『桜の首飾り』 千早 茜

評価:
千早 茜
実業之日本社
¥ 1,365
(2013-02-07)

桜の花びらで作った首飾りは、すぐにしおれてしまう。
でも、桜と人の間には、さまざまな物語がひそんでいる。
泉鏡花文学賞受賞作家による、女と男たちの幻想、羨望、嫉妬、自己回復、そして成長のストーリー七編。
Author: ことり
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『あやかし草子―みやこのおはなし』 千早 茜

いにしえの都に伝わるあやかしたちを泉鏡花文学賞作家が繊細な筆致で紡ぐ摩訶不思議な物語。
「鬼の笛」「ムジナ和尚」「真向きの龍」「天つ姫」「機尋」「青竹に庵る」の6篇を収録。

行間から立ちのぼる濃霧のようなひやりとした妖気。
日本古来の艶やかに美しいおぞましさ。
・・・ああ、これぞ千早さんの世界だなあと思います。
人びとをかどわかす妖(あやか)したちの哀しい物語6篇。ひとたび頁をめくれば、物の怪がひたひたと行き交ういにしえの都が広がっています。この世ならざるものたちのかすかな息づかいがそっと耳元をかすめ、沈黙さえも雄弁になにかを語り、甘やかな闇に放たれてゆくよう。
私の心にのこったのは、人を狂わせる笛の音がついには笛吹きの男を狂わせてしまう『鬼の笛』と、人に化けた獣が涙と哀しみの心を知ることになる『ムジナ和尚』。
残酷さと美しさが織りなす、つめたくくぐもった風雅な怪異譚の数々でした。
Author: ことり
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『おとぎのかけら―新釈西洋童話集』 千早 茜

幼いころ、きっと誰もが親しんだ西洋の童話たち。
それらが現代ふうにアレンジされ、たっぷりの棘とエロスをまとい、生まれ変わった姿で届けられました。
可愛らしいおとぎ話すら、千早さんはとろりと溶かしてこんなにもざわめきをはらんだ物語にしてしまう。忌まわしいほどに美しく歪んだ世界は私をみるみる惹きつけ、目をそらすことを赦さないのです。禁じられた、甘い魅惑の毒りんごみたいに。

『迷子のきまり』(ヘンゼルとグレーテル)、『鵺の森』(みにくいアヒルの子)、『カドミウム・レッド』(白雪姫)、『金の指輪』(シンデレラ)、『凍りついた眼』(マッチ売りの少女)、『白梅虫』(ハーメルンの笛吹き男)、『アマリリス』(いばら姫)・・・ベースとなる物語のすじをほんのりとにじませつつ、怨念や嫉妬がうずまく秘めやかな7つの短篇。心の温度が少しずつ下がっていく、そんな冷気を感じます。
夜の闇、カラスの大群、びっしりとたかる虫。
香水や果実の甘さにまじって鼻をつく、生々しい体液のにおい。土と黴のにおい。
視覚から嗅覚から、私を脅かすさまざまなものたち。
そしてなにより私をぞくりとさせたのは、お話の主人公たちが――年若い青年から幼女にいたるまで――、世間を枠の外側から見透かすように眺めていること。ひややかな笑みさえうかべて。それがたまらなく不気味で、うすら怖かったのでした。

あまりの残酷さに悪寒が走った『カドミウム・レッド』、唯一気持ちが柔らかくほぐれた『金の指輪』、卑猥で頽廃的な小部屋での一部始終『凍りついた眼』のお話が、とくに印象にのこりました。
きゃしゃな細工の手鏡をいくつもあしらったようなロマンティックな装丁も、読み終えたあとではどこか妖しげにうつります。
Author: ことり
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『魚神』 千早 茜

評価:
千早 茜
集英社
¥ 1,470
(2009-01-05)

生ぬるい水に囲まれた孤島。ここにはかつて、政府によって造られた一大遊廓があった。捨て子の姉弟、白亜とスケキヨ。白亜は廓に売られ、スケキヨは薬売りとして暗躍している。美貌の姉弟のたましいは、惹きあい、そして避けあう。ふたりが再び寄り添うとき、島にも変化が・・・。
第21回小説すばる新人賞受賞作。

よどんだ水の腐臭と、遊女たちのむせ返るような色香が立ちこめる幽玄な島。
本土からとり残され、うらぶれた島に息づく伝説と秩序。
ストーリーそのものよりも、その舞台設定にやられてしまう・・・なんて言ったら失礼でしょうか。
朽ちた祠の苔の絨毯、もの哀しい獏の遠吼え、月の冴えわたる音――島の闇夜に宿る生気が、死臭を内包した濃霧のひと粒ひと粒と溶けあって、肌にまとわりつくよう。白亜とスケキヨの狂おしいほどの情念に惹かれながら、美しくも怖ろしい妖艶な世界にずぶずぶと溺れました。

水面にゆらめく廓(くるわ)の灯も、目をそむけたくなるような血塗られた惨劇も、抱きすくめられた太い腕も、すべては密度の濃いまぼろし・・・?
読後ぼんやりと、現実と物語のあわいに身をまかせた私です。

「白亜、恐ろしいのと美しいのは僕の中では同じだよ。雷も嵐も雷魚も赤い血も。そういうものにしか僕の心は震えない。どちらかしかないとしたら、それは偽物だ。恐ろしさと美しさを兼ね備えているものにしか価値はないよ。僕はそう思っている。」
Author: ことり
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