『野ばら―小川未明童話集』 小川 未明、(絵)茂田井 武

『野ばら』、『月夜と眼鏡』、『からすの唄うたい』、『ある夜の星たちの話』、『雪来る前の高原の話』、『隣村の子』、『おさくの話』、『ゆずの話』。
8編を収めた小川未明さんの童話集。

たおやかな日本語と灯るようなさりげなさに、心がいつしかうるおっていく・・・。
おはなしを聞かせてくれるおじいさんのそばで耳をかたむけているような、そんな気持ちで読んでいました。
動物がことばを操ったり、星やレールなど生命をもたないものたちが会話をするお話でさえ、現実から離れすぎない肌触りを感じます。するどく社会をみつめていても、ほの暗いかなしみのなかでも、未明さんのお話にいつもやさしさがにじむのは、人間を愛し、自然を愛し、平和を愛した心が根づいているから。

戦争のむなしさを、淡い夢と枯れてしまった野ばらにかさねた『野ばら』、からすと飴売りのおじいさんの変わらない友情がしみる『からすの唄うたい』、心やさしい兄さんへの心情がせつなくうかび上がってくる『ゆずの話』がとくに好きです。
茂田井さんの版画は、挿絵と装飾の中間、といった趣きで、お話がかき立てる無限のイメージをそこなうことなく、素朴ななつかしい雰囲気で読む人をそっとつつみ込んでくれます。
Author: ことり
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『花々と星々と』 犬養 道子

そして私自身は、(中略)小さな女の子として彼らのまん中にいた。彼らの中の、たとえば岸田劉生や武者小路実篤や長与又郎や戴天仇や古島一雄が、いったい、どう言う人たちで、大正・昭和の歴史の形成に、どんな重い役割を持つ人々であったのか、小さい女の子は何ひとつ知りはしなかった。小さい女の子にとって、彼らは、人生の最初の日々をこの上なく充たされたものにつくり上げてくれ、心の中にはきらめきを与えてくれる、花のごとく星のごとき存在、ただそれだけであったのだ。父や母や祖父や祖母は、とりわけて色調ゆたかな花であり、ひときわ輝く星であった。(あとがき)

可憐なタイトル、美しいカリグラフィーで彩られたおしゃれな装丁――
ずっと以前から読みたいと思っていたこの本は、五・一五事件で兇弾に倒れた犬養首相の孫にあたる道子さんの自伝です。
・・・ここに登場する少女(道ちゃん)の、なんて清潔でのびやかなこと!
全14編のうち、冒頭の『陶器の人形』で私は完全に彼女の虜になってしまいました。

幼い道ちゃんにとって一ばんの仕事は、毎年クリスマスに一人ずつ増えていくお友達――すなわち人形――に、両親に手伝ってもらいながら性質と名前を「さがし出して」やること。
ある日、クリスマスでもないのに外国から陶器製の美しい人形が贈られてきます。いつものように名前をつけてあげなくては・・・そう思ったのに両親はその陶器の女の子だけは道ちゃんから遠ざけてしまいました。よけいに近づきたい道ちゃんは、ピアノのうえに手をのばすけれど、人形は手を滑り――・・・
陶器の鮮やかな色彩と光沢。それが砕々になった姿。現状を理解するには彼女はまだ幼すぎて、道ちゃんは底知れぬ後悔のなかで懇願します。「時間を戻してよ」
女中が時計の針を戻していたように、時間を戻したら陶器の人形も自分の失敗も、きっとすべて元にもどるもの・・・。でも父は彼女の絶望と恐怖を取りのぞいてやれないのを悲しむようにしずかにこう告げるのです。
「出来ないんだよ、道ちゃん。時を戻したり、前の時に戻ったりすることは、だれにもパパにも出来ないんだよ」
私たちはずいぶん長い間抱き合ったままでいた。私はあのときのことをよく覚えている。ほんとうによく覚えている。やり直しのきかぬ人生の恐ろしさをはじめて知ったあのときのこと。時の容赦ない流れの上に生きている人間が共通して持つあわれさを――とりもなおさず偶有のあわれさを――はじめて味わったあの日のこと。蝉しぐれ、紺の香。父のかすかな汗の匂い。

この本には、もう元にはもどせない過去の時間がきらきらとまたたいています。
白樺派の作家である父のもとには、武者さんや芥川(龍之介)さんがたずねて来る。岸田さんは父と相撲をとるし、石井(桃子)さんは祖父の書物整理の手つだいで登場する。愛と教養にみちた遠くはかない日々たち。
やがて首相となった祖父は暗殺され、日本は灰色一色にぬりつぶされていく――
砕けた陶器の人形のように、ゆがんだ歴史も、けっして元にはもどせない。

私はこの本を、犬養首相の孫の自伝、というよりも一人の恵まれた聡明な少女の成長物語として読みました。
出生の華やかさがもたらす不便や苦労、祖父のショッキングな最期で負った哀しみの深さはとうてい計り知れないけれど・・・。
ただ、仲睦まじく想像力豊かにそだててくれた両親のたっぷりの愛情、子ども扱いすることなくほんものの精神を教えてくれたたくさんの個性的な白樺派の大人たち・・・そんな花々と星々にかこまれた自由な空気のなかですこやかに成長していく少女はかわいらしい朝露をふくんだつぼみのようにみずみずしくて、かけがえのない財産をほんの小さな頃から惜しげもなく与えられていたことが、とても眩しくうらやましくうつったのです。
Author: ことり
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『ルームメイト』 今邑 彩

私は彼女の事を何も知らなかったのか・・・?
大学へ通うために上京してきた春海は、京都からきた麗子と出逢う。お互いを干渉しない約束で始めた共同生活は快適だったが、麗子はやがて失踪、跡を追ううち、彼女の二重、三重生活を知る。彼女は名前、化粧、嗜好までも替えていた。茫然とする春海の前に既に死体となったルームメイトが・・・。

図書館でなにげなく手にした本。面白かったです。
ルームシェアの相手がとつぜん姿を消し、その後彼女が多重人格者だったことが判明して・・・というミステリー。(書かれたのは少し古く、1997年だそうです)
おなじ部屋で暮していた麗子が、じつはいくつもの名前といくつもの職業、いくつもの家をもっていたことが少しずつ明らかになっていくのです。
お話のゆくえが気になり、どんどん頁をめくりました。途中まんまとミスリードされてしまうぶぶんもあったり・・・計算しつくされた構成(展開のタイミング)が読ませます。

そうして迎えたラスト・・・。
こちらの文庫版では、いったん物語を閉じたあと、「文庫版あとがき」を挟んで「衝撃のラスト」なるもうひとつの結末が封印されています。
私はこのラストのモノローグが、うーーん、必要かしら??と思ってしまいました。
「あとがき」の前で終わったほうが、ハッピーエンドのなかに不穏な翳が揺らめいていて、読み手がさまざまに想像できるぶんミステリアスなのになぁ・・・そう思うのは私だけでしょうか。
Author: ことり
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『ジャーニー』 長田 弘、(絵)渡邉 良重、(ジュエリー)薗部 悦子

評価:
長田 弘,渡邉 良重,薗部 悦子
リトル・モア
¥ 2,160
(2012-10-27)

日本を代表する詩人であり、傑作絵本も数多く手がけてきた、長田弘。
絵本『ブローチ』で世界の人々を魅了し続ける、デザイナー渡邉良重。
ヨーロッパなど国内外で高い評価をうける、ジュエリー作家薗部悦子。
言葉と絵とジュエリーが紙の上で輝きを放つ、類い稀なるコラボレーション絵本。

森の奥のひそやかな泉を思わせる、しずかでおしゃれなアート絵本です。
センスよく配された上品で愛らしい絵とジュエリー、そのあいまを蝶ちょのように戯れるうつくしい言葉。
きらきら、ひらひら・・・、またたくようにつむがれてゆくひととき。
ページをめくり絵本の奥へと分け入るほどに、心が穏やかに澄んでいきます。

花の幻が消えた
白い石の環が
金色にかがやいた

五人の女が野に立っていた
白い石を手のひらに
心臓のように一つずつ持ち
静かに立っていた
Author: ことり
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『イソップ物語―13のおはなし』 いまい あやの

美しい色づかい、ユニークな造形――今、注目の絵本作家いまいあやのがイソップ物語から13話をセレクトし、イマジネーション豊かにえがきました。さあ、あたらしいイソップの世界の幕開けです。

表紙を縦にひらいて、上へ上へとページをめくっていく独特のつくりです。
見開き2ページでひとつのおはなし。上側にイラスト、下側に文章がレイアウトされていて、まるで美しい紙芝居をみているよう。
滑稽な動物たちが織りなすなじみ深いイソップ童話が、きょとんと幻想的な絵によって、魔法をかけられたみたいに鮮やかに生まれ変わっています。
『ライオンとネズミ』、『ネコとトリたち』、『キツネとブドウ』の絵がとくに好きです。
Author: ことり
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『流跡』 朝吹 真理子

評価:
朝吹 真理子
新潮社
¥ 1,404
(2010-10)

淡いろの花びらのようにはかなく舞い散る言葉のかけら。
美しい文字の羅列が目の前を流れては通りすぎ、あとにはただ、銀の糸水を引きながらそぼ降る雨や、ひやらひやらと横切ってゆく金魚の尾ひれの残像がのこる。

忘れ去られた夢のような、輪郭をもたない世界にうつらうつらと身をまかせることの、その心地よさ。定まらずに揺れつづける瞬間を感性の網ですくいとり、「ほら、あなたも見憶えがあるでしょう?」とそっと差し出される懐かしい季節のおもかげ・・・。
私の前を、音もなく通りすぎていった言葉の軌跡が美しくていとおしくて、なんども頁をさかのぼっては本の綴じ目から押し流れ、はみだしてゆく文字を追いました。

溶解し、ちりぢりに流れてゆく文字は、しかしどこへ――
Author: ことり
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『かさ』 太田 大八

今日はいちにち、朝からの雨。
開け放した窓からはいってくる雨の音、雨の匂い。
雨の気配が充満するしずかな部屋で、文字のないこの絵本をひらきました。

赤いかさをさした女の子が、おとうさんのかさをもって駅までおむかえにいく絵本。
文字はなく、赤いかさ以外は彩りもないけれど、つややかな音・色・匂いがひらいたページからしっとりとあふれてきます。
池の水面にうまれる無数の波紋、ぱたぱたとかさをうつ雨の音、びしょ濡れの犬がからだをふるわせてまき散らすしずくたち・・・
湿気をふくんだ空気の色、家路をいそぐかさの群れ、雨とドーナツのまざった匂い、雨音でくぐもった大通りの自動車の音・・・

雨の日はあらゆるものが研ぎ澄まされ、色濃い気配を放ちます。この絵本はすこし淋しそうな雨ふる町の夕方の情景を、豊かに伝えてくれています。
ぶじに大好きなおとうさんに会えた女の子。
ふたりで歩く幸せな帰り道――すてきなより道も――に心がにっこりほころびました。
Author: ことり
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『唇に小さな春を』 稲葉 真弓

生と死、光と闇の間に遍在するさまざまな色。私たちにあまりに身近でありながら日頃意識することのない、ふとした瞬間にたちあがるひそやかな色。様ざまな事象が醸し出す「色」が小さな愛おしい物語を静かに語りかけます。
単行本未収録の、色のある掌編も3編収録。

日々過ぎていく時間を彩る、ひそやかな「色」たちの掌編集です。
記憶にそっととどまった美しい瞬間や忘れられない思い、情景がすこしずつお話のなかでまたたいています。
色とりどりのチョコレート・アソートの装いがほんとうにぴったり・・・。
儚くて、かなしくて、とても豊か。
Author: ことり
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『髪飾りの少女』 秋葉 舞子

評価:
秋葉 舞子
リトル・モア
¥ 1,680
(2011-12-14)

山のむこうの もっと奥
誰も知らないその場所に ピンクの壁の古い家
聞こえてくるのは 少女のひとりごと

時計、ウクレレ、おなべにレース。りぼん、トランプ、ぬいぐるみ・・・
顔もみえないくらい、ずっしり重たい髪飾りをつけた少女は、いつもひとりぽっち。
だあれも家をたずねてくれないから、ある日おもいきって街へでることに。
こんなにきれいな髪飾りをつけてるんだから
みんなわたしと 友だちになりたがるわ

どこか頽廃的な香りゆらめく絵のなかから、凍りついた淋しさがにじんできます。
ドアノブのない扉のように、かたく閉ざした少女の心。
でもね、髪飾りがこわれるたびに、ほどけてゆくの。
ほんとうは・・・ ほんとうは・・・

孤独にしずむ彼女の家を、さいしょにたずねてくれるのは誰でしょう?
赤黒く空を染める夕焼けが妖しいほどに美しく、すいこまれそうです。
少女の頭にのしかかっていた髪飾りは、もしかしたら・・・いつのまにか心にたくさんついてしまったよけいなものたち。
Author: ことり
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『ご飯とおやつと道具の話』 伊能勢 敦子

難しいレシピも高級な食材も使わない。でも、ちょっとした工夫で「おうちご飯」はこんなにもおいしくなる――。そんな「暮らしを豊かにする小さなヒント」がたくさん詰まった本です。
ストックしておくと便利な「万能タレ」や、ラクチン朝ご飯を実現する「蒸籠」、季節で変える「プリンのレシピ」や「大人数でも慌てず出せるランチの工夫」まで。おうちに帰るのがしみじみ嬉しくなるじんわりエッセイと共に、たくさんの写真とレシピを紹介します。
Author: ことり
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