『夜間飛行』 サン=テグジュペリ、(訳)片木 智年

評価:
サン・テグジュペリ
PHP研究所
¥ 1,470
(2009-01-29)

郵便飛行事業の草創期、夜間の運航は常に危険をはらんだ命がけの任務であった。己の全てを賭け、夜間飛行の指揮を執る厳格な社長のリヴィエール。そして嵐の中、ただ一つの光を求めて死闘を続けるパイロットのファビアン。夜に戦いを挑み続ける男たちの一夜を追った、苦悩と希望の物語。

見上げた夜空にさんざめく美しい星々。
見下ろした大地にゆれる柔らかな町のともし火。
操縦士たちは闇に向かって飛びたち、ときに突風と豪雨をともなった嵐のなかで孤軍奮闘し、ときに満々と輝く星辰を縫って飛行する――

詩情ゆたかな文章に、孤高の精神が息づいています。
著者サン=テグジュペリはみずからも飛行士として苛烈な人生を生き抜いた人。だからこそこのようなお話が書けたのでしょうね。
『星の王子さま』で感じられたふんわりとした優しさはここにはみじんもないけれど、つめたく厳しい現実と、それにさえ揺るがない毅然とした使命感、静かに透きとおった気高い‘魂’が物語全体にあふれているのがいい。
青ざめた星の磁力のなかを旋回し、光の沃野へと上昇し、星だけが輝く静謐な雲の波間を進む飛行機・・・ファビアンが死を覚悟して夜をゆく飛行描写は美しすぎて息をのみました。宇宙の片すみで、世界から音という音が消えてなくなってしまった、そういう神々しさと心細さをあわせ持ったような読書感覚がとても印象的。
「美しすぎる」 ファビアンは思っていた。彼は密な宝物のように積まれた星々の間をさまよい歩いていた。ファビアンとその僚友以外、何も、絶対的に生きるもののない世界の中を。宝の部屋に閉じ込められ、もはや外に出ることのできない不思議の町の盗賊のように。

この本は、昨年刊行されたばかりの新訳版です。
訳文も美しく、あと、やさしく静かな鉛筆画の挿絵が、お話の透明な空気感はそのままにひととき安らぎを与えてくれるようでとてもよかったです。

(原題『Vol de Nuit』)
Author: ことり
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『人間の土地』 サン=テグジュペリ、(訳)堀口 大學

評価:
サン=テグジュペリ
新潮社
¥ 596
(1955-04-12)

ぼくら人間について、大地が、万巻の書より多くを教える。理由は、大地が人間に抵抗するがためだ。人間というのは、障害物に対して戦う場合に、はじめて実力を発揮するものなのだ。
空を飛ぶことがまだ命がけだった時代、郵便飛行機に乗り、たくさんの人びとの思いを運んでいた飛行家たちの壮絶な体験を通して、人間の本質、自然の雄雄しさを追求する自伝的エッセイ。

サン=テグジュペリ。私の永遠のバイブル『星の王子さま』を書かれた人です。
この『人間の土地』にも、思わず切りとって保存したくなってしまうほど、心をうつ文章がザクザクうずもれています。「あっ、この文章のニュアンスは『星の王子さま』にもあった!」なんて気づくぶぶんもたくさんあって、大好きな物語と根っこのぶぶんでつよく結びついていることもすごくよくわかった本。
誰かの言動、心の動き、人間をとり巻く自然たち・・・そこから神秘のことばを聞きとってしまう著者。彼はなんて‘目覚めた人’なのかしら・・・。
ここに書かれている思いのすべてが、素直な水のように心にしみる。彼が見た夜空や星々や砂漠がファーっと目の前に広がる。孤独な空の上で、なおも人間というものを信じ愛してやまなかった著者が遺してくれた、まごうかたなき「人生の指針」。

経験はぼくらに教えてくれる、愛するということは、おたがいに顔を見あうことではなくて、いっしょに同じ方向を見ることだと。ひと束ねの薪束の中に、いっしょに結ばれないかぎり、僚友はなく、同じ峰を目ざして到り着かないかぎり、僚友はないわけだ。

(原題『TERRE DES HOMMES』)
Author: ことり
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