『ワーニカ』 アントン・P・チェーホフ、(絵)イリーナ・ザトゥロフスカヤ、(訳)児島 宏子

<大すきなおじいちゃん、コンスタンチン・マカールィチ!
おじいちゃんに、お手がみをかきます。こうたん祭おめでとうございます。おじいさまが、神さまからいいことをたくさん、たくさん、していただけるよう、おいのりします。ボクには、お父さんもお母さんもいない、おじいちゃん、たったひとりだけ>

靴職人の親方のところに見習い奉公にだされた9歳の少年・ワーニカの物語。
クリスマスの前夜、靴型の並ぶ棚が右左に広がる部屋で、ワーニカは大好きなおじいちゃんに手紙を書きます。
手紙を書きながら思いだすのは、小柄で活発な祖父のこと。夜になるとぶかぶかの毛皮外套にくるまって、拍子木を打ち鳴らすおじいちゃん。その後ろをとぼとぼとついて行く、老いぼれた栗毛(カシタンカ)と牝イヌの泥鰌のすがた。
ワーニカは思い出になんどもしゃくりあげながら、長い手紙を書きつづけます。

うっとりするような甘い希望と、だいじな手紙を投函したあとの幸せな夢――
おじいちゃんにこの手紙は届いたのでしょうか?墨色一色で描かれたしずかな絵とふくみをもたせたラストが切ない・・・。大人向けの絵本です。

(原題『Ванька』)
Author: ことり
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『かわいい女・犬を連れた奥さん』 チェーホフ、(訳)小笠原 豊樹

『中二階のある家』、『イオーヌイチ』、『往診中の出来事』、『かわいい女』、『犬を連れた奥さん』、『谷間』、『いいなずけ』。
作者アントン・チェーホフさんが作家としてもっとも円熟した、といわれる晩年の中・短編7編が収録されています。

お付き合いする相手によって自分の思いや信念を影響されてしまう・・・女性の方だったら(あるいは男性でも?)思い当たる経験、きっとありますよね。
表題にもなっている『かわいい女』の主人公・オーレンカはそれに輪をかけたような女性です。演出家の妻になるとこの世で一番すばらしいものは演劇だと思い、材木商と結婚すれば会う人ごとに材木のお話ばかり。獣医を恋人にもてば、彼の意見はそのまんま自分の意見に――
「なんて芯のない女性かしら!」とあきれつつ、どこかで自分と共通するところも感じとり、ちょっぴり居心地悪いような気持ちになってしまった私・・・。

この『かわいい女』は先日読んだアンソロジーに入っていて、それでほかの小説も読んでみたいなと思ったのですが、『犬を連れた奥さん』もよかったです。
「海岸通りに新顔が現われたという噂が立った。犬を連れた奥さんだという。」という魅力的な書き出しは、読み手のことをスーっと1900年前後のロシアへと引き込んでくれます。彼らの置かれている状況は、いやな言い方をすればダブル不倫。だけど細やかに描かれていく人間模様はどこかユーモアを感じさせ、かろやかな印象すら抱かせてくれるのです。
ロシア文学はでてくる名前のややこしさもあって以前からにがて分野・・・。そんな私だから、この本のお話たちはとくに違和感なく読めたこと、そのことも嬉しい。

(原題『Дущечка / Дама с Собачкой』)
Author: ことり
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