『犬たち』 レベッカ・ブラウン、(訳)柴田 元幸

評価:
レベッカ・ブラウン
マガジンハウス
¥ 1,890
(2009-04-23)

「犬」についての、寓意性にみちた連作短編集。
ひと口に「犬」と言っても、ふわふわムク毛の愛玩動物としての犬ではなくて、ここにいるのはもっと痛々しく、獰猛な生き物としての犬。
ごつごつと骨ばったのびやかな肢体、するどい牙と熱い吐息、赤い舌からしたたる涎・・・。飢えと渇きにあえぐ野犬のような、そんな「犬」でした。

いびつに歪む主従関係・・・ひらいた頁を前に、同化していく「私」と「彼女」。たしかにあったはずの輪郭が崩れ去る、静かな狂気を感じます。
ある夜、一人暮らしの女性の部屋に突如一匹の犬が現われてはじまる物語。せまくうす昏いアパートの一室で、最初こそ犬の美しさを愛し庇護する彼女ですが、いつしか犬は手のつけられようもなく傲慢になっていきます。どんどんと増えていく犬たちが彼女のベッドをみたし、彼女は犬たちに奴隷同然にまで陥れられ・・・それでも、犬たちから離れられない。
彼女は思う、あの女の子なんであんなふうにあいつらと一緒にいるんだろう?なんであの子出ていかないんだろう?
なぜなら、女の子が知っている憎しみと恐れその一つひとつ、渇望一つひとつ、愛の疼き一つひとつ、欲望を必要へと変えるもの一つひとつが、犬たちの中に宿っているから。

苦しそうな音をたててきしむ愛と憎しみに、窒息してしまいそう・・・。
限界まで無駄をそぎ落とした刺すような文章が、想像力をかきたてます。
てらてらと艶めく官能。傷めつけられる肉体と、病んでいく精神。幻想的な物語はどこまでも美しく、おぞましく、私を侵す。
ときに暴力的でときに優しい犬たちは、家族であり、友だちであり、恋人であり・・・、そしてなにより私たち自身であるのかもしれません。


レベッカ・ブラウンさんと柴田元幸さんのトークショーに出かけました。
サイン本です↓


(原題『THE DOGS : A MODERN BESTIARY』)
Author: ことり
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『体の贈り物』 レベッカ・ブラウン、(訳)柴田 元幸

評価:
レベッカ ブラウン
新潮社
¥ 562
(2004-09-29)

食べること、歩くこと、泣けること・・・重い病に侵され、日常生活のささやかながら、大切なことさえ困難になってゆくリック、エド、コニー、カーロスら。私はホームケア・ワーカーとして、彼らの身のまわりを世話している。死は逃れようもなく、目前に迫る。失われるものと、それと引き換えのようにして残される、かけがえのない十一の贈り物。熱い共感と静謐な感動を呼ぶ連作小説。

濃密で、繊細で、ストレート。
物語としての贅肉をとことんそぎ落とし、心にきざみ込まれていく生の一瞬・・・脆くてささやかな、けれどかけがえのない日常がしずかに書きつけられている本です。
エイズを患っている人たちと、彼らによりそうホームケア・ワーカーの「私」。感動的なストーリーなどではなくて、ただ彼らの生活を綴っていくみずみずしい生命の記録は読んでいるだけで胸にこみあげるものがあります。

誰かにとって、「物語」はいつも救いであってほしい。
死について思いを馳せると、当たり前のようにそこにあった生がふたたび鮮やかによみがえってきて、それがとても尊いものであることに気づかせてくれます。
一つ一つがきっぱりと清潔な、硝子の箱にならべられたようなお話の集まり。これはたしかにギフトなのだと思う。

(原題『The Gifts of the Body』)
Author: ことり
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