『リヴァトン館』 ケイト・モートン、(訳)栗原 百代

評価:
ケイト モートン
武田ランダムハウスジャパン
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(2009-10-16)

由緒正しきリヴァトン館に仕えたメイドとしての日々。
笑いさざめく貴族の娘達、厳格な執事の小言、心躍る晩餐会、贅を尽くした料理の数々――
死を目前にした老女の回想は懐かしい日々をめぐり、やがてあの悲劇へたどり着く。思い出というにはあまりに濃密な記憶・・・。
滅びゆく貴族社会の秩序と、迫りくる戦争の気配。時代の流れに翻弄された人々の愛とジレンマを描いた美しいゴシック風サスペンス。

老女・グレイスのメイド時代の回想を通して、当時の貴族社会がキラキラと描かれています。才気と魅力にあふれた愛らしい少女が、メイドならではの立場からこの時代独特の価値観や皮肉な巡りあわせに翻弄されてゆく物語です。
いくつもの秘密や嘘がからまり覆われた真実に、ひと糸ひと糸解きほぐすようにせまっていく構成。たった一度のささいな齟齬で、登場人物たちがじわじわと破滅へと追いやられるさまがもどかしくて痛々しくてたまらない・・・。

読み手のはやる気持ちとは対照的に、物語はゆったりと濃密にすすみます。
哀しくもやさしい時の流れ。ゆるゆると現実の輪郭がぼやけて、グレイスといっしょに過去まで戻った気分になって読みました。お仕えするお嬢さま姉妹のさざめき声や子ども部屋の‘ゲーム’、貴族や召使いたちが行き交うきらびやかなパーティの様子がうかんでは消えて、まるで彼女の初めての体験にドキドキするように。
グレイスに絶対の信頼をおくハンナ。グレイス自身の謎と、詩人の死の真相。
波乱の時代を生きたグレイスの終わりゆく一生が、若い頃に経験した悲劇のうえに成り立っていると思うとせつなくなります。あの事件の秘密をたったひとりで抱えて生きてきた、それはどんな思いだったのでしょう。

彼女の人生をほのかに照らす、途絶えた夢をつないだ献身の絆――
甘くまばゆくロマンティックで、そしてあまりにも残酷な物語でした。

(原題『The Shifting Fog』)
Author: ことり
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『忘れられた花園』(上・下) ケイト・モートン、(訳)青木 純子

評価:
ケイト・モートン
東京創元社
¥ 1,836
(2011-02-18)

1913年オーストラリアの港に着いたロンドンからの船。すべての乗客が去った後、小さなトランクとともにたったひとり取り残されていた少女。トランクの中には、お伽噺の本が一冊。名前すら語らぬ身元不明のこの少女をオーストラリア人夫婦が引き取り、ネルと名付けて育て上げる。そして21歳の誕生日に、彼女にその事実を告げた。
ネルは、その日から過去の虜となった・・・。
時は移り、2005年、オーストラリア、ブリスベンで年老いたネルを看取った孫娘、カサンドラは、ネルが自分にイギリス、コーンウォールにあるコテージを遺してくれたという思いも寄らぬ事実を知らされる。
なぜそのコテージはカサンドラに遺されたのか?ネルとはいったい誰だったのか?茨の迷路の先に封印され忘れられた花園のあるコテージはカサンドラに何を語るのか?

ふるふると甘美なものが心をみたして・・・すばらしい読みごたえでした。
自分の出生の謎(ルーツ)を探るネルの物語、素敵なお話をつぎつぎにつむぎ出すイライザの物語、祖母から異国の見知らぬコテージを遺されたカサンドラの物語。100年もの時をまたいで、オーストラリアとイギリス、3つの時代のストーリーがまるでお互いをよびあうかのようにつながり、編まれてゆきます。ミステリアスな迷宮の深みにくるくるとはこび込まれる、そんな感覚がとても心地よかった。
美しい本からとび出した3編のお伽噺も、幼い頃胸をときめかせながら読んでいた大好きだった童話の世界を思い出して、なんだか嬉しくなってしまったのです。

城壁に幾重にもからみついた茨がとり払われていくみたいに、家族の過去がゆっくりと目覚めはじめます。その象徴である古くかぐわしいお伽噺集と、長いあいだ閉ざされ‘誰か’の訪れをじっと待っていたコテージ――秘めやかな花園。
たくさんの祈りや愛情さえも、歯車が狂いままならないもどかしさ。そうして時が経ち、歴史の全貌を解き明かすことなんてできるはずもないもどかしさ・・・。彼女たちの願いが純粋であればあるほど、美しければ美しいほど、かき立てられる思いがしました。

「お帰りなさい、ずっと待っていたのよ」――
甘くやさしい囁きが胸をふるわせ離れない。林檎の木の下で、妖精のように可憐なイライザが眠りこんでいる・・・そんな絵画のような花園のおもかげも。
過去から現在、そして未来へとつらなる時間。そのすきまからこぼれていく膨大な記憶たち。けれど、心をこめた祈りや愛情はちゃんとつながっていく・・・目に見えるものだけが真実じゃない・・・めくるめく物語の終わりに希望の光がふわりと差し込んで、それはとても柔らかなまなざし、‘家族の約束’のように感じられました。

(原題『THE FORGOTTEN GARDEN』)
Author: ことり
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