『あられもない祈り』 島本 理生

評価:
島本 理生
河出書房新社
¥ 1,365
(2010-05-13)

やばい、のまれる、・・・そう思いました。
「あなた」と「私」の密室のような恋に。
すべてを捉えては奪いあう、濃やかで狂おしい二人っきりのせまい世界に。

女グセの悪い父、娘にお金をせびる母、不安定で乱暴な恋人。
なによりも孤独を嫌い、置き去りにされることを怖れる「私」は、彼らから逃れられないままに毎日を送っている。
そんなとき、歳の離れた「あなた」に出逢って――・・・

凄まじいほどの閉塞感と物語のほてり。1頁めで世界にのまれ、お話が進むにつれて私はどんどん息ができなくなりました。心がぎゅうっとしぼられて、まわりの空気がうすくなって、まといつくようなとろりとした熱に溺れていくみたいでした。
この本に登場する人たちは誰一人幸せに生きていなくて、自分や他人を傷つけることでしか苦しさをまぎらわすことができない。そんな痛々しい彼らの物語には、おいしそうなオムライスの描写すら、どこか異質なものに思えてしまいました。シアワセの象徴のような、ふわふわできたての玉子料理が。

だから、あなたには自分が幸福になることだけを選んでほしい。
おなじ言葉を、「私」にもかけてあげたいな・・・。
いつかの日に置き去りにされた「あなた」も「私」も、この先、いつか誰かに迎えにきてもらえますように。
Author: ことり
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『君が降る日』 島本 理生

評価:
島本 理生
幻冬舎
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(2009-03)

恋人・降一を事故で亡くした志保。彼の母親が営む店を手伝う彼女の前に現れたのは、その事故の原因をつくった五十嵐だった。彼の存在を受け入れられない志保だったが、同じ悲しみを抱える者同士、少しずつ二人の距離が近づいていく・・・。「君が降る日」他、二編収録。

恋人が突然死んでしまう『君が降る日』、恋人に別れを告げられた『冬の動物園』、男女間の微妙な友情を描いた『野ばら』。せつなすぎる3つの物語。
透明感のあるみずみずしい文章で、登場人物たちそれぞれの痛みがするどく心を貫きます。とじ込められたガラスの水槽のなかで、溺れ、あがくような・・・そんな閉塞感と息苦しさが私自身の過去たちまでもいっしょに引きつれてせまってきて、なんどもなんども涙があふれて困ってしまいました。

島本さんの本を読むといつも思い出すのです。
人の心はみな、とても繊細でとても脆いものだということを。・・・同時に、本人ですら計り知れない‘再生力’がそなわっていることも。
Author: ことり
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『生まれる森』 島本 理生

評価:
島本 理生
講談社
¥ 440
(2007-05-15)

恋をうしない傷ついたひとりの女性。
少女から大人へと脱皮していく心の成長をつづった静かな再生の物語。

堕ちていくだけとわかっていても深みにはまってしまう恋。それを鬱蒼とした森にみたて、そこに迷いこんでしまった「わたし」と、手を差しのべてくれた陽気な一家との交流を描いています。
日常のちょっとした場面やふとした行動、さりげない会話などに見え隠れする淋しさや心の揺れ、何気ないエピソード。首をかしげたくなるおこないや人生のより道をしている人たち・・・大げさな表現などしないで、それらをまるごとそのまんまで書いてあるのがいい。
終わった恋はよくも悪くもさまざまなものをのこし、去っていきます。
苦しいときにこそ出会える人、言葉、世界――ささいなことにも気づける私でいられたらいいな・・・そんなことを思いました。たとえ、そのときは無理でも。

(装画はミヒャエル・ゾーヴァさん。単行本の絵もよかったけれど、こちらも素敵・・)
Author: ことり
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『大きな熊が来る前に、おやすみ。』 島本 理生

徹平と暮らし始めて、もうすぐ半年になる。だけど手放しで幸せ、という気分ではあまりなくて、転覆するかも知れない船に乗って、岸から離れようとしている、そんな気持ちがまとわりついていた――。新しい恋を始めた3人の女性を主人公に、人を好きになること、誰かと暮らすことの危うさと幸福感を、みずみずしく描き上げる感動の小説集。

『大きな熊が来る前に、おやすみ。』、『クロコダイルの午睡』、『猫と君のとなり』。
恋のはじまりに怯えてしまう3人の女性たち。
どのお話の背後にも「暴力」が息をひそめ、主人公たちはみな心に翳りをかかえています。愛情を素直に受けとめることができないのは、他人から求められ必要とされることに不慣れなせい?地味にまじめに生きているのに、がんばればがんばるほど空回りしていく・・・動物をモチーフに描かれるそれぞれの恋のゆくえ。いまにも壊れてしまいそうな彼女たちの心の痛みがしくしく伝わってきました。
無垢な恋心を中心に置きながら、不穏で、ひんやりつめたい短編集。
けれどひんぱんに登場するお料理のシーンから、湯気や匂いがただよってくるようで、人と人が生活しているその雰囲気がじんわりと心地よかったのです。

一ばん心にのこったのは『クロコダイルの午睡』。
まぶしい明るさのワニ園と、深くて昏い水族館の対比。主人公の心に巣くうおぞましいぶぶん――負の力がつよいお話はあまり好きではないのですが、感情を伝えることが人一倍にがてな彼女に、心のどこかが共鳴したのかもしれません。
Author: ことり
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『シルエット』 島本 理生

評価:
島本 理生
講談社
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(2001-10-30)

忘れられない人と大切な人。
そのはざまで揺れ動く、女子高生の思い。後になってから気づくまちがい。
けれど間違っていたと後悔することほど、そのときには気づかない・・・。

島本さんが17歳のときに書かれた『シルエット』、16歳のときの『植物たちの呼吸』、15歳のときの『ヨル』が収められた一冊です。
島本さんが描く世界はいつもとても静かで、音のない感じ。
しっとりとして、まるで雨だったり夜だったりに閉じ込められているような。
でも、それだから、壊れそうに繊細な心の動き――すれ違いや幼さにたいするどうすることもできないやりきれなさまでもが、こんなにも鮮明に伝わってくるのかな。

それにしても、私が15〜17歳の頃って、こんなふうに物事をとらえることなんてまったくできなかった。島本さんの、文章力はもちろんですが、何よりもその感性の鋭さに感心してしまいます。
秘密とは共有するほど軽くなるものだと、当時のわたしは半ば本気で信じていた。秘密の陰にはかならずと言ってよいほど痛みや傷があり、むしろやっかいなのはそちらだということを、知らなかった。
そして本気で時が止まってしまうことを願った。あと数時間後にはいつものように日常に返ってしまうことは分かっているのに。後から考えればそれ自体が終わりの近い予感だったのに、それでも聞き分けのない子供みたいに無我夢中で神様に願った。
Author: ことり
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『リトル・バイ・リトル』 島本 理生

評価:
島本 理生
講談社
¥ 1,365
(2003-01-28)

日常生活の視点をひとつずつ積み重ねるようにして、端正に描かれた小説。
複雑な家庭環境(暴力を振るう父、父と別れた生活能力の低い母、母と新しい父とのあいだにできた妹。そして母は2番目の夫とも別れてしまい、現在は母と妹との3人家族)のなかで育った浪人生・ふみの物語。

なにか大きな出来事が起こるわけではなく、ありふれた日常が淡々と描かれていきます。
家庭が複雑だろうと、さびしさや悲しさの中にも明るさを見出し、背伸びをせずに一歩一歩、自分のまわりを大切にして生きていく。そんなふみの姿が新たな息吹を感じさせてくれました。

文章に明るさがやどっていたわけではないように思うのです。
だけどこの本のイメージは、まっ白な陽の光。
Author: ことり
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『ナラタージュ』 島本 理生

評価:
島本 理生
角川書店
¥ 1,512
(2005-02-28)

壊れるまでに張りつめた気持ち。
そらすこともできない――二十歳の恋。
大学二年の春、片思いし続けていた葉山先生から電話がかかってくる。泉はときめくと同時に、卒業前に打ち明けられた先生の過去の秘密を思い出す。
今、最も注目を集めている野間文芸新人賞作家・初の書き下ろし長編。

はじまりは、ほんの小さなときめき。芽生えたばかりのかすかなものが熱を帯び、加速してゆき、たとえその恋がどんな形であったとしても突き進んでしまった気持ちはそこからもう立ち去り難くなっている――。
誰かに強く惹かれる時、相手の心の奥に隠されたどうしようもない孤独感とか挫折感、どちらかといえば陰の要素にこそ惹かれてしまう、そういうことも多いような気がしています。
この小説に出てくる泉もまさにそう。こんなにずるい先生なのに愛してしまう、抑えなくてはとわかっていながら止められない気持ち・・・大きな淋しさが二人の距離を縮め、そうしておなじ時間を過ごしているうちに、その抱えているものがいつのまにか二人に大きくのしかかってくる、という哀しい現実がせつない。
 
「あなたはひどい人です。これなら二度と立てないぐらい、壊されたほうがマシです。お願いだから私を壊して、帰れないところまで連れていって見捨てて、あなたにはそうする義務がある」
砂地から水辺へ駆けるように墜ちていく、持てあますほどの欲情・・・
途方もなく甘く苦しい二人の関係・・・
泉のほとばしる愛に、私自身とっくに封印したはずのあの痛みはよび覚まされ、胸がつぶれてしまいそうでした。そしてそれは過去の出来事として完結したものではなくて、これからもずっとおなじ痛みをくり返し、いつまでものこる恋だということに。
ゆれ動く恋心の襞が繊細に描かれていて、久しぶりに心がふるえた私です。
Author: ことり
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