『小さなトロールと大きな洪水』 トーベ・ヤンソン、(訳)冨原 眞弓

「ムーミン童話全集」の別巻。
私は全8巻を読んだあとで手にしたけれど、時系列的にはこちらのほうが先。
ムーミン童話の原点というべきこのお話は、第二次世界大戦がはじまろうとしていた冬に書きはじめられ、戦争が終わった1945年に限定出版されました。その後ながいあいだ絶版となり、あらためて紹介されたのはあとに書かれたムーミンシリーズよりも30年も遅れてのことだったそうです。
そんな経緯をたどった、ヤンソンさんまぼろしの処女作です。

暗くて寒い森のなか。パパはいないし、おなかはペコペコ。
家住みトロールはたいていは人間の家の大きなストーブの後ろに住んでいるものですが、ムーミントロールとそのママは、住むところとムーミンパパをみつけるためにさまよっていたのです。パパはストーブからストーブへと移り住んだあげく、どうしても満足できなくて、ニョロニョロたちとどこかへ消えてしまったのです。
ムーミンたちは森のなかで、こわがりなスニフや妖精のチューリッパと出逢います。小さな生きものたちの、明るい場所をさがす危険な旅はつづきます・・・。
「わたしたちは旅をつづけなければなりません。ほんもののお日さまの光のもとで、自分たちで家をたてようと思っているのです。」

暗い森をさまよう彼らの姿は、戦場で行き場をなくした子どもたちそのもののよう。
それくらい不安は濃く、この小さな童話をすっぽりと覆っています。大洪水と太陽のない世界はそのまま、ヤンソンさんが体験した戦争――世界の終わり、だったのかもしれません。
お日さまの光をもとめ、たどりついた美しい谷は心やすらかでまばゆいほど。このあとにつづく、自由で豊かなムーミンシリーズを予感させてくれます。

(原題『SMATROLLEN OCH DEN STORA OVERSVAMNINGEN』)
Author: ことり
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『ムーミン谷の十一月』 トーベ・ヤンソン、(訳)鈴木 徹郎

「ムーミン童話全集」の第8巻。・・・最終巻です。
あたりにしんみりとした気配がただよい始め、ムーミン谷はすっかり秋。
旅にでたものの作曲が思うようにいかないスナフキン、自分の名前さえ忘れてしまったパーティー好きのスクルッタおじさん、そうじを生きがいにしていたのに二度とそうじをしたくなくなったフィリフヨンカ、部屋の整頓ばかりしている自分にいやけがさしたヘムレンさん、空想とお話好きでムーミンママに甘えたくなった小さなホムサ・・・
このまえ、谷にいったのは、もう、ずいぶんむかしのことです。でも、とてもはっきりおぼえているものが、一つだけありました。ムーミンの家の南の客間です。そして、あそこで朝目をさましたときに、たのしくてたまらなかったことでした。(中略)
なにをするにも、いそぐ必要がありませんでした。
ベランダでは、コーヒーがまっていました。みんな、自分のすきなようにしていました。めんどうなことはひとつもなく、すらすら、みんなうまくいきました。(中略)――ほんとにいい人たちだったなあ。
ムーミン一家が恋しくなったみんなは、それぞれに谷をめざしてやってきます。
だけど、ムーミントロールたちはお家をるすにしていたのです――。

がらんとしたムーミン屋敷に集まったのは、やすらかなぬくもりをもとめてやってきた風変わりな生きものたち。一家の帰りを待ちながら、しばらく一緒に暮らします。
痛々しいくらいぎくしゃくしてしまう彼らですが、それぞれの個性をやさしくつつみ込んでくれたムーミンたちはるすなのです。
ムーミン一家はいないけど、いないからこそ一家のすてきな魅力や存在感が際だつことも。誰かを想うという気持ちは、たとえそこにいなくても‘たしかなもの’として生き生きとよみがえらせることができるから。

・・・ムーミン世界の住人たちともついにお別れの時がきてしまいました。
でも、きっとまた会えるはず。また、いつか。

(原題『Sent i november』)
Author: ことり
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『ムーミンパパ海へいく』 トーベ・ヤンソン、(訳)小野寺 百合子

「ムーミン童話全集」の第7巻。
平穏な毎日をすて、ムーミンパパは海に出ていこうと決心します。
そんなパパの身勝手な‘男のロマン’にふりまわされちゃうムーミン一家。ムーミントロールたちも、もちろんつれていかれることになります。
たどりついた島でもパパはたびたび「すばらしい思いつき」をし、いつもやさしく包容力のあるムーミンママでさえ困惑と苛立ちをかくせません。・・・ちびのミイだけは相変わらず元気な皮肉屋さん、なのだけれど。

行方ふめいの灯台もり、無愛想な漁師、美しい2頭のうみうま。
そしてムーミン一家の明かりをしたって島までやってきた嫌われ者のモラン。
ムーミン谷とはまったくちがうきびしい生活のなかで、勇敢なムーミントロールはさまざまな出逢いと経験をかさね、成長してゆきます。

海がとどろき、岩や土がくずれ、つよい灯油のにおいが立ちこめ・・・、島ぜんたいがおびえふるえているかのよう。
どこからか、のそりのそりと不穏な足音がきこえてくるような巻でした。

(原題『Pappan och havet』)
Author: ことり
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『ムーミン谷の仲間たち』 トーベ・ヤンソン、(訳)山室 静

「ムーミン童話全集」の第6巻は、短篇集。
ムーミン谷に住む小さな生きものたち、登場人物ごとに9つのお話が展開します。
ひとり旅のとちゅうで出逢った一ぴきのはい虫のことがなんだか気になってしまうスナフキンのお話をはじめ、こわいことばかり思いつくホムサ、小さな美しいりゅうをみつけたムーミントロール、この世の終わりにおびえるフィリフヨンカ、しずかなのが好きなヘムレンさん、あんまり意地悪されつづけて見えなくなってしまったニンニ、ニョロニョロたちの秘密、たいせつな犬のぬいぐるみを手放したことを後悔するスニフ、ムーミントロールたちのおかげですばらしいクリスマスをすごすはい虫たち・・・
登場人物ひとりひとりの複雑な心もようがひとつずつ、繊細に描かれています。

臆病だったり恥ずかしがりやだったり・・・他人とせっするのがにがてで、いつも縮こまって物陰でびくついているような生きものもたくさんでてくるムーミンシリーズ。
そんなみんなをすっぽりつつみ込んでくれるおおらかさと、穏やかなやさしさがよりいっそう感じられる本でした。ほのぼの、ほこほこ、読後感もあたたか。

(原題『Det osynliga barnet』)
Author: ことり
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『ムーミン谷の冬』 トーベ・ヤンソン、(訳)山室 静

「ムーミン童話全集」の第5巻。
お日さまがいなくなってしまった寒くてながい冬。
雪にうもれたムーミン谷で、ムーミン一家はひっそりと冬の眠りについていました。なにしろ、冬はいつもそうするならわしなのです。
いままで、ムーミン一家の誰一人として春がくるまで目覚めたものはいなかったのです。それなのに――。

月の光にふと目をさましたムーミントロールは、それきり眠れなくなってしまいます。そして離れた場所では、ミイも子りすにねどこをかじられ目をさまします。ムーミンが経験するはじめての冬。雪だってはじめて見るし、ひとりぽっちだし・・・、よく知っているはずの場所がぜんぜん知らない場所に思えてしまう心細さと戸惑い・・・。
空はほとんどまっ黒で、海は氷の下。なにもかも雪におおわれ凍りついた世界をさまよううち、ムーミントロールは風変わりな冬の生きものたちに出逢います。水あび小屋で暮すおしゃまさん、極度のはずかしがりで自分を見えなくしてしまったとんがりねずみたち、みんなに疎まれているのにどこまでもポジティヴ思考のヘムレンさん・・・冬の世界の住人たちはみな、孤独で淋しがりやなのでした。
「なにもかも、たしかじゃない」って考えているおしゃまさんの生き方がとても素敵。
「ものごとってものは、みんな、とてもあいまいなものよ。まさにそのことが、わたしを安心させるんだけれどもね。」

スキーにスケート。つぼいっぱいのジャムやあたたかいジュース。
いろんな出逢いや経験をしたムーミントロールのはじめての冬に、やがて春の気配がまざり始めます。お日さまがすこしずつ顔をだし、雪嵐がすぎ・・・そして大好きなムーミンママが冬眠から目覚めました。そろそろスナフキンも帰ってくるでしょう。
ムーミン谷がうれしい春をむかえるさまが、うっとりするほどきらきらと美しいです。

(原題『Trollvinter』)
Author: ことり
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『ムーミン谷の夏まつり』 トーベ・ヤンソン、(訳)下村 隆一

「ムーミン童話全集」の第4巻。
平和な6月のムーミン谷にとつぜん大洪水がおしよせます。お家はすっかり水につかり、屋根にのがれたムーミン一家は、流れてきた大きな家にうつり住みました。
「いったい、わたしたちのまえには、どんな人たちがここに住んでたのかしら。千着ものドレス!ぐるぐるまわるゆかや、天じょうにあるたくさんの絵や、物置べやにおしこんであるがらくた――紙でつくった家具や、おかしな雨や。いったい、どんな人たちだったと思う?」
――はたして、そこは劇場でした。

劇場に住みついた一家と、そこからはぐれてしまったムーミントロールとスノークのおじょうさん、裁縫かごにのりぷかぷかとスナフキンのもとに流れついたミイ。3つの場面が並行して描かれてゆきます。劇場ではパパのお芝居を上演することになり、ムーミンたちはおまわりのヘムルにつかまって牢屋に入れられ、スナフキンはニョロニョロの種をまき「べからず」だらけの公園番と対決することに・・・。

大変な状況なのに、なんだか、妙ににぎやかで楽しそう。
ムーミン童話がすてきなのは、みんながそれぞれに自分の好きなことをもち、それをまるごと認めあっているところにあるのでしょうね。そんなのびやかな生き方が困難をのりこえていく逞しさにつながっているみたい。
そしておしまいは・・・、静かだけれどあたたかで安心な幸福にみちています。すばらしいムーミンママ。彼女はきっと、この幸福の象徴なのかも。

(原題『Farlig midsommar』)
Author: ことり
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『ムーミンパパの思い出』 トーベ・ヤンソン、(訳)小野寺 百合子

「ムーミン童話全集」の第3巻。
ムーミントロールが、まだうんと小さかった頃のことです。ムーミンパパは風邪をひいてしまったことをきっかけに、思い出の記を書きはじめました・・・。

遠いむかし。ムーミン捨て子ホームの階段のうえに、新聞紙にくるまれて買い物袋の中からみつかったムーミンパパ。冒険家になりたくてホームからぬけ出し、フレドリクソンと出会い・・・「海のオーケストラ号」にのって大海原に旅立ちます。
船員は、ほかにロッドユール(スニフの父親)とヨクサル(スナフキンの父親)です。やがてムーミンパパは、ミムラ一家(末娘のおちびがミイ)や若き日のムーミンママにも出逢うのです。すばらしい青春と友情が詰まった思い出の記を息子たちに読み聞かせるムーミンパパがとってもほほえましい。
ムーミン谷のみんなが自分のルーツを知る・・・それはまるで‘ムーミン世界’のはるかな伝説のようです。

(原題『Muminpappans memoarer』)
Author: ことり
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『たのしいムーミン一家』 トーベ・ヤンソン、(訳)山室 静

「ムーミン童話全集」の第2巻。
ながい冬眠をおえ、ムーミントロールたちの春の目覚めからはじまる物語です。
ムーミンたちは山で黒い帽子をひろいます。ところがそれは、中にはいったものをおかしなものにかえてしまう、ふしぎな帽子だったのです・・・!

勇敢なムーミントロール、おくびょうなスニフ、おしゃれなスノークのおじょうさん。気のいいパパに、おもてなしが大好きなママ、自由と孤独を愛するスナフキン・・・黒い帽子をめぐる騒動のなかで、物語の根底には彼らのやさしい思いやりが流れています。
そしてフィンランドの冬がながく厳しいぶん、ムーミン谷のみんなは春から夏にかけてのみじかいきらめきの季節をめいっぱい味わいつくそうとするかのよう。みずみずしい季節の表情が繊細に描かれていて、とても素敵です。木苺のジャムをぬった黄色いパンケーキ、ほしぶどう入りのプディング、子ぶたの形の砂糖菓子など、お話を彩る甘い食べものもおいしそう。

ムーミン谷の森は、地ぼたるでうずまるし、海もきげんがわるくなりました。空には、なにかかなしいけはいがただよい、黄色い大きなとりいれ月のお月さまがのぼってきました。
ムーミントロールは、こうした夏のさいごの時期が、いつでもいちばんすきでした。――なんだか、そのわけはわかりませんでしたけれど。
風も、海も、ひびきをかえていました。空気には、あたらしいはだざわりがありましたし、木々は、なにかをまちうけるようにたっています。なんだかムーミントロールには、なにかふしぎなことがおこりそうに思われるのでした。
このうつくしい夏の終わりに、スナフキンはムーミン谷から旅にでます。「春のいちばんはじめの日には、ここへ帰ってきて、またきみのまどの下で、口ぶえをふくよ。」――ムーミントロールにそう約束して。
魅力的なエピソードたちが最後にはちゃんとまとまるストーリー展開も見事で、かわいいだけではなく、ほんのり清らかな余韻がのこります。

(原題『Trollkarlens hatt』)
Author: ことり
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『ムーミン谷の彗星』 トーベ・ヤンソン、(訳)下村 隆一

「ムーミン童話全集」(全8巻+別巻)を読みはじめました。
ほのぼの可愛いアニメの印象しかもっていなかった私ですが、原作はもう少しシビアな感じ。とくにこの第1巻は、じゃこうねずみの不吉な予言がのどかなムーミン谷に暗い影を落とします。

小さな生きものたちがたくさん幸せに暮らしているきれいな谷間。
野原のまん中を川が流れ、大きな木が青々としげり、ムーミントロールもスニフもイキイキしています。でも、ムーミンパパがわたした橋のせいで家をうしなったじゃこうねずみが、一家のところへやってきて言ったのです。地球はほろびるのだと。
ムーミンもスニフもすっかりふさぎこんでしまいます。そんな二人にパパとママは、天文台への旅をすすめました。大彗星をしらべるための長い長い冒険。海はなくなっちゃうし、黒色の雨は降るし、暗闇のなかを危険な旅をしなくてはなりません・・・。

この旅の途中でムーミントロールたちは放浪のムムリク・スナフキンに出逢い、スノークの兄妹をピンチから救いだします。危機的状況のなかでも、なんとも言えずおっとりとした雰囲気がつつんでいて、そっと大切なものをのこしていってくれる物語。
「なんでも自分のものにして、もって帰ろうとすると、むずかしいものなんだよ。」
「もちものをふやすというのは、ほんとにおそろしいことですね。」
そんなふうに話すスナフキンは、たったひとつハーモニカを大事にしています。
自分の大切なものをちゃんと知っている人って頼もしいな、改めてそう思いました。

(原題『Kometen kommer』)
Author: ことり
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