『お気に入りの孤独』 田辺 聖子

風里(ふうり)は31歳のファッションデザイナー。東神戸の金持ちの御曹司・水野涼と結婚して3年になる。涼は、なんでも母親に相談するマザコン男だが、風里はそれも可愛いと思う。ある日、昔の男友達に誘われて行った写真展で知り合った男に好感を抱く。そんな時、涼の女性関係の噂を耳にするが・・・。
甘やかで贅沢な暮らしにさす影、忍び寄る愛と背中合わせの孤独。正直な生き方を求める女の長編恋愛小説。
Author: ことり
国内た行(田辺 聖子) | permalink | - | -
 
 

『薔薇の雨』 田辺 聖子

年下の男との恋に落ちて5年。新鮮さがいつか馴れ合いになり、ときめきは穏やかな親近感に変わった今、留禰(るね)は別れが近いと知る。もはや止めることができない恋の終わりを受け入れようとする女、その心に溢れくる甘やかな悲しみを描いた表題作ほか、恋愛に翻弄され人生に行き惑う男女のありさまを、抒情豊かな筆致で描き上げた5篇。
芳醇な味わい、深い余韻。まさに恋愛小説の傑作。

『鼠の浄土』、『お手紙下さい』、『良妻の害について』、『君や来し』、『薔薇の雨』――田辺さんらしい、柔らかに辛辣なお話の数々です。
どれも主人公は40代なかば以降の中高年の女性たち。世間の風当たりが強いハイミスや生活に疲れきった専業主婦・・・ともすればどんよりと暗くなりそうな暮しをしている女性たちなのに、田辺さんが描くとまったくそうはならないから素敵!
男の人とのぽんぽんはずむ会話、日々のなかでひょいと見つける小さな幸せ。
たくさん経験を積んできた世代だからこその勘のよさややさしさは時に哀しくもあるけれど、読んでいると浮きたつような前向きさがにじみ出て、短篇ごとに多彩な色香がただよってきます。

「うーむ。何ていうか、幸福の壜詰をちょいと指で舐めたような気がすんの、守屋サンと会ってるとね。指をつっこんで甘い味をこっそり舐めてる、という・・・」(『薔薇の雨』)
Author: ことり
国内た行(田辺 聖子) | permalink | - | -
 
 

『一生、女の子』 田辺 聖子

評価:
田辺 聖子
講談社
¥ 1,470
(2011-05-27)

一生、輝き続ける秘密が、ここにあります。
恋と仕事、多くの愛情に彩られた人生を送る生涯現役の女の子から、あなたへ。女性の素晴らしさ、気高さ、可愛げを身につけて、笑いながら生きる秘訣を伝えます。

田辺聖子さん、というお名前から私がいつも連想するのは「かろやか」という言葉。
漢字ではなくひらがなの「かろやか」で、まあるくて愛らしいイメージです。
戦争のさなかに青春を生き、文壇デビュー後には何百冊もの本を書かれ・・・、目の詰まった人生を送ってこられたはずなのに、田辺さんから受ける印象はふわっふわの綿菓子みたいにいつもかろやか。ばら色で、ウキウキとはずんで、もちろんお会いしたことなどありませんが、きっとその場の空気がぱあっと晴れやかになるような方なんだろうな・・・彼女の文章を読むたびに、いつもそう思います。
この本には、80歳をこえていまなお少女のように朗らかな田辺さんの‘生き方のヒント’がすてきにつめ込まれています。
ほんと、すてき・・・。私も、こんなふうに可愛らしく年をとりたい。

「あのときはわけがわからなかったけど、この年になってみると、ああ、そういうことだったんだ、そういう人だったんだと思えたりすることがある。これがまた、年を取る楽しみでもあるのよ。その年齢その年齢で、神様は本当にいろいろ用意してくださってると思う。食べ物の嗜好が少しずつ変わってくるように、男と女も、若いときに見向きもしなかったものが、『いま食べるとおいしいやん』ということもあるからね。だから、男と女が、できれば一緒に暮らしていろんな発見をしていって、うまくいったときには『よかったね』と笑い合い、死ぬ間際には心から握手して『おかげで楽しかった』『こちらこそ』って言えるようになりたいわね」
Author: ことり
国内た行(田辺 聖子) | permalink | - | -
 
 

『孤独な夜のココア』 田辺 聖子

あなたとめぐり合うことができて、よかった。同じ時間を過ごすことができて、よかった。今ではすべてがもう夢のように思われるけれど・・・。
心の奥にそっとしまわれた、甘苦い恋の記憶を、柔らかに描いた12篇。恋の温もりと儚さ、男の可愛げと女の優しさを、こまやかな言葉の網で掬いあげ、世代を超えて心に沁みわたる、田辺聖子の恋愛小説。そのエッセンスが詰まった、珠玉の作品集。

田辺さんの書かれる小説は、憧れと現実のバランスがほんと絶妙。
ホワホワの夢みごこちな雰囲気につつまれながら、ちゃんと生々しかったりするところ。お砂糖をたっぷり入れたココアなのに、思いがけず舌にのこるほろ苦さにも似ているのかも。
かろやかな語り口のこの不思議な奥深さは、きっと田辺さんにしか出せないもの、なのでしょうね。とろけそうに甘いシーンにほっこりしたり、かと思えばのどの奥が熱くなったり、放たれたひと言がぐっと胸にせまったり。
世に出たのは昭和53年だそうですが、少しもかびていない。きらきら素敵。
『孤独な夜のココア』というタイトルのお話はなく、12篇の短篇をすべてひっくるめて『孤独な夜のココア』だという、そこのところもとても素敵。
Author: ことり
国内た行(田辺 聖子) | permalink | - | -
 
 

『三十すぎのぼたん雪』 田辺 聖子

もう無邪気ではいられないけれど、大人にもなりきれていない。そんな中途半端な年頃には、恋との距離も微妙になる。はじまりかけた恋への期待に、苦い記憶がそっと忍び込んでくる。心が触れ合ったと感じた瞬間に、哀しい予感が静かに満ちてくる。たのしさやときめきの裏側にある、ものさびしさとやるせなさをしみじみ描く。恋愛小説の達人ならではの、心に優しく沁みる佳品9篇。

おおらかでみずみずしくて、ちょっぴりやるせない、田辺聖子さんの恋愛短篇集。
きゃしゃなティーカップ、ふわふわのドレスを着たフランス人形、りぼんのついた靴、レースの扇子、ばらのランプシェード・・・ピンク色の乙女チックなカバーがかけられたこんな本は、手にするだけでぱあっと気持ちが華やぎます。
年齢に関係なく、皆どこかしら可愛らしい女たち。にぎやかなおしゃべり。
書かれたのはずいぶん前(昭和53年!)でも、女性を悩ませる恋や友情や家族とのびみょうな距離は、いまも昔もちっとも変わらないのですね。
すてきなことばっかりじゃないけれど、それでもやっぱり人生はすてきだ、そんなふうに感じさせてくれる田辺さんの小説は、ちょっと元気がない時にいいみたい。
この本のなかで、私は『母と恋人』が一ばん好き。
Author: ことり
国内た行(田辺 聖子) | permalink | - | -
 
 

『週末の鬱金香』 田辺 聖子

すがすがしくて甘くせつなく、淋しい香りが匂い立った――。
若くても老いても、仕事を持ってしっとりと、ひとりで生きている女たちに訪れた恋の日々。出会いをかさね、やがて、心がやわらかくなだれ落ちるときがくる。夢のゆくえにあるものは、幸せの囁きだろうか・・・。
花の香りが漂う六つの愛の物語。

お話の結末がはやく知りたくなるものと、結末までのその過程を楽しみたいもの・・・世の小説をふたつに分けるなら、田辺聖子さんの書かれるものはいつも後者のような気がします。
長い人生の途上で、ふいに誰かと「心が寄り添ってしまう」キラキラとした一瞬。そういう瞬間が日常的な言葉でかろやかに切りとられたお話たちは、年齢をかさねたオトナならではの‘粋’がいっぱい。
解説の江國香織さんがサン=テグジュペリのこんな言葉を引用されています。
一日、また一日を伸びていける女、内心の内庭を往き来して、みずからを整えることに心する女、あくまで自分自身の立場を守って、咲きひらく自分自身の花をみいだす女、春に包まれた花の装いに眺め入る女、そういう女だけに救いがあるのである。
まさしく、田辺さんの描く女性はみんなそうで、読むたびうれしくなってしまうのです。
Author: ことり
国内た行(田辺 聖子) | permalink | - | -
 
 

『苺をつぶしながら』 田辺 聖子

評価:
田辺 聖子
講談社
¥ 1,575
(2007-08-02)

言い寄る』、『私的生活』につづく三部作最終巻は、35歳になった乃里子が結婚生活から「出所」して謳歌する‘一人の人生’のお話です。

いまの自分が一ばんきれい、昔のことはみな「あの世のこと」――乃里子さんはすっかり大人びて、ブリジット・バルドーをお手本に、のら猫みたいな「一人住みの幸福」をしっとり奔放に生きています。美しい女友達とごはんを食べる時間も、軽井沢のホテルで猫足のバスタブにゆっくり身体を沈める時間も、私にとっては恋、と言いきるそんな彼女が好き。
二人で暮らすことのよさを一度味わったからこそしみる、気ままな暮らし。たくさんの友人たちと、充実した仕事。けれどそんななかで気づかされる人生のいろんなこと、いろんな変化・・・。別れた夫・剛のぶきっちょなやさしさを読みとりながら‘すべてのものは変化していく’そのことをあらためて思います。
あのう、寝る、ということは、ですね、私の場合(というか、女の場合というか)ともかく、優しい声が出せるから寝られるのだ。やさしい声を出すキカイは、一たんこわれたらもう修繕できなくなってしまう。
いつも明るくあっけらかんとして、悩みなど蹴ちらしてきたように見える乃理子さんが‘一人の人生’の楽しさの裏側にぴったり貼り合わされたものを目の当たりにする終盤。思いのたけがほとばしるような文章では、ぞっとするような淋しさがこみ上げて涙がこぼれてしまったほど。でもそこは田辺さん、ラストはとてもステキですよ。

ふたりでいる不自由、ひとりでいる気楽さ。
ふたりでいる愉しさ、ひとりでいる孤独。
あまくて酸っぱい苺みたいな三部作。これぞ「日本の恋愛小説の底力」!
Author: ことり
国内た行(田辺 聖子) | permalink | - | -
 
 

『私的生活』 田辺 聖子

評価:
田辺 聖子
講談社
¥ 1,575
(2007-07-18)

三部作の2巻め、『言い寄る』のその後です。
乃里子さんが気の合うお金持ちの剛と結婚し、海を見下ろす高級マンションで誰もが羨む上流暮らしを始めて3年・・・剛にからだじゅう揉みくちゃにされる楽しい生活も、剛の束縛や一族との交流にだんだん息ぐるしくなっていきます。

田辺さんという人は、どうしてこれほど微妙な女ごころを文章にできるのかしら・・・。これってもしかして男性には分かりっこないのかも。けれど女性なら、誰もが分かりすぎるくらいに分かってしまうはず。
おどろきの的確さで、読むたびなっとくのフレーズたち。たとえば、
「良質の機智(エスプリ)は、沈黙にあることもある。」
「昔、寝たことがあるというだけで、なれなれしくするような男は屑である。」
「女と、いつまでも仲よくしようとすると、追いつめてはいけない。」
昔の男に出会ったときの心の内、一寸先は闇な男女の仲・・そのイチイチにあきれるほど共感し、ラストでは思わず泣いてしまったのです。けれど田辺さんの手にかかると、どんなせつないお話もぽっかりとした明るさが宿るから不思議です。
それに、乃里子さんは(それは田辺さんは、ということだけど)自分の好きなもの、きらいなものがとてもハッキリしているのですよね。○○って大好き、なんていう記述がたくさんあって、女の可愛らしさがほわっほわっとにじみ出ている感じが読み手にも気持ちよく伝わってきます。
物語はけっこうシビア。それをこんなにもユーモアたっぷりに描けるのは、田辺さんだからこそ。「ユーモア」・・そこに彼女の美学、品格を見るようです。

私だけじゃない。女はみんな、外から見えるものは氷山の一角だゾ。
だから、突如、妻に蒸発されたり、浮気されたりした夫は、アッとおどろき、髪をかき毮って、「何が何やらわかりまへん」と身悶えしたり、テレビに出て、「帰ってくれ、たのむ。悪い所は改める。この通りだ」と手を合せておがみ、男涙にくれているのだ。
それはみな、それまで女の、ある種のやさしみから、(これはあの人向きの話だから、これは言ってあげよう)とか、(これはいっても仕方なかんべえ)と類別しているのである。私は、それを女のあきらめだとも思うし、いたわりだとも思われる。


サイン本です↓
Author: ことり
国内た行(田辺 聖子) | permalink | - | -
 
 

『言い寄る』 田辺 聖子

評価:
田辺 聖子
講談社
¥ 1,575
(2007-06-16)

昭和49年から57年に出版された田辺聖子さんの恋愛小説三部作――『言い寄る』、『私的生活』、『苺をつぶしながら』――が30年ほどの時をへて、復刊されました。
装丁が、すごくきれい・・・。

この『言い寄る』のお話は一巻め。31歳の乃里子が、自分とよく似ていて一緒にいると楽しい男・剛、初めての悦楽を教えてくれた大人の男・水野、そして愛しているのになかなかなびいてくれない男・五郎のあいだでゆれ動きます。天真爛漫な女友達の美々が乃里子の恋をひょうひょうと引っかき回してくれるのも読みどころ。
着慣れたシャツみたいにするする読めちゃうお話は、魅力的な登場人物が滑らかな大阪弁でくり広げるかけひきも楽しい。そんななかに、ものごとの真理をつくような一文たちがさりげなく盛りこまれているのです。
しかし、いま、私には分った。
世の中には二種類の人間がある。言い寄れる人と、言い寄れない人である。私にとって五郎は「言い寄れない」人であった。ほんとに言い寄れるのは、あんまり愛してない人間の場合である。

このお話が30年以上もまえに書かれたなんて、びっくりします。ぜんぜん色褪せていなくて、それどころかぐいぐいお話に引き込まれてしまいました。
もうけっして若くはなく、かといって中年にはまだ遠い独身女性。
たまらなく好きで手に入れたい男と、好いてくれる男。ゆれる女ごころ。
愚図愚図していたら、いつのまにか状況はめまぐるしいイキオイで変わっていた――ちょっとした心の機微にさえうなずける場面がいっぱい。
三部作の主人公は、すべておなじ女性なのだそうです。このあとに続いていく物語で乃里子さんはいったいどんな人生を歩むのやら・・・とても楽しみです。
Author: ことり
国内た行(田辺 聖子) | permalink | - | -
 
 

『ジョゼと虎と魚たち』 田辺 聖子

『お茶が熱くてのめません』、『うすうす知ってた』、『恋の棺』、『それだけのこと』、『荷造りはもうすませて』、『いけどられて』、『ジョゼと虎と魚たち』、『男たちはマフィンが嫌い』、『雪の降るまで』。9つの物語。
短編集、といっても様々な種類のお菓子を詰めあわせた箱のようなものではなくて、成分はおなじだけれどいろんな味・・そう、サクマドロップスみたいな感じかな。
働くオトナの女たちの愛と別れを描いた中に、爽やかだけどクセのある(例えるなら、まさに薄荷キャンディ!)25歳の車椅子の女の子の恋物語(表題作)がひとつだけまざっています。

調子のいい男にふりまわされたり、情けない男をついつい許してしまったり・・・。でもまったく暗さなど感じさせないさばけた可愛らしさのある彼女たちの恋もようには「わ・・、この女ごころすっごくわかる!」と共感できるところがいっぱい。
田辺さんの表現はとても巧みで、私のなかの‘女’、それもふだんは見ないようにしている真実のぶぶんを刺激してきて何度もぎくっとさせられます。そして煮詰まりきったストーリーも最後には鳥かごの小鳥を逃がすかのようにぱっと空に放ってしまう、そんなところにもしてやられてしまうのです。
関西生まれの私のからだに吸いつくようになじむ、かろやかな大阪弁もよかった。
「恋ってやっぱりええなあ。ああ、女に生まれてほんまによかったなあ」
そんな思いが自然と口をついて出てきそうな、オトナの女のための短編集。

女は人に可愛がられるのが幸福なのだ、という神話を、女の子をもつ親は信じていますが、でも女の両手はいつも可愛がるものを求めて宙にさし出されているのではないでしょうか。(『それだけのこと』)
Author: ことり
国内た行(田辺 聖子) | permalink | - | -