『ジャンピング・ジェニイ』 アントニイ・バークリー、(訳)狩野 一郎

屋上の絞首台に吊された藁製の縛り首の女(ジャンピング・ジェニイ)――小説家ストラットン主催の“殺人者と犠牲者”パーティの悪趣味な余興だ。ロジャー・シェリンガムは、有名な殺人者に仮装した招待客のなかの嫌われもの、主催者の義妹イーナに注目する。そして宴が終わる頃、絞首台には人形の代わりに、本物の死体が吊されていた。探偵小説黄金期の雄・バークリーが才を遺憾なく発揮した出色の傑作。

うわ〜〜、なんとも複雑。でも、おもしろい!
何重構造?と思うくらいに真相が入り乱れ、折り重なっていくミステリーです。
もちろん事件の真相はたったひとつなのだけど、ほんとうの真相と、読者が誘導される‘真相’と、登場人物たちがそれぞれに思い込まされてしまういくつもの‘真相’が毛糸だまのごとくからまっているのです。
そもそも、縛り首の死体となるのが「いけすかない女」「殺されてしかるべき人物」とみんなから疎まれているイーナであることが物事をややこしくします。彼女は殺されたのだ!と察しつつも‘犯人’をかばい、警察に‘自殺’だと信じさせるために偽証の相談をする・・・パーティの出席者たちが奇妙に一致団結するのが可笑しい。
そしてこれがありふれた探偵小説と一線を画しているのは、本来なら事件を解決する役割にある探偵(ロジャー・シェリンガム)が思わず証拠隠しに手を染め、事態を引っかき回してしまうところ。やることなすこと裏目にでてしまいアタフタするロジャー。そんな迷走っぷりをにんまりしながら見守っていると、最後の最後で私たち読み手が信じていた‘真相’すら覆されるのだからたまりません。
ユーモアとウィットに富んだ、まったく心憎いミステリーなのです。

(原題『JUMPING JENNY』)
Author: ことり
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『第二の銃声』 アントニイ・バークリー、(訳)西崎 憲

評価:
アントニイ・バークリー
東京創元社
¥ 1,015
(2011-02-12)

高名な探偵小説家の邸宅で行われた推理劇。だが被害者役の人物は二発の銃声ののちに本物の死体となって発見された。
二転三転する証言から最後に見出された驚愕の真相とは。

緑に囲まれたのどかな農園、優雅な午後のパーティのひとときを切り裂く惨劇。
殺人の嫌疑をかけられたピンカートン氏の書きとめた草稿(小説)、という体で進んでいく物語は、たくさんの登場人物にもかかわらず整理がしやすくて、ぽんぽんと弾むように読めました。
ピンカートンをはじめ、ちょっと厄介な性格のアーモレル嬢や人間味あふれる探偵・シェリンガムなど、みなそれぞれ個性的でひと癖もふた癖もある上に魅力的。そんな人びとが感情豊かに生き生きと動き出し、お話をぐらぐらかき回してくれるのです。

誰もが動機をもつ中で、いったい真犯人は誰なのか。
銃声はなぜ2発あったのか。そのことがどんな状況を招いていくのか。
そうして、事件に果敢にとびこんでいくシェリンガムはどんな謎解きをするのか。

「これは殺人を探偵する小説ではなく、殺人についての小説である。」と冒頭で述べているバークリーさんは、人びとのもつれた人間関係や交差する思惑、殺人に向かって変わっていく心もようをじつにこまやかに(時にはユーモラスに)描いてみせてくれています。それでいて、二転三転する結論・・・エピローグは驚きの展開が!
少しばかり理屈っぽいけど、気品ただよう上質な古典ミステリー。楽しめました。

(原題『THE SECOND SHOT』)
Author: ことり
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『毒入りチョコレート事件』 アントニイ・バークリー、(訳)高橋 泰邦

ロジャー・シェリンガムが創設した「犯罪研究会」の面面は、迷宮入り寸前の難事件に挑むことになった。被害者は、毒がしこまれた、新製品という触れ込みのチョコレートを試食した夫妻。夫は一命を取り留めたが、夫人は死亡する。だが、チョコレートは夫妻ではなく他人へ送られたものだった。事件の真相や如何に?会員たちは独自に調査を重ね、各自の推理を披露していく――。

1929年に書かれたというミステリーです。
毒入りのチョコレート・ボンボンによる殺人事件。事件そのものはシンプルなのに、手がかりはごくわずか・・・たったひとつの事件にたいして、6人もの探偵役――英国の頭脳明晰な紳士淑女たち――が夜ごとさまざまに推理合戦をくり広げます。
この推理が六者六様。目のつけどころから証明方法、もちろん指し示す‘犯人’まですべてばらばら。しかもそれぞれ自信たっぷりに論理だてて語られ、そんな(その時点では)完ぺきとも思えた推理がつぎの晩にはほかのメンバーによってあっさりと覆されるのだから、おもしろいです。
語り手がかわるたび、くるくると誘導されてしまった私・・・。ひとつの出来事が、角度を変えるだけでこんなにも幾通りもの見え方をするなんて・・・。
ラストはまったく予想外で、それを語りすぎずにさっと幕を下ろしてしまうところもさすが。まだまだなにか秘めていそうな、そんな気持ちすらよぎります。

こっくりとした深み、ほろ苦い口どけ、芳醇な香り。
チョコレート・ボンボンがよくにあう、エレガントで贅沢なミステリーでした。

(原題『THE POISONED CHOCOLATE CASE』)
Author: ことり
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