『ぼくの手はきみのために』 市川 拓司

いたわりあい、喜びも苦しみも分かち合って生きている無器用な二つの心――。表題作ほか全3篇を通して、切なく、温かい魂の結び付きが描かれる。優しさと強さに心が満たされていく、“深愛”の物語。

『ぼくの手はきみのために』、『透明な軌道』、『黄昏の谷』。
この雑然とした世界をちょっとだけ生きにくそうにしている・・・けれどふわっとつつみ込むようにやさしくて、片隅で寄りそいあい自分たちの人生をゆっくり大切に生きている、そんな人たちの3つのお話。
幼なじみの少女の特殊な病気と、その発作を唯一鎮めることができるぼくの手のひら・・・「この星で、ただひとつだけの組み合わせ」を描いた表題作では、ロマンティックななかにも人を想うせつなさと戸惑い・・・恋そのもののもつ純粋な痛みが描き出されています。
市川さんの弱者にたいするあたたかいまなざしがこの本にもたくさん感じられて、ほんとうの奇跡は愛こそがもたらしてくれる、そんな思いがしみてきます。
Author: ことり
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『世界中が雨だったら』 市川 拓司

評価:
市川 拓司
新潮社
¥ 1,365
(2005-06-29)

さわやかな装丁。そしてこのタイトル。
それが市川さんの書かれたものなら、さぞかし雨の季節に似合うファンタジーなんだろうな・・・そう思って読み始めた私には、かなりショッキングな内容でした。
収録されている3つのお話は、すべて愛と死がテーマになっているのだけれど、そこには‘死体’や‘殺人’(!)までもが関わってくるのです・・・。

男子全員の憧れ的な女の子とつきあい始めた主人公が、彼女の部屋の水槽で義父の遺体を合成樹脂漬けにするお話だったり(『琥珀の中に』)、いじめに悩む少年がいじめの主謀者であるクラスメートたちに‘殺される’ことを予期するお話だったり(『世界中が雨だったら』)、真実の愛を見つけようと恋人紹介システムに登録した主人公が、そこで出逢った人を殺してしまい死体処理に奔走するお話だったり(『循環不安』)・・・。

ひとつひとつはなかなか深みがあり、こちらにせまってくるお話たち。でも、これまで市川さんが描かれてきたもの柔らかな雰囲気からは180度かけ離れた、暗くじめじめとした一冊でした。
いつものファンタスティックなぶぶんもまったく見当たらず、そんな市川さんの新しい引き出しの存在が嬉しくもあるけれど・・・だけどやっぱり市川さんには、ほんわりとやさしさのにじみ出るような物語を求めてしまう、それはきっと私だけじゃないはず。
Author: ことり
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『おぼえていてね』 市川 拓司、(絵)こじま さとみ

映画『いま、会いにゆきます』で、佑司が読んでいる絵本だそうです。
母親の澪が生前佑司のために描いてくれた絵本。
彼はこの絵本を手に、雨の季節を待ちこがれています。

アーカイブ星、それは亡くなった人がすむ惑星。
アーカイブ星にはある女の人がいました。その人はいつも心にぽっかり穴があいたような空虚な気持ちを抱いていて、だけどそれが何であるかはわかりません。
そんな彼女はある日、さがしものの扉を開けます。そこではみんな、たりないたりない、まだほしいまだほしい、と留まらぬ欲求を次々に満たしていました・・・。

母親のせつない想いをパステルの絵にやさしくつつんだ‘贈りもの’。
そばにいられなくなってしまった愛しあう人たちが、またいつか、出逢えますように。
Author: ことり
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『弘海―息子が海に還る朝』 市川 拓司

特異な体質を持って生まれた息子・弘海(ひろみ)への愛の讃歌。
語り手は父親で、弘海への愛情にみちた手紙がところどころに織りこまれた‘親子愛’に溢れたお話。市川さんのあたたかな語り口が、胸に心地よくひびきます。
ひどく幸福そうなその声が、ぼくの心を少しだけ軽くした。
涙よりは笑顔を、溜息よりは歌声を。
親はいつだって、そう子供に望んでいるのだから。

だけどどうしても腑に落ちないぶぶんがあるのです。
それは冒頭の、こんな一文。
ぼくらは一緒になってつらい日々を乗り越えてきた。いや、いまだにその日々は続いている。弘海の不在を埋めるものをぼくらはまだ見つけ出していない。おそらく一生見つけられないのかもしれない。(中略)愛する人間がいなくなるというのは、そういうことだ。何かで埋められるものではない。
10ページもしないうちからこんな文章を読まされてしまうと、どうしても喪失感のようなものがついてまわります。
じっさい私は、弘海はこの世からいなくなってしまうんだなぁと、どこか哀しい予感めいたものを抱きながら読み進めていたのですが、途中からみるみる風向きが変わってしまい・・・それがすごく不自然な気がして、最後まで読み終えてなんだかだまされたような気分になってしまったのです。
なごやかなラストシーンと「不在を埋めるものは一生見つけられない」という言葉が私のなかではどうしてもうまく符合せず、違和感だけがのこりました。
Author: ことり
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『そのときは彼によろしく』 市川 拓司

29歳のぼく・遠山智史(さとし)は小さなアクア・ショップを営んでいる。
恋人の美咲さんに語り始めた14歳の頃の思い出。そこには幼い日のぼくと佑司、そして花梨(かりん)がいた。
ある日、ぼくのショップに森川鈴音(すずね)という美しい女性あらわれて・・・。
小さな人生が奏でる、大きな幸福の物語。

愛する人を忘れまいとする気持ち、うしなった人との思い出、そんな記憶がかたちづくる場所があります。
ぼくらはばらばらではなくみんな繋がっている。誰もが誰かと誰かの触媒であり、世の中は様々な化学反応に満ちている。
遠く遠く離れていても、会うことがかなわなくても、愛する人を想い続けること。そこに意味はちゃんとあるんだよって、このお話は語りかけてくれるよう。
私は救われました。この本にいまこの瞬間に出逢えたこと、そのことがすごくうれしくて、涙が出そうになるのです。

「ひとつだけ、いいことを教えてあげよう。この世界には、物理学の教科書にも載ってない強い力がひとつある。それさえあれば、あの空の向こうにいる誰かとだって私たちは結びつくことができる」
Author: ことり
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『恋愛寫眞―もうひとつの物語』 市川 拓司

「生涯ただ一度のキス、ただ一度の恋」
そのためだけに生まれてきた静流(しずる)。
背が低くて、おそろしくきゃしゃな身体の、お世辞にも美人とは言えない女の子。彼女が恋の相手に選んだのは、瀬川誠人、このぼくだった。
だけどぼくの片想いの相手は、みんなの憧れ・みゆき。‘写真’を通じて距離をちぢめていく誠人と静流だけれど、誠人はみゆきに気を遣い、みゆきは静流に気を遣い、静流は誠人とみゆきに気遣って、誰もが動くことができなかった。
あまりにも当たり前で、そこに終わりがあるなんて思いもしないような日々だった。すべてに永遠の猶予が与えられ、決断は果てしなく先送りにされていくような、そんな気がしていた。そして、もちろん、それは間違いだった。

心が溺れてしまいそう・・・。まっすぐで純粋な静流の恋に危うさすら感じます。
ふたりがキスを交わすシーンでは、私の身体までがぴりぴり痺れてしまいました。
しとしとと降る雨に濡れそぼる誠人と静流。場所は「天国」の森。
ナナカマドの木の下、池のほとり。とてもせつなく美しいキスシーン。
これほどのキスシーンが描かれたお話が、かつてあったでしょうか。
その美しさ、その刹那のはかなさゆえにエピローグが生きてきます。その‘一瞬’が、最後に涙をさそうのです。

別れはいつだって思いよりも先に来る。
それでもみんな微笑みながら言うの。
さよなら、またいつか会いましょう。
さよなら、またどこかで、って。
Author: ことり
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『いま、会いにゆきます』 市川 拓司

評価:
市川 拓司
小学館
¥ 1,575
(2003-03)
澪(みお)が死んだとき、ぼくはこんなふうに考えていた。
ぼくらの星をつくった誰かは、そのとき宇宙のどこかにもうひとつの星をつくっていたんじゃないだろうか、って。
そこは死んだ人間が行く星なんだ。
星の名前はアーカイブ星。

1年前に死んだ妻・澪が、ある雨の日、巧とその息子・佑司の前に現れるお話です。
「またこの雨の季節になったら、二人がどんなふうに暮らしているのか、きっと確かめに戻ってくるから」そういえば、澪は生前こんなことを言っていたっけ。だから彼女は約束をまもってこうやって会いに来てくれたんだ。遠い遠い、アーカイブ星から。
けれど彼らの前にあらわれた澪は、なにひとつ憶えてはいませんでした。
巧は彼女との出逢いから、初めてのデートの日、手紙のやりとり、湖畔でのはじめての夜、佑司の誕生・・・すべてを澪に語りはじめ――。

誰か好きな人を想うとき、
かならずその想いには別離の予感が寄り添っている。
なんてせつない。
どうかどうか、雨の季節が終わりませんように。梅雨明けをまぢかにひかえた今日、祈らずにはいられなかった私です。この星のどこかに、巧と佑司、それから澪がいるような気がして・・・。
たくさんたくさん泣いたのに、このお話がせつなさだけで終わらないのは、どの頁からもあふれ出てくる‘愛’のせい。最後の最後に明かされる、あたたかな‘愛’にみちた謎のせいだと思います。大好きな人に、いますぐ会いたくなりました。

「きっとぼくらはこうやって、何度でも恋に落ちるんだ。」
Author: ことり
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『Separation』 市川 たくじ

評価:
市川 たくじ
アルファポリス
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(2002-01)

幸せに暮らしていた二人――ところが、ある日妻が突然若返りはじめ、静かにゆっくりと哀しい結末へといたる・・・「Separation―きみが還る場所」。恋人の心の声が聞こえるようになってしまった青年の苦悩と喪失の物語・・・「VOICE」。切なく哀しい2編の恋愛物語。

幸せに暮らしていた若い夫婦・悟と裕子を、突然‘悲劇’が襲うお話です。
裕子がある日突然若返りはじめ、原因不明のままみるみる小さくなっていくのです。
23歳だった彼女は18になり、15になり、幼女になって、それから・・・。そんな裕子をそばで見守り、将来におびえながらも愛しぬく悟の姿が描かれていきます。

「出来ることなら、もう一度だけ大人の身体に戻ってあなたに抱きしめてもらいたい・・・」
裕子の言葉は、私ののどの奥に熱いかたまりのようなものをつくりました。
愛する人といっしょに年月を重ねられる喜びをかみ締めなさい、とでもいうような。
それはもしかしたら、老いることに必死に抵抗しようとする私たちへのメッセージなのかもしれません。
Author: ことり
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