『「きよしこの夜」が生まれた日』 ポール・ギャリコ、(訳)矢川 澄子

それは、一ぴきのネズミのいたずらからはじまった。
聖なる歌「きよしこの夜」のルーツをたずねて、愛と幻想の作家ギャリコが描く、ささやかでチャーミングな珠玉の記録文学。

聖なる歌「Silent Night(きよしこの夜)」のふしぎなルーツをたどるお話です。
いまや世界じゅうで親しまれているこの有名な歌の誕生のきっかけが、パイプオルガンのふいごをかじった一ぴきのネズミだったなんてびっくりします。
オーストリアの小さな町・オーベルンドルフの聖ニコラ教会。
ネズミがあけた孔のおかげでオルガンが故障して、その夜のだいじなクリスマスのミサで賛美歌の伴奏ができなくなってしまったのです。そこで助任司祭ヨゼフ・モールが書いた一篇の詩に、友人でオルガン奏者のフランツ・グルーバーが急遽メロディをつけ、ギターを伴奏に12人の子どもたちと歌われたのが「きよしこの夜」のはじまりだそうです。

では、世界の片すみで、まずしい無名の若者たちがつくった‘まにあわせ’の一曲――かりそめのその小曲が、どんなふうに世界じゅうに広まったのか?
ちいさなちいさな聖なる歌は、その後もささやかな偶然をいくつもかさね、ふしぎな運命をたどります。
そして歌はどんどん広まって、一人歩きし、あちこちの歌曲集に載ることになっても、モールとグルーバーはけっして自分の著作権を主張したりはしなかった・・・ 素朴で無欲なふたりの美しい魂が聴く人の心のひそかな琴線にふれ、この歌は国も時も宗教さえもこえて人びとに愛される歌になったのかもしれません。
敬虔でおごそかなクリスマスの星空にしみわたるような奇跡の物語。
本をとじたあと、冴えざえした夜気のなかで「きよしこの夜」を口ずさみたくなります。
 
きよしこのよる ほしはひかり
すくいのみこは みははのむねに
ねむりたもう ゆめやすく

(原題『The Story of Silent Night』)
Author: ことり
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『ほんものの魔法使』 ポール・ギャリコ、(訳)矢川 澄子

世界じゅうの魔術師が集まる町マジェイアに、ある日犬を連れた旅人が現れた。アダムと名乗り、町で出会った少女を助手に、魔術師名匠組合加入のため選考会に参加する。事前審査は見事にクリア。しかし彼のマジックのネタが、分からない。みんな不安になってくる。彼はまさか・・・?不穏な空気の中、本選が始まる。
ほんものの魔法とは何か。ユーモラスで愛に満ちたファンタジー。

マジェイアは、世界の魔術師がつどう魔法都市。
でも、そこで競われている魔法とはすべて種明かしのできるトリックでした。その町にある日、ものいう犬をつれたほんものの魔法使・アダムがやってくるお話です。
マジェイアはいっけん華やかな町だけど、人びとは秘密主義で、権力を争いあい、そのうえとても排他的。アダムが披露したほんものの魔法をはじめこそ驚きのまなざしで賞賛するものの、しだいに気味悪がって、自分たちの理解の及ばないものを排除しようとしはじめます。

そんなまわりの不穏な空気にも、ひょうひょうとして動じないアダムが素敵。
助手になった女の子のジェインもほんものの魔法が信じられず、アダムをピクニックにつれ出し、仕掛をおしえてもらおうとしますが――・・・
「わからないかい、ジェイン。われわれのまわりには魔法がみちみちてるってことが。そのうちのひとつとして説明がつきやしないし、誰ひとりこの秘密の真相を実際に知っている者はないんだ」
ほんものの魔法使が、この世がどんなふしぎな魔法にみちているかをやさしく語る、真昼のまどろみのひとときがとてもみずみずしい。ジェインの心がどんどん目覚めて、きれいな色つきになっていくみたい・・・。

誰もが自分のなかに「空想の魔法」をもっているんだよ、っていうメッセージが伝わってきます。まわりの魔術師たちがドタバタと焦ったり画策したりしているから、アダムの言葉はことさら際だち、しっとりと胸に届くのかしら。
ものいう犬のモプシーの可愛さも忘れがたいです。もこもこの尨犬で、ぱっと見には毛のかたまりにしか見えないモプシー。でも彼はたびたびアダムを危機から救ってくれる頼もしい相棒で、楽しいファンタジーをいっそうワクワクと心躍るものに仕立ててみせてくれています。
さいごになってしまいましたが、きらびやかな魔法と中世ヨーロッパの雰囲気を豊かに伝えてくれる矢川澄子さんの翻訳がほんとうにほんとうに、すばらしく美しいです。

(原題『The Man who was Magic』)
Author: ことり
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『猫語の教科書』 ポール・ギャリコ、(訳)灰島 かり

評価:
ポール・ギャリコ,灰島 かり,Paul Gallico
筑摩書房
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(1995-07)

人間の家を支配するためには、自分の魅力をどう人間にアピールすべきか、知っていなくてはなりません。表情、姿勢、しぐさ、顔や体の動き、全部を使って、自分の魅力を輝かせるの。だって猫はどんなときでも、妖艶でしとやかで、謎と魅惑に満ち、セクシーで肉感的で、快活で愛敬あふれ、おもしろくて人好きがして、愛の魔法で心かきみだし、心をそそり心を満たす、ほれぼれとかわいらしい存在であり続けなくてはならないんですから。(『CHAPTER 7』)

驚くなかれ・・・猫の、猫による(!)、猫のための(!!)マニュアル本です。
人間の家をのっとるための手引き、(猫が)より快適に暮すための人間のしつけ方、魅惑の表情の作り方・・・などなど、猫たちに必要なレッスンがことこまかに書かれてある本なのです。
これは人間が「猫ってかわいいな〜」と思うための本ではありません。猫を知るための本、でもたぶんないのでしょう。
私は自分が「猫」になったつもりで読んでみました。
だって、猫が猫のために書いてるんだもの、そうするほかないでしょう??

猫にならなければ見えないことが、世界にはたくさんたくさんあるのです。

(原題『THE SILENT MIAOW : a manual for kittens,strays,and homeless cats』)
Author: ことり
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『さすらいのジェニー』 ポール・ギャリコ、(訳)矢川 澄子

評価:
ポール・ギャリコ
大和書房
¥ 2,484
(1983-01)

目覚めたとき、まっ白な猫になっていた、8歳の少年ピーターのお話です。
それとは気づかないばあやに雨のそぼ降るロンドンの町へ放り出されてしまった白猫ピーターは、姿は猫でも心は人間の男の子のまんま。無情な人間たちに追われ、いじわるなボス猫と渡り合い、傷ついて――でも、やさしい雌猫のジェニーと出逢い、愛と冒険の旅にでるのです。

大の猫好きで知られるポール・ギャリコさんの、すてきで楽しい大人の童話。
このお話一ばんの魅力は、なんといっても孤高の雌猫・ジェニーの佇まいです。
気位が高く、由緒正しき血統と誰にも所有されない自分に誇りをもち、そしてなにより愛情深い。凛としなやかな身のこなしのジェニー。そんな彼女にピーターが、ミルクの舐め方からねずみの捕り方、食後の身づくろいのしかたまで、猫界の手ほどきをうける場面が好き。(だって、私まで猫になってしまい、ジェニーに教えてもらっているみたいな気持ちになるんだもの!)
「こんなふうにして、まずからだをまるくして横ずわりになって半分寝そべるようにして、もうちょっと姿勢を低くしてごらんなさい。そう、それでいいの。右足をうんとふんばって、左足はもうすこし胴に引きつけて、じゃまにならないようにするの。そこよ。ほうら、からだがしぜんとカーブして、ちゃんととどくようになったでしょ。そうやって背中と腰の左半分をすっかりなめたら、つぎは反対向きになって、同じことをすればいいの」
その後2匹は船に潜り込み、ジェニーの故郷・グラスゴーを目指します。とちゅう死と隣り合わせなこともあって、このお話はたしかにドキドキと胸おどる冒険譚といえますが、でもけっしてそれだけではない、なんとも甘やかな哀しさが最後に心を濡らしてゆきます。男の子と雌猫の、時空を超えたすばらしい愛のファンタジーです。

なお、『ジェニィ』というタイトルで訳者ちがいの本も出版されています。
私個人は、矢川澄子さんのなめらかな訳文の優雅なひびきが感性にぴったりで、挿絵も素敵なこちらの本をえらんでよかったと思いました。

(原題『JENNIE』)
Author: ことり
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『セシルの魔法の友だち』 ポール・ギャリコ、(訳)野の 水生

花栽培の農家に住むセシルは、ペットショップで出会った「てんじくねずみ」に、たちまち心を奪われる・・・。
セシルの成長にあわせた4つのお話を収録する。小さな動物と少女の間に、魔法の時を、奇蹟の時をもたらす作品集。

なんてかわいらしいお話なのでしょう!
南仏の小さな町カンヌを舞台に、少女セシルと、とびっきりのアビシニアンてんじくねずみ・ジャン=ピエールがくり広げる‘恋’の物語。
両親の愛情をいっぱいに受けてそだつセシルが「いちばん大切な存在(父さん母さんをのぞいて)」のジャン=ピエールに出逢ってからの日々は、地中海にふりそそぐ日ざしのようにあたたかで柔らかく、そして波乱万丈です。4つのエピソードのうち、3つめの『ジャン=ピエール、世界をめぐる』がこの本一ばんの山場。最高におもしろくて、ドキドキしながらページをめくった私でした。

心やさしい少女の視点から描かれていく世界の美しさ、すばらしさ、繊細さ。そんななかに作者はこっそりと大人のずるさや人間の心の弱さなどをしのばせています。
せつない場面もたくさんだけど、でも読後につつまれるのはたっぷりとした幸福感。セシルとジャン=ピエールの愛と信頼は、さまざまな奇蹟をよび起こすのです。
魔法・・・それは誰もが自分のなかにもっている、ちょっぴり不思議な力なんだね。

(原題『JEAN-PIERRE OMNIBUS : THE DAY THE GUINEA-PIG TALKED,THE DAY JEAN-PIERRE WAS PIGNAPPED,THE DAY JEAN-PIERRE WENT ROUND THE WORLD,THE DAY JEAN-PIERRE JOINED THE CIRCUS』)
Author: ことり
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『雪のひとひら』〔再読〕 ポール・ギャリコ、(訳)矢川 澄子

評価:
ポール ギャリコ
新潮社
¥ 460
(1997-11)
女の一生、と聞いてあなたが連想するのはどんな本?
たとえば江國香織さんは、ある本のなかで、「女の一生、というと、たぶんモーパッサン(あるいは林芙美子、有島武郎あたりか)を連想するのがまっとうというものなのだろうが、私は断然バーバラ・クーニーを連想する。」と書かれています。
私の場合はこの『雪のひとひら』がそう。初めて読んだのはもうずいぶん前だけど、以来ずっと、女の一生、というとまっさきに思いうかべてしまいます。

この世に生まれ、結婚し、子を育て、年老いて死ぬ・・・いわばどこにでもありそうな女の一生が、ある冬の日に空から舞いおりた雪のひとひらの生きざまを通して、じつに純粋に、こまやかに描かれていく物語。
いかなる理由あって、この身は生まれ、地上に送られ、よろこびかつ哀しみ、ある時は幸いを、ある時は憂いを味わったりしたのか。
誰にともなく問いかける雪のひとひらに、最後にかけられたやさしいことば・・・その甘美なささやきは、ほんとうに心強く、読む人をあたたかなものでみたしてくれるはず。

そしてこれは、矢川澄子さんの翻訳がすばらしく美しい本でもあります。どの場面のどの文章にも、これ以外ありえない、と思わせる珠玉の日本語がえらばれていて、そのあまりにゆき届いた的確さに心がふるえてしまうほど・・・。
翻訳された文章というのは、読んでいるとどうしても不自然な言いまわしに引っかかってしまうことも。でも、矢川さんの訳された文章に違和感を感じたことは一度だってないのです。これってすごいことだと思いませんか?

あとひと月もすると、ことしも雪の季節。
はるかな空の高みから、ふわふわ舞いおりてくる雪たちのなかに、いつも‘彼女’をみつけたくなってしまう私です。

(原題『SNOWFLAKE』)
Author: ことり
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『七つの人形の恋物語』 ポール・ギャリコ、(訳)矢川 澄子

評価:
ポール・ギャリコ
角川グループパブリッシング
¥ 540
(2008-08-23)

虚と実、仮面と素顔とが第一幕で隣り合う人形芝居の舞台の内と外で演じられる、キャプテン・コックとムーシュの波乱に富んだ愛の物語『七つの恋の物語』。
代表作『スノーグース』も収録、ギャリコファン必携の一冊。

ほうう・・・ため息。読み終えて、しばしぼんやりと放心してしまいました。
物語は、生きる望みをうしない、セーヌに身を投げようとしている女性・ムーシュに、七つの人形がかわるがわる語りかけてくるところから始まります。
個性ゆたかな七つの人形となかよくなって、謎めいた一座の仲間入りをすることになるムーシュ。七つの人形を操っているのは、じつはキャプテン・コックという残忍な男なのですが、とても無垢なムーシュは目の前にいる人形をそのままの人格として受け入れてしまえます。やがてムーシュと人形たちの舞台は大評判をよび・・・。

自分がもち得なかった純粋さをもったムーシュを汚したくて、無理やりに身体をうばい、夜ごとムーシュに屈辱を与えるキャプテン・コック。そんな彼は憎むべき存在だけど、どんな夜も、明けてみれば七つの人形たちはムーシュに生きる喜びをよみがえらせ、様々な歌や物語をつむいで彼女との愛を深めていきます。
七つの人形――にんじんさん、ジジ、巨人アリ、レイナルド、デュクロ博士、マダム・ミュシュカ、ムッシュ・ニコラ――の個性はどれも、キャプテン・コックが本来もっている‘魂’なのですよね。そしてラストのシーン・・・心が震えて、思わず泣いてしまった私です。荒々しいふるまいとゆがんだ欲望で表現されてしまった、けれどこれはひとりの人を長いあいだ愛し続けてきた、まぎれもない愛の物語だと思いました。

「あなた、すごくおもしろいんですのよ。その娘はいろんな人形とおしゃべりするんですけど、その陰には一人の男がいるわけでしょ。それがまた幻の男で、だれも姿を見たことがないんですよ。きっと気違いみたいにその娘を愛してるんでしょうね。」

(原題『Love of Seven Dolls』)
Author: ことり
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