『コトリトマラズ』 栗田 有起

評価:
栗田 有起
集英社
¥ 1,575
(2010-03-05)

勤務先の社長と密かに付きあう華。彼の妻の入院で、ふたりの関係は変化する。そんな華が思い起こすのは「母が死体にキスをした」遠い日の記憶。老いゆく母にも秘められた物語があったのかもしれない。
揺れる心を細やかに描く恋愛小説。

まったく、なんて狂おしく、なんて息苦しいお話なんだろう。
主人公は29歳独身の華。家庭のある上司と恋をして4年、ついにものごとは転がりはじめ、その折々の感情がせつせつと吐き出されていく物語です。

小説を読むことは、言いかえれば‘他人の目を通して世界を見る’こと。
それがこんなふうになまなましく素のままに描かれてしまったら、心がどんどん華の気持ちに侵食されて、私はみるみるつらく暗い気持ちになってしまいました。
「不倫」という言葉がつり合わないくらい、華の愛し方はとても謙虚です。だけど不倫ってやはり、誰ひとりシアワセにはなれないし、身も心もこんなにボロボロになってしまうのですね・・・。会えない淋しさや奥さんへの罪悪感に押しつぶされそうになって、わざとからだを酷使したり、お酒をたくさん飲んだり――・・・、
先のみえない恋の絶望がヒリヒリとせつない。

栗田さんの小説にいつもある‘いっぷう変わった奇妙な空気’がこのお話ではなりをひそめ、そのぶん恋の苦しさがストレートに伝わってきます。
ひとつの関係をめぐり、冷静と情熱のはざまで痛々しいほどに惑い悩む華ですが、それでも読んでいて救われるのは、そばで話を聞き、見守り、穏やかな表情で自分の考えを話してくれる素敵な友達がいたこと。
私もカヨのように、たいせつな友達がつらい時にはそっと支えてあげられる人になりたい、そう思いました。
Author: ことり
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『オテル モル』 栗田 有起

評価:
栗田 有起
集英社
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(2005-03-04)

「オテル・ド・モル・ドルモン・ビアンがお客様に提供したいもの、それは最高の眠り、そこからみちびかれる最良の夢です」
地下にあるという会員制ホテル「オテル・ド・モル・ドルモン・ビアン」。
最下階は十三階、客室は九十九。営業時間は日没から日の出まで。
快眠を提供する不思議なホテルで、フロント係として働くことになった希里の物語。

ああ、ステキ。とてもステキな存在。
「最高の眠り」のために徹底した設備・趣向をこらしたホテルも、そして希里にこのホテルの仕事の何たるかを教えてくれる、客室係の外山(そとやま)さんも。
ひっそりとして、それでいて奇妙な整合性のあるこの魅惑の空間に、ただもううっとりと憧れてしまいました。オテル・ド・モル・ドルモン・ビアン――その静けさ、ディテイル描写のひとつひとつは、どことなく小川洋子さんの小説世界を思わせます。
ただちょっと息苦しかったのは、読み進めば進むほど心にのしかかってくる主人公・希里の痛々しくやっかいな家庭環境。できればもう少し安らかな気持ちでこの魅力的なホテルの物語にひたりたかったかも・・・。
Author: ことり
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『蟋蟀』 栗田 有起

評価:
栗田 有起
筑摩書房
¥ 1,575
(2008-09)

生き物をモチーフにした10の物語集。おとぎ話ではありません。
位相を変えて眺めれば、ひとの真実が透けて見える。可笑しくて、そして哀しくもある不思議な世界。

潔いものが好きです。
だから私は栗田さんの小説に惹かれるのかな・・・。
栗田さんの書かれたお話でどれが一ばん好きですかと訊かれたら、私はまよわず『豆姉妹』(『ハミザベス』所収)を挙げるのですが、この短編集は『豆姉妹』のお話にとても通じるものを感じます。空気、のようなもの。骨格、のようなもの。ちょっと不器用でへんてこりんなあの感じがこの本のなかにもいっぱいに満ちているのです。
リアルな日常がぼやけていく、そんなくすくす不思議なお話たちに小さなわだかまりなんてスーっとどこかに消えてしまうみたい。
彼女の文章のある種の潔さ、お話にでてくる人びとが、私はほんとうに好き。

紹介文にあった「生き物をモチーフにした」という文章、これはかならずしもそうではなくて、動物がらみなのはタイトルだけ、そんなお話もありました。
『サラブレッド』、『あほろーとる』、『鮫島夫人』、『猫語教室』、『蛇口』、『アリクイ』、『さるのこしかけ』、『いのしし年』、『蟋蟀』、『ユニコーン』。
どれもお気に入りですが、ベスト3は『鮫島夫人』、『猫語教室』、『さるのこしかけ』。
Author: ことり
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『ハミザベス』 栗田 有起

評価:
栗田 有起
集英社
¥ 1,470
(2003-01-06)

はたちになる直前、ハムスターとマンションを相続した、まちる。実家を出て、一人暮らしを始めるが・・・。
奇妙な設定を静かなユーモアで包んだ、注目作家のデビュー作ほか『豆姉妹』収録。第26回すばる文学賞受賞作。

複雑な家庭環境もなんのその。栗田さんのさらっとした小気味よい文体が、いつのまにか物語のなかにするりと入り込ませてくれます。
いっぷう変わったタイトルの由来をさぐりながら読んだ『ハミザベス』(それがなんともしっくり来る由来なのです)もよかったけれど、同時収録の『豆姉妹』。こちらが最高にステキでした。栗田さんの筆もすごくノッている感じ。楽しくて、それでいて繊細で、家族小説にも青春小説にも受けとれるお話は、思わずくすりと笑ってしまうユニークさもたまらなくて、もうほんととにかく大好き・・。

『豆姉妹』
‘時間差の双子’とよばれるほどよく似ている、つるんとした丸顔の姉と妹。
姉がいなかったら、私はいったいどうするだろう。この顔が目の前にないということは、私はひとりぼっちということだ。そうしたら部屋中に鏡を貼ろう。きっと私は自分の姿を姉と見まちがい、なぐさめられるだろう。嘘でも、さびしいよりはましかもしれない。
ある夏、高校生の妹は衝動的に髪をアフロにし、肛門科の看護婦をしていた姉は「内容聞いたら今やっていることとプレイ、大差なかった。それで給料は三倍なんだって。ばかばかしい」とSM嬢に転職してしまう。
そんなおかしな――けれどぜんぜん憎めない――仲良し姉妹が住む家に、おねえ言葉で話す義弟が居候としてとび込んできて・・・?

どちらのお話も、ちょっぴりいびつでどこかクールなその感じが、佐々木敦子さんの装画に不思議とマッチしています。
この方の絵は江國香織さんの『ホテルカクタス』でも使われていて、そのときも「なんてお話とぴったり合っているんだろう」と思ったのです。まったく雰囲気のちがうお話なのに、佐々木さんの絵ってすごいなぁと感心してしまった私です。
Author: ことり
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『マルコの夢』 栗田 有起

評価:
栗田 有起
集英社
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(2005-11)

姉の仕事を手伝うためにフランスへ渡った一馬。三つ星レストラン「ル・コント・ブルー」で働くことに。ある日オーナーからマルコを買いつけてきてほしいと頼まれ、わずかな手がかりをもとに日本に戻り動きだす。
幻のマルコ、はたして一馬はたどりつけるのか・・・。
マルコとは?奇妙な冒険譚。

パリのレストランでキノコ係になった一馬が、幻のキノコをさがすお話です。
とにかくキノコ。どこまでもキノコ、キノコ、キノコ。
こちらが怯むくらいキノコの存在感が満ちていて、ふわふわと覚束ないふしぎな感じにつつまれてしまいます。
菌糸にからめとられていくみたいにみんなを引き込んでいくキノコの魔力。読みすすむうちに、私もいっしょに変なふうにねじれた世界に誘われて・・・、この幻覚のような陶酔がたまらないのです。

「すべてはキノコの計らいなのです。」
「食べる」というどこか艶っぽくて残酷な行為に、「キノコ」という食材はなんてぴったりなんでしょう。湿った質感、キッチュな形状、かぐわしい香り・・・ほんのり不気味で時に毒々しい神秘的な佇まいがそのままこのお話の雰囲気。
サイドを固める登場人物たちもなんとも奇抜で可笑しくて、物語を怖くかわいくイイ感じに歪めてくれています。
Author: ことり
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『お縫い子テルミー』 栗田 有起

評価:
栗田 有起
集英社
¥ 1,470
(2004-02-26)

16歳にして「流しの仕立屋」を生業としているテルミーこと鈴木照美。
とある南の島そだち、‘自分の枕を持ったことが一度もない’という、いっぷう変わった生い立ちの持ち主です。「一針入魂 お縫い子テルミー」の名刺を携え、一ばん依頼主らしい洋服を作りだすことに全神経を集中させる――そんなテルミーのかなわぬ恋のお相手が、歌に人生を捧げる水商売のシナイちゃん。
愛するシナイちゃんの生き様から自分の生き方をみつめなおしていく、彼女の成長ストーリーです。

プロとしての心意気と、16歳の少女らしい心の揺らぎ。
そのアンバランスさと抑制のきいた力強い文章でつくりあげられた世界は栗田有起さん独特の魅力を放っています。テルミーが自分の殻を破る場面が、それはそれはすばらしかった。
「どうしてシナイちゃんは歌を歌うの?」
「どうしてテルミーは服を縫うの?」
「運命だから」
「そのとおり」
テルミーは生まれて初めて自分のために洋服を縫い上げます。余りものの端切れでつくったパッチワークではなくて、自分のために生地をえらんで。
そして彼女は今日も‘彼女の空’を目指す・・・バッグをふたつと、それから何よりかぎりない自由を手に・・・。
自分の腕一本で生きるテルミーが、ほんとうに恰好いいです、最高!
Author: ことり
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