『丘の屋敷』 シャーリイ・ジャクスン、(訳)渡辺 庸子

評価:
シャーリイ・ジャクスン
東京創元社
¥ 798
(2008-09)

八十年の歳月を、闇を抱いてひっそりと建ち続ける<丘の屋敷>。
心霊学研究者モンタギュー博士は調査のため、そこに協力者を呼び集めた。ポルターガイスト現象の経験者エレーナ、透視能力を持つセオドラ、そして<屋敷>の持ち主の甥ルーク。迷宮のように入り組んだ<屋敷>は、まるで意志を持つかのように四人の眼前に怪異を繰り広げる。そして、図書館に隠された一冊の手稿が<屋敷>の秘められた過去を語りはじめるとき、果たして何が起きるのか?
<魔女>と称された幻想文学の才媛が描く、美しく静かな恐怖。

悪夢が息をひそめ、敵意すら感じさせる古い屋敷で巻き起こる怪異譚。
人の心がじわじわと侵されていく怖さ・・・じっさいの怪奇現象もさることながら、読み手の想像にゆだねられた‘余白のぶぶん’がなんだかとても怖ろしかった。
僅かずつ寸法を狂わせてある構造とか、どこからか絡みついてくる忌まわしい視線とか・・・、過去の住人たちがことごとく逃げだしたという<丘の屋敷>はぞっとするほどの冷気を漂わせ、不安にさいなまれたエレーナを――そして私たちを――邪悪なほうへ、邪悪なほうへと導くのです。

「ああ、なんて寒いんだろう」――
足もとからみしみしと凍りついていくように、この呪われた屋敷に囚われ魅了されていくエレーナ。ゆっくりと忍びよる狂気が、彼女がたびたび思い起こす「旅は愛するものとの出逢いで終わる」という歌詞に哀しく妖しくかさなってゆきます。
いいえ、安らぎだわ、とエレーナは強く思った。わたしがこの世で一番ほしいのは安らぎ。ゆっくり横になって考え事のできる静かな場所。花に埋もれながら夢を見たり、素敵な物語を自分に語れる、どこか静かな場所なのよ。
それまでの人生で疲れきっていた彼女は、旅の最後にとうとう安住の地を見つけられたのでしょうか・・・。

(原題『The Haunting of Hill House』)
Author: ことり
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『ずっとお城で暮らしてる』 シャーリイ・ジャクスン、(訳)市田 泉

あたしはメアリ・キャサリン(メリキャット)・ブラックウッド。
ほかの家族が殺されたこの屋敷で、毒殺魔と噂される姉のコンスタンス(コニー)、毒の影響で不自由な体となり狂気に冒されつつある叔父のジュリアン、それから猫のジョナスといっしょに暮らしている――。
悪意にみちた外界に背を向け、幸せな日々を過ごす彼女たち。そんなブラックウッド家に、ある日突然いままで連絡のなかった従兄のチャールズが訪れ、美しく病める箱庭世界が大きく揺らいでゆくゴシック・ロマン。

自分が内側から、よくないものにじわじわ侵食されていくようなうすら寒い感覚。
理性や価値観までもが蝕まれていく、そんな静かな恐怖を感じます。
語り手のメリキャット目線で読んでいると、どうやら彼女がまともではないらしいことが分かってきて――思考が幼く、奇妙な空想(被害妄想?)のなかに棲んでいる――物語の世界がぐにゃりと歪みはじめます。まるでこちらを嘲笑っているみたいに。

 メリキャット お茶でもいかがと コニー姉さん
 とんでもない 毒入りでしょうと メリキャット

毒殺魔のいるブラックウッド家に敵意をいだく村人たちと、邪悪なものを抱えながら独自のルールに従い静かに暮らしていく姉妹。空想のなかで遊ぶ夢みごこちのような不確かな世界は、でもだからこそ、知らず知らずのうちに私の意識下へと潜りこんでくる甘い狂気が怖かった・・・。
メリキャットに言わせれば、きっと私も「かわいそうな、知らない人たち」の一人。
美しく閉ざされた‘お城’に籠もりきって、これからもこの我儘で残酷で邪悪な姉妹は穏やかに暮らすのでしょう。ずっとずっと、永遠に。
 

「あたしたち、とっても幸せね」


(原題『We Have Always Lived in the Castle』)

Author: ことり
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