描いていきます。

明るいお話のはずなのに、和気あいあいとした雰囲気はどちらかといえば少なくて、みんないびつで不器用で、ひとりひとりが小さくちぢこまって足掻いている・・・そんな暗い翳のようなぶぶんを強く感じながら読みました。
みんなぐらぐらとゆれていて、波紋どうしがぶつかって、それがまた新たなさざ波を立てる・・・やり場のない感情が傷だらけの思い出やゆがんだ愛を生んでいくことのちょっぴり不穏な連鎖。読んでいると、やさしさや純粋さのなかにある刃に気づいて、心がなんどもヒヤっとなりました。
あと、常識を超えた理屈や理解しがたい愛が持つややこしさのなかにも、どこか清潔感が感じられるのは、やはり島本さんの小説だからなのでしょうか。
Author: ことり
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『君が降る日』 島本 理生

評価:
島本 理生
幻冬舎
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(2009-03)

恋人・降一を事故で亡くした志保。彼の母親が営む店を手伝う彼女の前に現れたのは、その事故の原因をつくった五十嵐だった。彼の存在を受け入れられない志保だったが、同じ悲しみを抱える者同士、少しずつ二人の距離が近づいていく・・・。「君が降る日」他、二編収録。

恋人が突然死んでしまう『君が降る日』、恋人に別れを告げられた『冬の動物園』、男女間の微妙な友情を描いた『野ばら』。せつなすぎる3つの物語。
透明感のあるみずみずしい文章で、登場人物たちそれぞれの痛みがするどく心を貫きます。とじ込められたガラスの水槽のなかで、溺れ、あがくような・・・そんな閉塞感と息苦しさが私自身の過去たちまでもいっしょに引きつれてせまってきて、なんどもなんども涙があふれて困ってしまいました。

島本さんの本を読むといつも思い出すのです。
人の心はみな、とても繊細でとても脆いものだということを。・・・同時に、本人ですら計り知れない‘再生力’がそなわっていることも。
Author: ことり
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『波打ち際の蛍』 島本 理生

評価:
島本 理生
角川グループパブリッシング
¥ 1,365
(2008-07-31)

川本麻由はかつての恋人によるDVで心に傷を負い、生きることに臆病になっていた。ある日通院先で植村蛍に出会い、次第に惹かれてゆく。もっと近づきたいのに、身体はそれを拒絶する。フラッシュバックする恐怖と、相反してどうしようもなく動いてしまう心。そんな麻由を受け止めようとする蛍だが――。
どこまでもどこまでも不器用で痛く、そして眼が眩むほどスイートな、島本印の新しい恋愛小説。

やっと治りかけたかさぶたを自分の手で力ずくではぎ取ってしまうような痛々しさと、恋愛の始まりのドキドキとした不安やときめき。その両方が感じられる本。
一度こわれてしまった心・・・心にうけた傷は時が経っても何度も何度もよみがえり、その人を苦しめます。目の前の素敵な恋になかなか踏みだせない麻由。蛍に触れたい、触れられたい、抱きしめてほしい。なのに過去の心の傷はそれをこばみ、赦してはくれない・・・そのどうしようもなさ、もどかしさがとてもリアルに伝わってきて、私の心はせつなさでいっぱいになってしまいました。

でも、重いテーマを扱っていながら、この小説がそれほど暗く沈鬱に終わらないのは、どんなに絶望的な状況においてもかならず主人公をあたたかく見守り、手を差しのべてくれる人がいるから。
ガラス細工のように脆く、ぐらぐらと不安定な麻由ですが、そんな彼女を大切に思いじっくり向き合ってくれる蛍がいます。紗衣子さんやさとる君など、ほかにもたくさんのステキな人たちがいます。
未来に明かりが見出せない時ほど、ちょっとした優しさや思いやりが大きなともしびになって人の心を救ってくれる・・・読み終えたばかりの私の胸は、正直まだ余韻でひりひり痛いけど、明るいその後を思い描けるお話はやはりいいなあと思いました。
Author: ことり
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『クローバー』 島本 理生

評価:
島本 理生
角川書店
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(2007-11)

ワガママ放題で思いこみが激しく、常にモテる努力を惜しまない女子力全開の華子。冷静だけど自分のことだけはよくわかってない理科系男子冬冶。二人は“顔だけはそっくりだが、内面は赤の他人より共感するところの少ない”双子なのだ。
今日も今日とて、新しい恋に邁進せんとする華子に、いろんな意味で超強力な求愛者・熊野(本名・細野)が出現。面白がりつつ見守る冬冶も、研究室いちの不思議ちゃん、雪村さんの捨て身アタックを受けて・・・騒がしくも楽しい時間は過ぎ、やがて新しい旅立ちの予感が一同の心を揺るがしはじめる。

大学生の双子の姉弟がくり広げる、キュートな青春ストーリー。
このところ島本さんが書かれるお話は痛々しいものばかりだなあと感じていたので、こんなお話はちょっぴりほっとします。
語り手は、同居している姉の華子にいつもふりまわされてばかりいる弟の冬冶。
冬冶はいい人なのだけど、結論を相手にばかり委ねたり、やさしいように見えてじつはその気遣いで他人を傷つけてしまう、そんな人。空まわりしながらも、彼が恋愛や進路について悩み戸惑う様子、青春の終わりの、あの独特の雰囲気が島本さんらしい繊細なタッチで描かれていきます。
私は双子の姉・華子ちゃんが大好きだったので、彼女を中心にして進み始めたお話(あとがきによると、当初はその予定だったみたいです)が、だんだん弟中心のお話へと移っていってしまったのがちょっと惜しかったかな。突き抜けた性格の華子ちゃんがいろんな恋を通して成長していくストーリー・・・読んでみたかったです。
Author: ことり
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『あなたの呼吸が止まるまで』 島本 理生

舞踏家の父と暮らす12歳の少女、野宮朔。夢は、作家になること。一歩一歩、大人に近づいていく彼女を襲った、突然の暴力。そして、彼女が選んだたったひとつの復讐のかたちとは――。待望の長篇小説。

これってもしかして島本さんの実体験だったりして・・・。読み終えて、そんなことを思ってしまいました。それとも読者にそう思わせることが狙い・・?
両親が離婚し、父の仕事がらアクが強い大人たちといることが多いせいか、ほかのクラスメートたちとはちがう雰囲気をたたえた少女・朔。はかない糸をしっかりと織っていくように、彼女の日常がていねいに語られていきます。‘ですます調’の文体が、朔のおとなびた、少しさめたような人格を強調するよう。
お話ぜんたいをピリピリした不穏な緊張感が覆い、行間から立ち上ってくるたとえば小学校の教室のなまなましい空気、たとえば母親にたいして抱いてきた複雑な感情が、息を苦しくさせる。とくにある事件が起こったあとの、憧れや信頼がいっきに憎しみに転じていくところの書き込み方がすばらしかった。
知らなくてもいいことは、だけど、知ってしまった後ではもうなかったことにはできません。だから私はきっと、なんらかの方法で戦わなくてはいけない。
まだ12歳の朔が自分なりに気持ちに折りあいをつけ、決断する「復讐」。ラストは胸が痛くなります。
Author: ことり
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『生まれる森』 島本 理生

評価:
島本 理生
講談社
¥ 440
(2007-05-15)

恋をうしない傷ついたひとりの女性。
少女から大人へと脱皮していく心の成長をつづった静かな再生の物語。

堕ちていくだけとわかっていても深みにはまってしまう恋。それを鬱蒼とした森にみたて、そこに迷いこんでしまった「わたし」と、手を差しのべてくれた陽気な一家との交流を描いています。
日常のちょっとした場面やふとした行動、さりげない会話などに見え隠れする淋しさや心の揺れ、何気ないエピソード。首をかしげたくなるおこないや人生のより道をしている人たち・・・大げさな表現などしないで、それらをまるごとそのまんまで書いてあるのがいい。
終わった恋はよくも悪くもさまざまなものをのこし、去っていきます。
苦しいときにこそ出会える人、言葉、世界――ささいなことにも気づける私でいられたらいいな・・・そんなことを思いました。たとえ、そのときは無理でも。

(装画はミヒャエル・ゾーヴァさん。単行本の絵もよかったけれど、こちらも素敵・・)
Author: ことり
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『大きな熊が来る前に、おやすみ。』 島本 理生

徹平と暮らし始めて、もうすぐ半年になる。だけど手放しで幸せ、という気分ではあまりなくて、転覆するかも知れない船に乗って、岸から離れようとしている、そんな気持ちがまとわりついていた――。新しい恋を始めた3人の女性を主人公に、人を好きになること、誰かと暮らすことの危うさと幸福感を、みずみずしく描き上げる感動の小説集。

『大きな熊が来る前に、おやすみ。』、『クロコダイルの午睡』、『猫と君のとなり』。
恋のはじまりに怯えてしまう3人の女性たち。
どのお話の背後にも「暴力」が息をひそめ、主人公たちはみな心に翳りをかかえています。愛情を素直に受けとめることができないのは、他人から求められ必要とされることに不慣れなせい?地味にまじめに生きているのに、がんばればがんばるほど空回りしていく・・・動物をモチーフに描かれるそれぞれの恋のゆくえ。いまにも壊れてしまいそうな彼女たちの心の痛みがしくしく伝わってきました。
無垢な恋心を中心に置きながら、不穏で、ひんやりつめたい短編集。
けれどひんぱんに登場するお料理のシーンから、湯気や匂いがただよってくるようで、人と人が生活しているその雰囲気がじんわりと心地よかったのです。

一ばん心にのこったのは『クロコダイルの午睡』。
まぶしい明るさのワニ園と、深くて昏い水族館の対比。主人公の心に巣くうおぞましいぶぶん――負の力がつよいお話はあまり好きではないのですが、感情を伝えることが人一倍にがてな彼女に、心のどこかが共鳴したのかもしれません。
Author: ことり
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『シルエット』 島本 理生

評価:
島本 理生
講談社
---
(2001-10-30)

忘れられない人と大切な人。
そのはざまで揺れ動く、女子高生の思い。後になってから気づくまちがい。
けれど間違っていたと後悔することほど、そのときには気づかない・・・。

島本さんが17歳のときに書かれた『シルエット』、16歳のときの『植物たちの呼吸』、15歳のときの『ヨル』が収められた一冊です。
島本さんが描く世界はいつもとても静かで、音のない感じ。
しっとりとして、まるで雨だったり夜だったりに閉じ込められているような。
でも、それだから、壊れそうに繊細な心の動き――すれ違いや幼さにたいするどうすることもできないやりきれなさまでもが、こんなにも鮮明に伝わってくるのかな。

それにしても、私が15〜17歳の頃って、こんなふうに物事をとらえることなんてまったくできなかった。島本さんの、文章力はもちろんですが、何よりもその感性の鋭さに感心してしまいます。
秘密とは共有するほど軽くなるものだと、当時のわたしは半ば本気で信じていた。秘密の陰にはかならずと言ってよいほど痛みや傷があり、むしろやっかいなのはそちらだということを、知らなかった。
そして本気で時が止まってしまうことを願った。あと数時間後にはいつものように日常に返ってしまうことは分かっているのに。後から考えればそれ自体が終わりの近い予感だったのに、それでも聞き分けのない子供みたいに無我夢中で神様に願った。
Author: ことり
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『一千一秒の日々』 島本 理生

評価:
島本 理生
マガジンハウス
¥ 1,404
(2005-06-16)

「自分がこうやってお茶を飲んでいるとき、よその場所にいる親しい人達は今なにしてるんだろうって思わない?」

1話めでほんの一瞬だけ登場した人物が2話めでは主人公になり、2話めのわき役が3話めの主人公になる・・・そんな構成のリレー小説。
物語がどんどんみるみるつながって、そのうち、もしかしたら、私のところにバトンがまわってきたりして??なんてほんのりと親近感を抱いてしまいました。
くすぐったくて、すこしだけ眩しい。

『風光る』
語り手: 真琴 わき役: 瑛子
四年間つきあった恋人・哲とのすれ違い。
 
『七月の通り雨』
語り手: 瑛子 わき役: 針谷(はりたに)、加納
遠山さんとの出逢いと真琴への微妙な感情。

『青い夜、緑のフェンス』
語り手: 針谷 わき役: 長月、真琴、瑛子、遠山
体重0.1トンの僕を好きだという一紗(かずさ)への戸惑い。

『夏の終わる部屋』
語り手: 長月 わき役: 針谷、一紗
合コンで知り合った操(みさお)との危うげな恋。

『屋根裏から海へ』
語り手: 加納 わき役: 瑛子
家庭教師先の姉・沙紀さんの恋愛相談と元彼女・真琴からの電話。

『新しい旅の終わりに』
語り手: 真琴 わき役: 瑛子
加納君との温泉旅行とはじまりの予感。

ナラタージュ』のような烈しさはないけれど、でもとても清々しい物語。それは、どの主人公も相手ときちんと向き合っているから、なのでしょうね。
たとえすんなりと生きていけなくても、器用に立ち回ることができなくても、いつでも一生懸命な登場人物たちが愛おしく思えてくる・・・そんな島本さんの小説が好き。
Author: ことり
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