『シチリアを征服したクマ王国の物語』 ディーノ・ブッツァーティ、(訳)天沢 退二郎、増山 暁子

とおいむかし、厳しい冬の飢えと寒さにたまりかねたクマたちは、すみかの暗い洞穴から出て、山をおりることにした。
行く手に待ち受けるのは、残忍な大公に、ばけ猫、人食い鬼。ゆうれいもいれば、魔法使いもいる。さてはてクマたちの運命やいかに。
おもしろく、やがて悲しい、クマ王国の物語。

イタリアから届けられた、ゆかいなゆかいな物語。
勇敢で心やさしいクマの王さま・レオンツィオ、発明好きのフランジパーネ、ぼんやり顔のジェルソミーノ・・・個性あふれるクマたちが、暴君の大公、あやしげな星占い師デ・アンブロジイース教授、人食いトロル、ばけ猫マッモーネなどを相手に大活躍する冒険ファンタジーです。
物語と一体となって愉しませてくれるカラー挿絵は作者本人によるものだそうで、これがほんと素敵!数えきれないくらい大勢のクマたちの絵、そのすみっこのほうに重要人物がこっそり小さく描かれているのも楽しいのです。
ブッツァーティさんといえば、暗く不条理で悪夢のような作風が印象的ですが、このお話も彼らしい残酷さやペーソスをふくんだものになっています。ただ、後味はとても晴れやか。哀しみを引きずりながらも生まれ変わったクマ王国の未来が想像できて、うれしい気持ちにみたされます。

(原題『LA FAMOSA INVASIONE DEGLI ORSI IN SICILIA』)
Author: ことり
海外ハ行(ブッツァーティ) | permalink | - | -
 
 

『神を見た犬』 ブッツァーティ、(訳)関口 英子

評価:
ディーノ ブッツァーティ
光文社
¥ 821
(2007-04-12)

とつぜん出現した謎の犬におびえる人々を描く表題作。老いたる山賊の首領が手下にも見放され、たった一人で戦いを挑む「護送大隊襲撃」・・・。モノトーンの哀切きわまりない幻想と恐怖が横溢する、孤高の美の世界22篇。

イタリアの作家、ディーノ・ブッツァーティさんの短編集『コロンブレ ほか』から22編をえらび訳したもの。
『天地創造』にはじまり、『この世の終わり』で幕をおろすこの本は、まるで世界の深淵に生み落とされた悪夢のようです。どれも短いお話なのに、ひとつひとつの‘闇’が濃くて深くて、心をゾクゾクと震えさせるものばかり。
奔放な想像力で、時おり‘全能の神’や‘聖人’目線をとり入れながら、人間の小ささや愚かさ、そして無力さを闇の奥からつぎつぎにうかび上がらせてゆきます。
私がもっとも印象的だったお話は『七階』。

『七階』
三月のある朝、主人公ジュゼッペ・コルテは有名な療養所のある町に降り立つ。
彼の症状は初期のごく軽いものだったが、そこはその病気の専門病院で、人に勧められたのだ。
そこでは病気の程度によって各階がふりわけられ、最上階の七階はもっとも症状の軽い患者たち。病気が重くなるにつれ、下の階へと降ろされる。二階ではきわめて重症、一階ともなると一縷の望みもなくなってしまう。
コルテは七階に入院し、自分はすぐに退院だと思っているが、ふと起こした親切心で六階に降り、その後いろいろな理由をつけられて階を降りていくことに――・・・

人の力ではどうしようもない、得体の知れない大きな力に引っぱられる怖さ。
その恐怖は『コロンブレ』、『神を見た犬』、『呪われた背広』などのお話にもみられ、不思議だったり幻想的だったりするのに人間の本質をついてくる、そんな現実的でいごこちの悪いような感覚がつきまといます。
作者の破滅への憧れ、人間への皮肉めいたまなざしが、この本をたんなるブラックユーモアに終わらせない、質の高いものにしているように感じられました。

(原題『IL COLOMBRE E ALTRI RACCONTI』)
Author: ことり
海外ハ行(ブッツァーティ) | permalink | - | -