『クリスマスだいすき』 ピーター=スピア

評価:
ピーター=スピア
講談社
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(1984-10)

本をひらいて、ばーん、とまず目にとび込んでくるのは、うきうきと明るいクリスマス前のショッピング・モール。
柱にリースがとりつけられ、クリスマス・ツリーが飾られ、サンタクロースに扮した男の人が客よせをしています。買いものに来た人びとの喧噪や、大音量のキャロルが聴こえてくるようで、いやでも胸がおどる、そんなふうにはじまる絵本。

飾りつけられた家々、柔らかにあかりの灯った窓。きれいなカードを送ったり、七面鳥をグリルしたり、ツリーを飾ったりしながら、大人も子供も誰もがわくわくとクリスマスの仕度をするのです。
窓のそとには雪がつもり、準備がととのった家を青白く澄んだ空気がつつみます。クリスマスの朝がきて、プレゼントを開ける子供たちのうれしそうな顔、みんなで楽しくいただくごちそうの数々。そして翌日あらゆる片付けが終わったあと、家のそとに出された包装紙や飾りつけの残骸にそぼ降るつめたい雨――。
幸福な時間をこまやかに描いて、そうして迎えるパキっと潔い‘終わり’。ささやかだけれど幸福なピースがひとつひとつていねいに積み上げられて、そうしてすべてがすんだ後まで描かれるから――『雨、あめ』も『サーカス!』もそうでした――、ピーター=スピアさんの絵本は愉しい時間がきらきらときらめき、うしなわれたあともそっと大切にしまわれていると感じるのでしょうね。
にぎやかで、まぶしくて、歓びにあふれ、でもしずかで、ちょっぴりせつなくもあって。
こんな絵本がたまらなく大好きです。

今回私が手にしたのは、日本版『クリスマスだいすき』ではなく、神保町の古書店で購入したフランス版の『Noël』です。
表紙の絵を見たとたん、ひと目で彼の絵本だと分かり、みつけた時はうれしかった。文字のない絵本なので、フランス語が読めなくてもだいじょうぶなのでした。

(原題『Christmas!』)
Author: ことり
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『ノアのはこ船』 ピーター・スピアー、(訳)松川 真弓

神は、地上のけがれをあらい流してしまおうと、大こう水をおこすことにした。でも神は、ただ一人の心正しき人、ノアに命じて大きなはこ船をつくらせ、家族と動物たちを乗りこませた。そして・・・。
旧約聖書の有名な“大洪水”のお話を、生き生きとダイナミックに再現した絵本。

雨、あめ』、『サーカス!』、『ばしん!ばん!どかん!』など私の大好きな絵本たちの作者、スピアーのコルデコット賞受賞作です。
神さまの思惑で大洪水がきて、にぎにぎしくはこ船に乗り込む動物たち。のこされる動物たちとの別れや活気あふれる船旅のようすが細やかに描かれ、やがて温かな希望がむくむくとみちてくる・・・なんとも豊かで美しい絵本。
ひととおりおはなしを楽しんでも、またなんどでもひらきたくなりました。目をさらのようにして細部をみつめると、そのたびにあたらしい発見に出会えます。

――私たちは、えらばれて、いまここに生きているんだね。

(原題『NOAH'S ARK』)
Author: ことり
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『雨、あめ』〔再読〕 ピーター・スピアー

なんにせよ、‘一ばん’を決めるのはとてもむずかしく、勇気のいること。でも思いきって言ってしまいます。
『雨、あめ』は、私が一ばん好きな絵本です。
小さい頃にながめていた絵本ではありませんが(さいしょに出逢ったのは大学時代)、この絵本をながめていると小さい頃の自分――それも本能的なぶぶんがよび覚まされます。とても幸福な、思い入れたっぷりの絵本。

うんと、ずっと昔。私は雨が大好きな女の子でした。
歩けるようになるとすぐに小さなながぐつと雨がっぱを買ってもらい、雨がふるたびに父や母の手を引っぱってお外へいこうとせがんだといいます。小学校へ行くとちゅうも、うれしくてうれしくて、妹とはしゃいだり、わざわざ水たまりにジャブジャブ入っていったり・・・自分でも、よく憶えてる。
それなのに、楽しみにしていた行事が延期になったり、もうすこし大きくなると、セットした髪が膨張したり、制服がぐっしょり濡れてスカートのひだがくずれてしまうこと、電車のなかにたちこめる湿気などを嫌がって、私はどんどん雨を疎んじるようになってしまいました。
この絵本の頁をひらくと、雨がたまらなく好きだった幼い私が帰ってくる気がする・・・くもの巣をきらめかせる雨粒や、道路わきをいきおいよく流れる水、つんつんした松の葉先にくっついたしずくたちをはじき飛ばしてみたあの時。懐かしい光景。晴れの日にはないあのとくべつな匂いを小さなからだでめいっぱい感じていた私にもどれる気がするの。

そして、この絵本が雨のなかだけで終わらないのも大好きな理由のひとつ。
おもてでたっぷり雨を堪能した子供たちは、家に帰り、濡れた服を脱いで、もうもうとした湯気のなかあたたかいお風呂に入ります。そしてさっぱりと乾いた服を着て、窓から雨をながめ、家族で夕食を食べ、テレビをみるのです。そんなこまやかな空間差――時間のうつろいや温度のちがい――がすごくステキ。

さいごになりましたが、この絵本に文字はありません。でもいく枚もの絵、いくつものカットが、とても雄弁に、とても豊かに、雨と子供たちの一日を伝えてくれます。
しめった空気も、ザーザーという無数の雨の音も、子供たちの嬌声も。
バスタブにからだを沈める安心感も、おいしそうなごちそうの匂いも、ひそやかな飼い猫のため息さえも。
やさしげな水彩、躍動感のあるタッチ。いったいなんどひらいたかしら・・・。
私はほんとうに、この絵本が好きです。

(原題『RAIN』)
Author: ことり
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