『さようなら窓』 東 直子

評価:
東 直子
マガジンハウス
¥ 1,575
(2008-03-21)

「眠れるまで、またなにか話をしてあげようか」
家族と離れ、恋人のゆうちゃんと暮らしはじめたきいちゃん。いつからか、うまく眠れなくなったきいちゃんに、ゆうちゃんはいつも、少し不思議で胸がぎゅっとなる「おはなし」をしてくれた。
寝る前に一篇ずつ味わいたい、12の連作短編集。
Author: ことり
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『私のミトンさん』 東 直子

評価:
東 直子
毎日新聞社
¥ 1,680
(2011-07-12)

身長50センチのミトンさんは、アカネの秘密の同居人。
わがままで謎の深いミトンさんと、そこに集うどこまでも優しく独創的な人々を描いたほの甘い長編小説。

ふしぎなふしぎなふしぎな・・・かわいいお話。こういうの、好き。
いっぷう変わった叔父さんから借り受けることになった一軒家の床下で、茜が出逢った小さなおばあさんのミトンさん。
ミトンさんは、皺だらけの肌とケトルのような高音の声をもち、一人称は「オレ」、つめたい果物が好きで、赤いスカートを履いているふしぎなふしぎな存在です。
茜とミトンさんのほっこり切ないひそやかな生活がはじまります。

ぽわぽわとした霞みたいなやさしさで、少しずつ動いていく日々。
「記憶」とか「幸福」とか「時間」とか・・・親しいけれどもうまく説明のつかない曖昧なものものがお話のなかにうずまいています。謎だらけのミトンさんがするんとなじんでしまえるのは、だからなのかしら・・・。
茜、庄司くん、みほさん、お母さん。みんないびつでやさしく愛おしい人びと。
私は複雑な事情をかかえたみほさんがなんだかとても好きでした。繊細さと神通力をそなえたおっとりと可憐なみほさん。ミトンさんを抱っこするときの「すてきに重い」っていう言い回しも、イチゴみたいに甘くてかわいい。

「この穴、どこかにつながってるの?」
「みんなつながっている」

揺れる暗闇、透明な意識、鼓動の歌。ふしぎなふしぎなミトンさん。
また、いつかの未来にみんな揃ってあの空の下、あの日のように出逢えますように。
Author: ことり
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『耳うらの星』 東 直子

評価:
東 直子
幻戯書房
¥ 2,310
(2011-02)

青い夜の沼地。蓮の花のうえを赤いタイツの少女が歩く、とてもきれいな装丁。
うつくしい言葉がちりばめられた、しみじみと沁みるエッセイ集です。

宮澤賢治、寺山修司、塚本邦雄、内田百痢∧翅執阿覆匹涼参里箴説からの抜粋・考察がたくさんで、歌人ならではのエッセイ。でも短歌に関するものばかりではなく、遠い日の思い出や現在の日常のお話もつまっています。子どもの頃の、幼い心をよぎる不安だとか疎外感は昔の私にそっくりなぶぶんも多くて、なつかしくも気恥ずかしいような気持ちで読みました。
鈍重だった少女時代を安房直子さんの童話集とともに過ごし、本が壊れたそのかわりに大人になった、という東さん。少女はやがて、鳥肌を「皮膚に浮かぶさみしい音楽のよう」だと感じ、年をとるということを「星の一部にふたたび戻るための、おだやかな準備期間」だと表現します。そうして「ほうじ茶をすすりつつ、干しいちじくをかじりつつ、とろとろと世界が終わりになるのなら、悪くない、と思う」のです。

各章の最後にはご自身の短歌が一句そえられていたりもします。
私が一ばん好きなのは、『夏を眠る』の章にあったこんな歌。
ゆうだちの生まれ損ねた空は抱くうっすらすいかの匂いのシャツを
夏のけだるさや淡い空気の色がよみがえって、好き・・・。
言葉のひとつひとつがやさしく澄んでいて、涼やかな気持ちになれるみずみずしい一冊でした。
Author: ことり
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『ほわほわ さくら』 ひがし なおこ、(絵)きうち たつろう

きんとつめたい空気がほどけて、うららかな日ざし。
川べりの桜の木の芽もぷくぷくとふくらんで、春のじゅんびをしています。
桜の季節まで、ことしもひと月たらず。
空いっぱいに咲きほこるピンクたちが恋しくて、こんな絵本をえらんでみました。

おいで おいで おいで
まって まって まって
ほわほわ逃げていく花びらを追いかける女の子。
どこまでとんでいくのかなあ?

ふふっふ ふるるる
風に舞う花びらはわらっているみたい。うたっているみたい。
ほのほの ほろろん
私はプリンをたべながら、春待ちの午後。
Author: ことり
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『らいほうさんの場所』 東 直子

評価:
東 直子
文藝春秋
¥ 1,500
(2009-11-11)

インターネットの占いサイトで生計を立てている姉・シズ、市民センターで働くバツイチの妹・マナ、社会になじめず大人になりきれない弟・シュン――ひとつ屋根のした、ひっそりとよりそって暮らす中年の三姉弟の物語。

おだやかな顔をして、ひたひたと忍びよる狂気。はらってもはらってもまとわりついてくる不穏な気配に、苛立ちのようなやるせないような感覚がつのります。
彼らが暮らす家の庭には「らいほうさんの場所」とよばれる一角があり、美しい花が植えられ、清らかに保たれています。そのしたになにがあるのか・・・物語はうっすらといやな予感を匂わせ、けれどはっきりとはさせないままに進んでいくのです。
職業柄なにかにつけ迷信じみている姉に支配されているこの家は、とてもアンバランス。姉はいつも惑い、現実的な妹をたよりにし、弟を過度にあまやかします。
そしてそんなきわどいながらも穏やかな日々を脅かす、ノラ猫や気味の悪い母娘の存在・・・。唯一正常にみえていた妹までも、ゆるゆるとなまぬるくからめとられていくうすら怖さ・・・。

「いつかこのうちの庭にも入りこんで、うろうろ歩きまわって、アレをかぎつけて、掘り起こしたりしちゃうかもしれないじゃないの。そんなことになったら、どうなるか、あなたわかってるの!?」
アレってなんだろう。「らいほうさんの場所」にはなにが埋まっているんだろう・・・。
誰も侵すことのできない、彼らだけの聖域。彼らだけの秘密。
その謎につつまれた高潔な存在感が、いまも鳩尾のあたりにわだかまっています。
Author: ことり
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『薬屋のタバサ』 東 直子

評価:
東 直子
新潮社
¥ 1,470
(2009-05)

いま起こっていることは、すべて必然なんだと思う・・・身寄りを置き去りにして、山崎由実が流れついたのは商店街のはずれの薬屋だった。独身の店主、平山タバサはつかみどころがないが、町の住人からは信頼を寄せられ、山崎も次第に馴染み、解き放たれてゆく。
とどまり、たゆたう愉悦と、帰るべき場所を探す極上の恋愛小説。

やさしげで懐かしい雰囲気をかもしつつ、読むほどに募っていく不安感・・・。
気づいたらそこは、とある町のとある薬屋。昼間でもうす昏く、ひっそりとした昔ながらの薬屋は、白衣をまとった店主・タバサが乳鉢で薬を調合する乾いた音がさりさりとひびきます。
主人公の由実がどんな経緯でその薬屋に流れついたのかは誰も知りません。由実本人でさえも。ときどき人がすいこまれるように消えてゆくという町で、たびたび現われる幻影のような存在と、町の人びとの思わせぶりな態度に心乱されながら、謎めいた中年男・タバサと暮らし始める由実。
タバサの調合する薬の不思議な力、夜の「巡回」、奇妙な老女のたわごと、タバサの母親の手首から流れ落ちた血までものみ込んできた庭の池・・・「今目の前で起こっていることが、ぜんぶ夢の中のできごとのように思えてしかたがない」 主人公がこんなふうにつぶやくお話に、いっきに幻惑の世界へと誘いこまれてしまいました。

得体の知れないものがよどむ池の底のような世界には、血のにおいと薬のにおいがほのかにただよい、現実のものとは思えない気配にみちています。
肌の、一ばん柔らかなぶぶんを指でなぞられた時みたいな、ぞわりとした心地――タバサの言動にそんな感覚をいだいてしまったせいでしょうか、物語のなかに点々とこぼれる‘赤’に艶かしさを感じた私・・・。
血の赤、口紅の赤、紅葉の赤。赤い針さし、赤い唇、赤い薬包紙・・・私の目にどこか妖しく官能的にうつる、濡れたような赤い色たち。

過去、記憶、そして死。いまはもういない人びとが確かに生きていたという証と、いま私たちがここにいるという事実。それらすべてがいっしょくたにまざりあい、過ぎ去っていく時間のなかに解き放たれる――ころんだら、にどと出られない――生と死のはざまにある、艶かしくてフワフワした霞のような物語。
「遠くから来て、また、遠くへ行くためよ」
あいまいなラストに、不安感が拭えないまま、いまだぼんやりとたゆたっています。
Author: ことり
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『長崎くんの指』 東 直子

評価:
東 直子
マガジンハウス
¥ 1,470
(2006-07-20)

『長崎くんの指』、『バタフライガーデン』、『アマレット』、『道ばたさん』、『横穴式』、『長崎くんの今』。そして『夕暮れのひなたの国―あとがきにかえて』の、6編+1編。
先日参加した江國香織さんと金原瑞人さんの対談イベントで、『道ばたさん』が紹介される場面があり、むしょうに読んでみたくなって手にとりました。
読み始めてみると、どのお話もあるひとつの遊園地でつながっていく・・・そう、これはあるさびれた遊園地「コキリコ・ピクニックランド」をめぐる連作短編集。

「コキリコ・ピクニックランド」は山の中腹にある、閉園寸前の遊園地。
そう大きくない観覧車、蝶々の温室、「日本で一番長いゴーカート」と「日本で二番目に長いすべり台」、コーヒーカップに洞窟トンネルにパンダの遊具・・・お客さんのあまり来ない閑散とした遊園地に、行き場をなくした淋しい人びとがつどいます。
人と人が出逢い、ゆるりとつながっていくさまにしみじみしたり、ほろっと泣けたり。もともとはリアルな設定だったのに、いつのまにかフワフワと空をさまよっているような心もとない感覚におそわれていく・・・やさしくはかなげな人たちがつむぎ出す、どこか肌寒くてうすら怖くもある短編集でした。

みんな、いまごろどうしているんだろう・・・。
最後の『長崎くんの今』を読んでも心に張ったうす膜はなくならず、私の心も「コキリコ・ピクニックランド」で立ちつくしたまま。
灰色がかった水色の世界がぽやぽやと広がっています。
Author: ことり
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『とりつくしま』 東 直子

評価:
東 直子
筑摩書房
¥ 1,470
(2007-05-07)

死んでしまったあなたに、とりつくしま係が問いかけます。
あなたは何に「とりつき」ますか?
そして妻は夫のマグカップに、母は息子のロージンに、弟子は先生の扇子に、なりました。切なくて、ほろ苦い、不思議な10の物語。

図書館でなにげなく手にした本・・・ひらいた頁にさらりと目を通したそのときすでに、借りて帰ることを決めていました。
「とりつく」なんていうと、おどろおどろしいものを想像してしまうかも。でもこの本に出てくる「とりつく」は誰かを恨んだり祟ったり、そういう意味合いはこれっぽっちもない、やさしいもの。この世に‘気になる人’を残して死んでしまった人が、そばにいられるモノになってふたたび舞い戻り、大切な人を見守るお話です。

とりつくしま係にうながされた主人公たちは、そのときそのとき、その人その人の想いでもって、さまざまなモノに「とりつき」ます。そして、‘ほんとうの’死の世界に旅立つ前のささやかなひと時を、それぞれが思いをこめて生きる・・・そこで生まれた物語はほろりと切なくて、じんわりと心にしみてくるのです。
もしも私がいま死んでしまったら何になろう・・、そう考えずにはいられなかった本。何に「とりつく」にしても、夫のそば、にはちがいないかな・・・。

作者の東さんは、歌人なのだそう。たくさんの思いや空気を短いフレーズにこめるのがうまいのは、きっとそのせいですね。読んでいて気持ちのいい文章でした。
Author: ことり
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